サン・ラ - ライヴ・アット・プラクシス'84 (Praxis, 1984-1986) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ライヴ・アット・プラクシス'84, Vol.I, Vol.II, Vol.III (Praxis, 1984-1986)
サン・ラ The Sun Ra Arkestra - ライヴ・アット・ザ・プラクシス'84 Live At Praxis '84 (Leo, 2000) :  

Recorded live at the Orpheus Theatre, Athens, Greece February 27, 1984
Reissued by Leo Records, UK,  Golden Years Of New Jazz GY 5/6, Recording licensed from Praxis, 2CD, 2000
Originally Released by Praxis Records, Greek, as "Live At Praxis 84 Vol. I", Praxis CM 108, 1984,  "Live At Praxis 84 Vol. II", Praxis CM 109, 1985 and "Live At Praxis 84 Vol. III", Praxis CM 110, 1986Live At Praxis 84 Vol. I (Praxis CM 108, 1984) Side 1 Live At "Praxis ´84" Part 1 - 19:36 (Leo CD Disc 1, 1-4), Side 2 Live At "Praxis ´84" Part 2 - 17:59 (Leo CD Disc 1, 5-7)
Live at Praxis 84 Vol. II (Praxis CM 109, 1985) Side 1 Live At "Praxis ´84" Part 3 - (Leo CD Disc 1, 8-10), Side 2 Live At "Praxis ´84" Part 4 (Leo CD Disc 2, 1-4)Live at Praxis 84 Vol. III (Praxis CM 110, 1986) Side 1 Live At "Praxis ´84" Part 5 - (Leo CD Disc 2, 5-7), Side 2 Live At "Praxis ´84" Part 4 (Leo CD Disc 2, 8-10)
All Composition except as noted and arranged by Sun Ra.
(Leo CD Disc 1)
1. Untitled Improvisation I - 4:20
2. Discipline 27-II / Children Of The Sun - 4:50
3. Nuclear War - 4:28
4. Unidentified Blues - 5:22
5. Fate In A Pleasant Mood - 9:22
6. Yeah Man! (Fletcher Henderson, Noble Sissle) - 2:47
7. Space Is The Place / We Travel The Spaceways / Outer Spaceways Incorporated / Next Stop Mars - 4:51
8. Untitled Improvisation II - 4:25
9. Untitled Improvisation III - 7:33
10. Discipline 27 - 8:29
(Leo CD Disc 2)
1. Mack The Knife (Bertolt Brecht, Kurt Weill, Marc Blitzstein) - 8:10
2. Cocktails For Two (Arthur Johnson, Sam Coslow) - 4:25
3. Somewhere Over The Rainbow (E.Y. Harburg, Harold Arlen) - 4:05
4. Satin Doll (Billy Strayhorn, Duke Ellington) - 6:38
5. Big John's Special (Fletcher Henderson) - 3:55
6. Carefree (Egyptian Fantasy) - 9:42
7. Days Of Wine And Roses (Henry Mancini) - 6:10
8. Theme Of The Stargazers / The Satellites Are Spinning - 8:53
9. They'll Come Back - 1:45
10. Enlightenment (Hobart Dotson, Sun Ra) / Strange Mathematics / Rhythmic Equations - 7:06
[ The Sun Ra Arkestra ]
Sun Ra - piano, organ, synthesizer, vocal
Ronnie Brown - trumpet, flugelhorn, tambourine
Marshall Allen - alto saxophone, clarinet, flute, oboe, kora, electronic wind instrument, percussion
John Gilmore - tenor saxophone, clarinet, timbales, electronic wind instrument, vocal
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, alto saxophone, flute, bongos, electronic wind instrument
Eloe Omoe - bass clarinet, contra-alto clarinet, alto saxophone, electronic wind instrument, percussion
James Jacson - bassoon, flute, oboe,
 Ancient Egyptian Infinity drum, electronic wind instrument, vocal
Rollo Redford - bass
Matthew Brown - congas
Salah Ragab - congas, percussion
Don Mumford - drums, percussion
Greg Pratt, Myriam Broche - dances, vocals 

(Reissued Leo "Live At Praxis '84" CD Liner Cover, Original Praxis "Live At Praxis '84 Vol. I" Liner Cover & Side 1 Label)

 アナログLP時代は三部作、現在はLeo Recordsからの2枚組CD化による再リリースで入手が容易になった本作は、名作揃いのサン・ラのライヴ盤でも最高の内容を誇る傑作です。サン・ラのライヴ盤はごく特殊な新曲のみによるコンセプト・アルバム(『Universe in Blue』'72、『Sub Underground』'74など)を除いて、初のフル・ライヴ作『Nothing Is...』'66(発売'66年)とそのコンプリート盤『College Tour Vol.1: The Complete Nothing Is...』 (発売2010年)以降、1970年代中盤('76年)までには、
 
