サン・ラ - ライヴ・アット・レッド・クリーク (Sagittarius, 2010) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ライヴ・アット・レッド・クリーク (Sagittarius, 2010)
サン・ラ Sun Ra & His Ethnic Structural Cosmo Arkestra - ライヴ・アット・レッド・クリーク Live At Red Creek, Rochester, NY (Sagittarius, 2010) :  

Recorded Live at Red Creek, Rochester, NY, August 11, 1986
Recorded by Sagittarius Inc.
Released by Sagittarius Records A-Star 03, Italy 2010 (LP, Limited Edition of 200 copies)
All Compositions and Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Untitled - 22:09
»(a1) Untitled improvisations - 14:37
»(a2) Discipline 27-II - You've Lost Your Way - Space Chants - 7:36
(Side B)
B1. Untitled - 22:01
»(b1) Untitled (Featuring Bang - vln, Edwards - eg) - 10:21
»(b2) Unidentified blues (Featuring Sun Ra, Bang, Edwards, Wilson) - 11:33
Total Time: 44:03
[ Sun Ra & His Ethnic Structural Cosmo Arkestra ]
Sun Ra - piano, synthesizer, vocals
Tyrone Hill - trombone
Marshall Allen - alto saxophone, electric wind instrument, flute, percussion
John Gilmore - tenor saxophone, electric wind instrument,  clarinet
Ronald Wilson - tenor saxophone, baritone saxophone
Eloe Omoe - bass clarinet, alto saxophone, electric wind instrument, 
Billy Bang - violin, percussion
Bruce Edwards - electric guitar
Pat Patrick - electric bass, alto saxophone
James Jacson - egyptian infinity drums, basoon
Buster Smith, Tommy "Bugs" Hunter - drums
Marvin "Boogaloo" Smith -drums, percussion
June Tyson - vocals

(Limited Sagittarius LP "Live At Red Creek, Rochester, NY" Inner sheet)

 イタリアのインディー・レーベル、Sagittariusが自社で1986年に版権登録するも、発売は2010年、アナログLPで限定200枚のみのプレスで追加プレスなし、未CD化の本作は、入手困難なこともあって(筆者もMP-3配信でようやく聴きました)、よほどのマニアでもなければ強いて聴かなくてもいい(そもそも手に入らない)リリースながら、なかなかの内容を収めた、位置づけに困るアルバムです。その事情は後述しますが、本作はサン・ラ生前にリリースされたら公式アルバムとして注目されてもいい音源でした。1986年に入って最初の録音はアーケストラではなくジョン・ケージとのデュオ録音のライヴ『John Cage Meets Sun Ra』(1986年6月6日収録)でしたが、本作までの間に6月下旬からの短期のヨーロッパ・ツアーがあり、そのうち6月28日の東ベルリンでのライヴがテレビとラジオで放送され、『A Night In East Berlin』としてサターン・レコーズからカセット・アルバムとしてリリースされました。同作はLeoレーベルから1987年にアナログLP化され、同年と1995年にCD化されています。内容はデューク・エリントン・メドレーを含むビックバンドらしいもので、そちらをご紹介できればいいのですが、残念ながら試聴リンクがなく音源をあわせたご紹介ができないので、今回は見送ることにします。

