宇宙の支配者ホークウィンド! | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ホークウィンド - 宇宙の支配者 (United Artists, 1971)
Hawkwind - Master of the Universe (Nik Turner, Dave Brock) (Recorded live, from the album "Space Ritual", United Artists, 1973.5) - 7:37 :  

Hawkwind - Master of the Universe (from the album "In Search of Space", United Artists, 1971.11) - 6:17 :  

Hawkwind - Silver Machine (MV, Recorded live February 13, Single A-Side, United Artists, 1972.6) - 4:39 :  

[ Hawkwind ]
Dave Brock - vocals, electric guitar, 6- and 12-string acoustic guitars, harmonica, audio generator
Nik Turner - alto saxophone, flute, vocals, audio generator
Del Dettmar - synthesizer
Dik Mik (Michael Davies) - audio generator
Dave Anderson - bass guitar, electric and acoustic guitars (on "In Search of Space")
Lemmy (Ian Kilmister) - bass guitar (on "Space Ritual")
Terry Ollis - drums, percussion (on "In Search of Space")
Simon King - drums (on "Space Ritual")
Stacia - dancer and visual artist (on "Space Ritual") 

 2024年の最新作にして通算65作『Stories from Time and Space』まで、1970年のデビュー・アルバム『Hawkwind』から55年間まったくブランクなしにライヴ活動・アルバム発表を続けている驚異のバンド、ホークウィンドほどブリティッシュ・ロック界の裏番長と言える存在はありません。ブリティッシュ・ロック界には'60年代にはプリティ・シングス、'80年代にはキリング・ジョークという裏番長的存在もいましたが、プリティ・シングスもヴォーカリストのフィル・メイが2020年に鬼籍に入り、キリング・ジョークも2015年の『Pylon』以降かろうじてインディーからのライヴ盤を発表とかつての勢いを失っているにもかかわらず、今なお毎年旧作のアニヴァーサリー・エディションどころか新作も発表し続けているホークウィンドの存在感たるや、ついにエリック・クラプトンすら近作にゲスト参加しているほどです。55年あまりの活動期間に正式メンバーだけで40名以上、ゲスト参加メンバーも30名以上とホークウィンド・ファミリーはブリティッシュ・ロック界の吹きだまりの観があり、その本格的な出発点となったのがデビュー作から現在に至るまで唯一のオリジナル・メンバーにしてリーダーのデイヴ・ブロック(ギター、ヴォーカル、1941-)と、のち脱退したり再加入したり「ニック・ターナーズ・ホークウィンド」名義で分家活動したりとバンドの名物男ニック・ターナー(アルトサックス、フルート、ヴォーカル、1940-2022)以外を一新して、ノイズ専任担当メンバー2人を加入させ、ドイツのアモン・デュールIIからジャーマン・ロック(クラウトロック)畑で鍛えたイギリス人ベーシストのデイヴ・アンダーソンを迎えたセカンド・アルバム『宇宙-の探求 (In Search of Space)』1971でした。もともとホークウィンドはデビュー作でもピンク・フロイドからの影響の強いスペース・ロックのバンドでしたが、デビュー作では2ギター、サックス(&フルート)、ベース、ドラムスと比較的標準的な楽器編成から、セカンド・アルバムではギター、サックス(&フルート)、2専任ノイズ奏者(シンセサイザー、オーディオ・ジェネレーター)、ベース、ドラムスとスペーシーなサウンド・エフェクトがひっきりなしに飛びかい、元アモン・デュールIIのデイヴ・アンダーソンの持ちこんだクラウトロック直系のアイディアによって、プログレッシヴ・ロックの枠に収まらないハードかつヘヴィなサイケデリック・スペース・ロックに転換しました。アンダーソンはこの1作で抜け、後任には元ヘヴィ・アシッド・ロック・バンドのサム・ゴパール出身のレミーことイアン・キルミスター(1945-2015)が加入し、アンダーソンの残したアイディアと凄腕ベーシストのレミーの加入によって次作『ドレミファソラシド (Doremi Fasol Latido)』(United Artists, 1972)で結束を固めたバンドは、次の2枚組ライヴLP『宇宙の祭典 (Space Ritual)』(United Artists, 1973)で「全世界のヒッピーが一家に一組持っている」とさえ言われる、グレイトフル・デッドの『Live/Dead』(Warner, 1969)に匹敵するライヴ・アルバムの金字塔を打ち立てました。この曲「Master of the Universe」はレミーの強烈無比なベースが唸りを上げ、スペーシーなノイズの中をバンド一丸となって泥沼のヘヴィ・ロックに突入する、『宇宙の祭典』の爆音ライヴ・テイクこそが決定ヴァージョンでしょう。ブリティッシュ・ロックでありながら音楽性はクラウトロック、プログレッシヴ・ロックとヘヴィ・サイケの狭間にあるスペース・ロックの最高峰というのもまんざら誤解や過褒ではないのです。

