サン・ラ - ホェン・スペースシップス・アピアー (El Saturn, 1985) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ホェン・スペースシップス・アピアー (El Saturn, 1985)
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - ホェン・スペースシップス・アピアー When Spaceships Appear (El Saturn, 1985) :  

Recorded live at Squat Theater, NYC, 1982 (A1, A2, B2, B3, B4) & at Unknown location 1984-1985 (A3, A4, B1)
Released by El Saturn Records Sun Ra 101485 A/B, 1985 also released as "Cosmo-Party Blues", "Children of the Sun", "Aura". 
All compositions and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. When Spaceships Appear (Ra to the Rescue Chapter 1) - 5:48
A2. Fragile Emotions Blues (Back Alley Blues) - 4:02
A3. Drummerlistics - 2:58
A4. Children Of The Sun - 5:05
(Side B)
B1. Cosmo-Party Blues - 4:57
B2. Space Shuttle (Ra to the Rescue chapter 2) - 5:03
B3. Fate In A Pleasant Mood - 9:26
B4. They Plan To Leave - 5:57
[ Sun Ra and his Arkestra ]
(on A1, A2, B2, B3, B4 Taken from "Ra to the Rescue")
Sun Ra - piano, synthesizer, vocal
Marshall Allen - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, vocal
Danny Ray Thompson (prob.) - baritone saxophone, flute
June Tyson - vocal
Hayes Burnett (prob.) - bass
Eric "Samurai Celestial" Walker (posib.) - drums
unknown - percussion
(on A3, A4)
Sun Ra - vocal
Tyrone Hill - trumbone
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone
Eloe Omoe - contra-alto clarinet
James Jacson - Ancient Egyptian Infinity Drum (on Drummerlistics)
unknown - bass
unknown - drums
June Tyson-vocal
(on B1)
Sun Ra - piano
Ronnie Brown, Martin Banks, or Fred Adams (posib.) - trumpet
John Gilmore - tenor saxophone
Marshall Allen-alto saxophone
unknown - bass
unknown - drums 

(Alternate "When Spaceships Appear" LP Various alternate Front Covers & Side A/B Label)

 以前ご紹介した1982年収録のライヴ・アルバム『Ra To the Rescue』(El Saturn, 1983)のあとに、録音年代順に1983年3月収録の『Sun Ra Arkestra Meets Salah Ragab in Egypt』(Praxis, 1983)、CD5枚組発掘ライヴ『Milan, Zurich, West Berlin, Paris』(Transparency, 2008)、『Stars that Shine Darkly』(El Saturn, 1985)、『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, vol. 1)』(El Saturn, 1985)、『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』(El Saturn, 1985)、『Love in Outer Space: Live in Utrecht』(Leo, 1988)とサン・ラ没後の発掘ライヴ『Sun Ra & Salah Ragab / Sun Rise in Egypt vols.1, 2 and 3』(Sphynx, 2006)を挟んで、前回は『Live at Praxis 84 Vol. I』(Praxis CM 108, 1984)、『Live at Praxis 84 Vol. II』(Praxis CM 109, 1985)、『Live at Praxis 84 Vol. III』(Praxis CM 110, 1986)の三部作をご紹介しました。『Love in Outer Space~』は1983年12月の西ドイツでのライヴで発表年は'88年と遅くなりますがサン・ラ生前発表のもの、エジプトのカイロ公演を収めた『Sun Ra & Salah Ragab / Sun Rise in Egypt vols.1, 2 and 3』からが1984年録音になり、順次発売された『Live at Praxis 84』の3枚におよぶシリーズは1983年10月からのヨーロッパ~エジプト・ツアーに続くギリシャのアテネでのジャズ・フェスティヴァルに出演した1984年2月の録音で、ギリシャのPraxisレーベルからリリースされました。つまり1982年度最後の録音だった『Ra To the Rescue』のあとの1983年録音・1984年録音の上記作はすべて海外公演中に収録されたライヴ・アルバムであり、新曲オリジナル曲で固めた『Stars that Shine Darkly』『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, vol. 1)』『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』の3作もライヴ盤です。1984年4月に半年におよぶヨーロッパ~エジプト~ギリシャ・ツアーから帰国したサン・ラ・アーケストラのディスコグラフィーには、まず本作『When Spaceships Appear』が上がってきます。ところが1984年~1985年録音のA3, A4, B1のライヴを含むとされる本作の残りA1, A2, B2, B3, B4は1982年のニューヨークのスクワッド・シアターでのライヴ・アルバム『Ra To the Rescue』と重複しており、以前ご紹介した『Ra To the Rescue』は『Ra To the Rescue』と本作『When Spaceships Appear』を統合した再発売ヴァージョンで、そこでは『When Spaceships Appear』からの3曲も1982年スクワッド・シアターからのものとされていました。こういうデータの混乱があるから自主制作盤サターンからのアルバムは困ったものですが、アーケストラの公式サイトのディスコグラフィー上では2説どちらも可能性ありとして、6曲収録の『Ra To the Rescue』と『Ra To~』から5曲を再収録して(わざわざ曲名まで改題して)3曲の未発表テイクを足した8曲収録の『When Spaceships Appear』は別々のアルバムとして扱っています。録音時期が特定できず追加曲3曲に1984年~1985年録音説がある以上尊重しよう、というわけで、1982年9月セッションは『A Fireside Chat with Lucifer』と『Celestial Love』でほぼ網羅されているのにこの2枚からのベスト選曲に未発表曲1曲を足しただけの『Nuclear War』が独自のアルバムとされているのと同じです。もっともその3作の場合は、大手コロンビアに『Nuclear War』を売りこんで却下されため先に同作に追加曲を足してバラ売りした『A Fireside Chat with Lucifer』と『Celestial Love』の2作を出し、ようやくギリシャとイギリスのインディー・レーベルから本来構想していた『Nuclear War』が発売されるというややこしい事情がありました。