 そこで8月の帰国時のライヴ収録である発掘ライヴの本作が録音順では来るのですが、Sagittarius社といってもおそらく当時はファンの一人がバンド公認でライヴ音源を入手し、2010年になってから自主レーベルを立ち上げて限定プレスしたものと思われます。アーケストラ公式サイトでも公認アルバムとされていますから海賊盤ではありませんが、200枚限定と限りなくプライヴェート・プレスに近いものです。実物のアルバムを手にしたことがないので各種音楽サイトでのデータに依りますが、オリジナル盤はA面・B面とも「Untitled」と曲目が記されておらず、アーケストラ公式サイトでもそれを踏襲しています。本作収録の曲目が特定されたのはサン・ラのマニアの研究サイトでの検証で、A面後半(a2)の7分半が「Discipline 27-II - You've Lost Your Way - Space Chants」と判明したものの(「Space Chants」は仮題でしょう)、他は他に曲目が特定できない即興演奏曲ばかりということになります。a1はアーケストラ恒例のパーカッション・アンサンブルによるオープニング即興演奏、b1はビリー・バングのヴァイオリンとブルース・エドワーズのエレクトリック・ギターをフィーチャーした即興演奏、b2はサン・ラ、バング、エドワーズ、テナーサックスのロナルド・ウィルソンにソロ回しのある即興ブルースとなっています。エドワーズ、ウィルソンはビリー・バングとともにゲスト参加のメンバーで、10年ぶりに復帰した天才バリトンサックス奏者のパット・パトリックはエレクトリック・ベースを担当し、また'60年代初頭のニューヨーク進出後以来のドラマー、トミー・ハンターが久々に復帰しています。

 本作はサン・ラ・アーケストラのライヴ会場にふらりと立ち寄って途中で出てきたような内容ですが、臨場感、ミックス・バランスと分離の良い音質からライン録音とエア録音が適度にミックスされたマスターテープを使用していると思われ、内容の割には素人録音とは思えません。トミー・ハンターはスタジオ録音・ライヴ録音ともレコーディング・エンジニアを兼任していましたから、本作の録音はアーケストラ公認の上でハンターからバンド録音のテープを入手したものとも推定されます。明確なクレジットがされていませんが、A面2曲・B面2曲でライヴ音源としても目新しい内容となっていることから、トミー・ハンターによって編集済みのマスターテープが作成されていたとも考えられます。当時のアーケストラ=サターン・レコーズは放送音源をマスターにしたカセット・アルバムをリリースするのがやっとという経済状況でしたから、おそらくライヴ音源のリリースを求められてアーケストラがハンター録音・編集のテープを売却し、曲目はリリース時にバンド側が改めてつける、ということだったのでしょう。すぐにリリースされれば、サン・ラ生前のことですからトラックごとにアーケストラから曲目が送られてきたと思われます。しかし収録からほぼ25年後の2010年にようやくイタリアからLPのみで200枚の限定プレスというプライヴェート・プレスとなると、アーケストラ公認ではあってもすでに曲目を提供する状況ではなかったでしょうし、そこでA面・B面とも曲目表記もトラック分けもない、海賊盤まがいのリリースになってしまったというのが実情だったのでしょう。

 ライヴ音源からインプロヴィゼーション曲の編集を新曲としてまとめられたアルバムは、サン・ラ生前にも多数あります。本作に先立つ時期の収録では、Recommended Recordsからの前借り金の抵当に編集されたという『Cosmo Sun Connection』がそうでしたし、'80年代にはスタジオ録音に初出のないライヴ音源を新曲としてまとめたアルバムが増加していました。本作も'80年代のうちにアルバム化されていたら『Oblique Parallax』や『Ra To The Rescue』、『When Spaceships Appear』や『Cosmo Sun Connection』などの公式アルバムのようにライヴ音源による新作アルバムとしてリリースされる可能性のあった音源だったと思われます。ビリー・バングを始めとしたゲスト参加メンバーをフィーチャーし、なかなかの描き下ろしジャケットで発売された本作は、発表が遅れすぎたために曲目表記もなく、マニア限定アイテムになってしまった残念なアルバムです。こういう作品がいくつもある(会場録音の公認発掘ライヴなど)のが、サン・ラのディスコグラフィーをやたらに複雑にしています。録音上ではサン・ラ晩年の共演者として注目されるビリー・バングとの初共演になっているだけに、またバングをフィーチャーした本作B面はややマンネリ化したアーケストラに風通しの良い好演をもたらしているだけに、あまりにObscureな本作は私家盤同然の少数限定プレス・リリースが惜しまれるライヴ音源です。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)