 メジャー・レーベルのユナイテッド・アーティスツからアルバムを発表しながらも、ホークウィンドは徹底的にアンダーグラウンド・シーンでの活動にこだわったバンドでした。セックス・ピストルズ結成以前のジョニー・ロットンさえもホークウィンドの地方公演に地元ローディーとして参加しており、パンク・ロック時代にも(ザ・フーやモット・ザ・フープル、ブラック・サバスと並んで)パンクスから支持された数少ないバンドとされています。『宇宙の祭典』の頃にはSF作家のロバート・カルヴァートがライヴでの曲間のナレーターで加わり、また正式メンバーとなったダンサーのステイシア(「Silver Machine」のライヴ映像で拝めます)がきわどいヌード・ダンス・パフォーマンスで盛り上げる、という強烈なステージと、全英3位にまで上がったアルバム未収録シングル「シルバー・マシーン (Silver Machine)」でバンドは最初の頂点を迎えました。「シルバー・マシーン」の大ヒットから日本のプロモーターからホークウィンドの初来日公演が検討されましたが、ヌード・ダンサーがいるために来日公演が実現しなかった(初来日公演は2015年になりました)と伝えられます。セカンド・アルバム『宇宙の探求』からはシングル・カット曲はありませんが、収録曲「宇宙の支配者 (Master of the Universe)」はベーシストがレミー、ドラマーがサイモン・キングに代わったより強力なライヴ・ヴァージョンが『宇宙の祭典』に収められ、今日にいたるまでホークウィンドの代表曲となりました(もっとも『宇宙の祭典』は全曲が代表曲と言っていいライヴ・アルバムの名盤です)。ホークウィンドは初期ピンク・フロイドからの影響の強いスペース・ロックのバンドですが、クラウトロック譲りのヘヴィなサウンドによってプログレッシヴ・ロックとは微妙に異なり、やはりサックス(&フルート)をフィーチャーしたジェスロ・タルやヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター、キング・クリムゾンとはサイケデリック感覚の有無や反構築的指向によって違い、むしろロキシー・ミュージックをドラック漬けにしたようなキッチュな感覚でアンダーグラウンド感を打ち出しています。日本のロック・バンドでは裸のラリーズの1973年成立の楽曲「造花の原野」がこの「Master of the Universe」にヒントを得た曲とおぼしく、「造花の原野」はラリーズ1996年の最終ライヴまでステージ定番曲だった曲で、アレンジの幅がもっとも大きかったのが残された数々のライヴ音源から確認されますが、楽曲成立から間もない1973年の時点では曲想、リズム・アレンジとも「Master of the Universe」にそっくりです。ラリーズの曲でこれほど原曲の面影が見える曲は、あえてリトル・ペギー・マーチの「I Will Follow Him」やアモン・デュールIIの「Hawknose Harlequin」原曲をデフォルメした「夜、暗殺者の夜」くらいしかないので、このホークウィンド的「造花の原野」1973年ヴァージョンはラリーズがホークウィンドやアモン・デュールIIにいかに発想を得ていたかを示す、注目すべき音源です。 

裸のラリーズ - 夜、暗殺者の夜 (Live, 1976) - 11:35 :  

[ 裸のラリーズ Les Rallizes Dénudés ]
水谷孝 - vocals, lead guitar
中村武志 - rhythm guitar
長田幹生 - bass guitar (1973)
楢崎裕史 - bass guitar (1976)
正田俊一郎 - drums (1973)
三巻俊郎 - drums (1976)

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)