 しかし1985年に『When Spaceships Appear』『Cosmo-Party Blues』『Children of the Sun』『Aura』と4枚新作として出されたアルバムの場合は『Nuclear War』リリースの事情とも異なり、いずれも『Ra To the Rescue』から数曲オミットして未発表テイクを足した同一内容の改題再編集再発売盤であり、『Ra To The Rescue』未収録のそれらの曲(と追加1曲)を合わせると『Ra To the Rescue』再発ヴァージョンの全10曲になります。オリジナル・アルバムとされても『Ra To the Rescue』の全6曲中5曲を再収録、未発表曲3曲追加というと『When Spaceships Appear』は単に『Ra To the Rescue』の増補改訂版のようですが、アルバムの印象は追加曲3曲と再収録曲の配置でまったく違ったものになっています。'80年代に入ってますますリリース数の増えたサン・ラのアルバムの成立事情はこうして解説している筆者でも頭を抱えるようなもので、一度読んだだけではどなたも理解できないのではないかと途方に暮れますが、サン・ラのサターン・レーベル作品はこうした書誌的背景を整理してみてようやく位置づけのできる場合が多く、この時期サン・ラ、またサターン・レーベルでは同一音源の増補改訂で数種の改訂版を制作するのが常態化していたのは、水増しリリースによってファンにダブり買いさせるという意図もあったでしょうが、ヴァリアントによってアルバムを聴きこんでほしいというアーティスティックな目的もあったように思えます。『Stars that Shine Darkly』のAB面を分割収録して追加曲を加えた『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, vol. 1)』と『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』の3枚などはどれを一次的なオリジナル・アルバムとも言えない、3枚とも異なる印象の内容になっていることからもいずれも軽視できない、充実した内容を誇るものです。

 本作は『Ra To the Rescue』の再収録曲A1, A2に初登場曲A3「Drummerlistics」、A4「Children Of The Sun」を続け、B1「Cosmo-Party Blues」までの3曲が本作初出の未発表曲で、B2, B3, B4は再び『Ra To the Rescue』からの再収録曲になります。この再収録曲を前後に配し、『Ra To the Rescue』ではA3, B2とアルバム中盤に置かれていたハイライト曲B3, B4で終わる構成はオリジナル『Ra To the Rescue』の曲配置より効果的になっています。本作初出になる新曲のパーカッション・ナンバーA3とサン・ラ流ゴスペル・ナンバーA4ではサン・ラは楽器を弾かずヴォーカルに徹しているのがユニークで、再収録曲A1, B2がもともとの『Ra To the Rescue』ではA1, A2に連続して収められていたよりも本作でA面とB面に分割されているのとあいまって効果を上げています。『Ra To the Rescue』ではアルバム・タイトル曲「Ra to the Rescue (Chapter 1)」「Ra to the Rescue (Chapter 2)」と曲名がつけられ連続していたために曲の区切りがわからず、フリー・ジャズ系の曲だけに2曲の区切りがつかめないとやや冗長な印象になってしまっていたのです。A3, A4もアーケストラ流フリー・ジャズですが方やパーカッション・ナンバー、方やヴォーカル・コーラス曲と特色がはっきりしているのでめりはりがついています。

 やはり本作初出のB1はサン・ラのピアノ・ブルースでホーン陣はアンサンブル用員にとどまりますが、B面冒頭にぐっと泥くさい(アーシーな)ブルースを置いたのがちょうどA2の役割と同じチェンジ・オブ・ペース(口直し)になっており、『Ra To the Rescue』からの再収録曲をフリー(B2)、モダン・ビッグバンド(B3)、この時期を代表するヴォーカル入りミディアム・バラッドの名曲(B4)と配置した構成はオリジナル『Ra To the Rescue』より各曲の印象を深くしています。A面B面ともヴォーカル曲で終わるのも本作を親しみやすくしています。必ずしも本作が『Ra To the Rescue』より優れたアルバムとは言い切れませんが、本作独自の構成で聴きごたえのあるアルバムになっているのは間違いなく、単純に重複曲を抜いて『Ra To the Rescue』と(1984年~1985年録音説もある)本作初出曲を、1982年スクワッド・シアター・ライヴという前提で推定演奏順に並べ直したのではこうはいきません。本作はサン・ラ生前に新作としてリリースされており、ライヴ・アルバムといえど、単なる記録ではなくサン・ラ1985年の新作であり、意図的な選曲・編集による作品として聴くべきものでしょう。しかしメンバー手描きのアルバム・ジャケット(それも一つとして同じものはないそうです)はどうにかならなかったものでしょうか。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)