サン・ラ - リフレクションズ・イン・ブルー (Black Saint, 1987) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - リフレクションズ・イン・ブルー (Black Saint, 1987)
サン・ラ Sun Ra Arkestra - リフレクションズ・イン・ブルー Reflections In Blue (Black Saint, 1987) :  

Recorded at Jingle Machine Studios, Milano, December 18 and 19, 1986
Released by Black Saint Records BSR 0101, 1987
Recording Engendered by Giancarlo Barigozzi, Paolo Lovat
Produced by Giovanni Bonandrini
All Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. State Street Chicago (Sun Ra) - 7:52
A2. Nothin' From Nothin' (Laurdine "Pat" Patrick) - 4:24
A3. Yesterdays (Jerome Kern, Otto Harbach) - 7:46
(Side B)
B1. Say It Isn't So (Irving Berlin) - 6:11
B2. I Dream Too Much (Dorothy Fields, Jerome Kern) - 5:03
B3. Reflections In Blue (Sun Ra) - 8:20
[ Sun Ra Arkestra ]
Sun Ra - piano, synthesizer
Randall Murray - trumpet
Tyrone Hill - trombone
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe, piccolo flute
Pat Patrick - alto saxophone, clarinet
John Gilmore - tenor saxophone, clarinet, timbales
Ronald Wilson - tenor saxophone
Alto Saxophone, Baritone Saxophone, Danny Ray Thompson - baritone saxophone, alto saxophone, flute, bongos
Leroy Taylor - bass clarinet, alto clarinet, alto saxophone
Carl LeBlanc - electric guitar
Tyler Mitchell - bass
James Jackson - african drums, bassoon
Earl "Buster" Smith, Thomas Hunter - drums
(Original Black Saint "Reflections In Blue" LP Liner Cover & Side A/B Label)

 本作はイタリアの老舗インディー・ジャズ・レーベル、ブラック・セイントからのリリースで、本作の1986年12月18日・19日のスタジオ録音の残りトラックは、発売が1990年になった『Hours After』として発売されました。2日間のセッションで11曲・アルバム2作分が録音され、6曲が本作『Reflections In Blue』としてすぐに翌年発売になったわけですが、これが実は『Hours After』の方がロングセラー・アルバムになり、先行発売された『Reflections In Blue』の方が比較的人気のないアルバムになっているのが皮肉です。ブラック・セイントは多くのビバップ~ハード・バップ世代のジャズマンの復刻・発掘音源リリースや新作録音を手がけてメインストリーム・ジャズの隠れ名盤をカタログ化した立派なインディー・レーベルで、日本盤でも何度も配給会社を変えてメジャー・リリースされているアルバムも多数あり、一定以上モダン・ジャズのアルバム・コレクションをお持ちの方は知らず知らずのうちにブラック・ライオンのアルバムがお手元に集まっていると思います。

 本作収録の6曲はA3・B1・B2がスタンダード曲、A1は1974年のアルバム『The Invisible Shield』が初出ですが1968年録音・1971年リリースのブラック・ライオンからのライヴ盤『Pictures Of Infinity』の配信再発から1968年にはレパートリーになっていた旧曲で、B3もやはり1956年録音・1968年発表の『Sound Of Joy』で初録音の旧曲、A2は珍しく創設メンバーで出戻りのパット・パトリックのオリジナル曲を採り上げています。本作に収録を見送られて『Hours After』に収録された5曲はガーシュイン1曲、ヴィクター・ヤング1曲、サン・ラのオリジナル曲3曲(1曲1959年の『Jazz In Silhouette』で初録音の旧曲・2曲新曲)と、全11曲のセッションのうちスタンダード5曲、サン・ラの旧曲3曲・新曲2曲、パット・パトリックのオリジナル曲1曲と、ほぼ半数がスタンダード曲で、かつ「Reflections In Blue」「Hours After」「State Street」と'50年代~'60年代の旧曲を引っ張り出してきたことからも、選曲にもバップ~メインストリーム・ジャズを意識したのはブラック・セイントからのリクエストがあったと思われます。リンク先ではA1・B1・B2の3曲(しかもA1は『Pictures Of Infinity』のアウトテイク・ヴァージョン)しか試聴できませんが、1985年1月にブラスターズのフィル・アルヴィンのソロ・アルバムで3曲のバックを勤めたのを除けば1982年9月の全11曲の「Nuclear War」セッション(『A Fireside Chat with Lucifer』『Celestial Love』『Nuclear War』の3作分)以来4年ぶりのスタジオ録音だけあって、姉妹作『Hours After』とともにスタジオ録音のサン・ラ・アーケストラだなあと、しみじみ倖せな気分にひたれます。

 アルバム全体の感じとしてはスタジオに入ると1976年の『Cosmos』や1978年の『Lanquidity』以来のコンテンポラリー・ジャズ路線、またエレクトリック・ギターの導入が板についた1979年の『Sleeping Beauty』『On Jupiter』以来というか、ずばりスタジオ盤としては前作の1982年9月セッション『Nuclear War』からの連続性が感じられ、'70~'80年代的なエレクトリック・ジャズ風の味のついた、よくスウィングするモダン・ビッグバンド路線なのですが、'83年から'86年までライヴ収録を編集したアルバムが続いて、この時期の発掘ライヴも年を追うごとにややマンネリ化が気になったので、スタジオ録音で仕切り直した新鮮味が本作と姉妹作『Hours After』を久々の快作にしています。バリトンサックスの天才パット・パトリックが負担の軽減のためかアルトサックスに持ち替えているなど、中核メンバーの高齢化を感じさせる面もありますが、パトリックはアーケストラを離れていた間に多重録音のソロ・アルバムなどを作っていたので自作オリジナル曲の採用に当たってここではアルトにしたのでしょう。'83年頃からマーシャル・アレン、ジョン・ギルモアらサックス・セクションの中核メンバーもライヴではシンセサイザー・サックスを併用するようになっていたので、本作ではシンセサイザー・サックスの使用はノンクレジットながら最新のライヴ・アレンジによるスタンダード曲の演奏がようやくスタジオ録音で聴くことができます。本作収録の「Yesterdays」、『Hours After』収録の「But Not For Me」などはアーケストラのスタンダード曲演奏では20年来の定番曲ですが、自主レーベルのサターン盤以外でのスタジオ録音は1978年以来とあって、外部スタッフに求められるアーケストラのサウンドを意識したのが本作を間口の広く、風通しの良いアルバムにする良い効果があったのは間違いなく、1978年のホロ・レコーズへの『New Steps』『Other Voices, Other Blues』のように1回の連続セッションで2作のアルバムを作る場合、当然レーベル側からのリクエストを受けながら制作し、最終的なアルバム化にもレーベル側に編集権を委任することになり、サターン盤のように企画から手配、録音、選曲、編集、プレス、配給までバンド側が行う負担を抱えずに済むのが久々に開放感のある演奏に反映したものと思われます。また本当以降のアーケストラのアルバムは1、2の例外を除いて外部レーベル側からの企画になり、アーケストラ創設から30年、サン・ラ72歳にしてようやく自主レーベル中心の活動から外部レーベルからの企画が舞いこむようになります。姉妹作『Hours After』は全編の試聴リンク先がありますので、そこでじっくりこのブラック・セイント・セッションを堪能してみましょう。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)