『Nuits de la Fondation Maeght, Volume I & II』'69&'70 (発売'74年)
『It's After the End of the World』'70 (発売'71年)→『Black Myth/Out in Space (Complete '"It's After the End of the Worlds" Sessions,』(発売'98年)
『Calling Planet Earth』'71 (発売'98年) 
"Egyptian Trilogy '71"『Nidhamu』(発売'72),『Live in Egypt 1/Dark Myth Equation』(発売Middle 70's),『Horizon』(発売Middle 70's)
『Life Is Splendid』'72 (発売'99年)
『Outer Space Employment Agency』'73 (発売'73年)
『Concert for the Comet Kohoutek』'73 (発売'93年)
『Out Beyond the Kingdom Of』'74 (発売'74年)
『It Is Forbidden』'74 (発売2001年)
『Live at Montreux』'76 (発売'76年)
 
 --などがあり、すべてサン・ラ・アーケストラの代表作と言えるものです。また1970年代後半('77年以降)では、
 
『Unity』'77 (発売'78年)
『Piano Recital - Teatro La Fenice, Venezia』'77 (発売2003年)
『Media Dreams』'78 (発売'78年)
『Disco 3000』'78 (発売'78年)
『Sound Mirror; Live in Philadelphia '78』'78 (発売'78年)
『Of Mythic Worlds』'78 (発売'80年)
『Omniverse』'79 (発売'79年)
『I, Pharaoh』'79 (発売'80年)

 があり、さらに'80年代に入ると、本作収録の1984年2月の前月までには、サン・ラ没落の発掘ライヴを合わせれば、すでに、

『Sunrise in Different Dimensions (2LP, 発売'80年) 
『Live in Rome』'80 (2CD, 発売2010年)
『Voice of the Eternal Tomorrow (The Rose Hue Mansions of the Sun)』'80 (発売'80年)
『Aurora Borealis (Ra Rachmaninov)』'80 (発売'80年)
『Beyond the Purple Star Zone (Immortal Being)』'80 (発売'81年)
『Oblique Paralax (Journey Stars Beyond)』'80 (発売'82年)→『Complete Detroit Jazz Center 1980 (Beyond the Purple Star Zone + Oblique Paralax add.tracks, 28CD, 発売2007年)
『Dance of Innocent Passion』'81 (発売'81年)
『God's Private Eye』'81 (2CD, 発売2000年)
『Myron's Ballroom - Audio Series Volume One』'82 (3CD, 発売2006年)
『Ra to the Recue』'83 (発売1984年)
『The Sun Ra Arkestra Meets Salah Ragab in Egypt』'83 (発売1983年)
『Sun Ra All Stars Milan, Zurich, West Berlin, Paris』'83 (5CD, 発売2008年)
『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, vol. 1』'83 (発売1985年)
『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』'83 (発売1985年)
『Love in Outer Space: Live in Utrecht』'83 (発売1988年)
『Sun Rise in Egypt vols. 1, 2 and 3』 '84 (3CD, 発売2006年)

 以上16作、アルバム枚数にして55枚(!)ものライヴ音源が残されています。前作で3枚組CDの『Sun Rise in Egypt vols. 1, 2 and 3』 は1984年1月13日のカイロ(エジプト)公演を収めたサン・ラ没落発掘音源でしたが、翌月2月27日のアテネ(ギリシャ)のジャズ・フェスティヴァルの出演を収録した本作はギリシャのPraxis Records(ジャズ・クラブとコンサート主宰事務所、レコード会社を兼ねていたようです)からアナログLP3枚が1984年、1985年、1986年と1年おきにリリースされ、ギリシャ盤・初回プレスのみのリリースだったため長い間マニア垂涎の稀少盤だったものです。しかも3枚のアナログLPは各面トラック分けがなく、Vol. IのSide 1が「Live At "Praxis ´84" Part 1」から始まり、Vol. IIIのSide 2が「Live At "Praxis ´84" Part 6」で終わる、実物を聴かないとリリース・インフォメーションだけでは演奏曲目すらわからない仕様でした。本作の真価がようやくリスナーに届いたのは、2000年にPraxis Recordsの音源提供によってイギリスのLeo RecordsのGolden Years Of New JazzシリーズからアナログLP3枚をCD2枚に収録して初再発売され、曲目の明記とトラック分けがされた初CD化以降のことになります。

 本作はエジプト公演でサン・ラと共演したエジプトのジャズマン、サラー・ラガブも参加して13人編成の中規模ビッグバンドのサン・ラ・アーケストラの2時間にもおよぶジャズ・フェスティヴァル出演の、おそらくフル・セットのライヴが聴けますが、サン・ラ生前発売のライヴだけあって公式収録を意識した録音であり、音質・演奏とも前月の発掘ライヴ音源『Sun Rise in Egypt vols. 1, 2 and 3』をはるかにしのぎます。エジプト公演でのアーケストラは、地元ジャズマンのラガブの顔を立ててサン・ラとラガブの共同リーダーとして演奏・発掘発売されたものでした。同作もおそらくラガブの顔の利くクラブ収録だったか、サン・ラもクラブ備えつけのオルガンをメイン楽器とし、リラックスした中にもエンタテインメント性の高いセットリストで、収録から20年以上経った発掘音源としてはナロウ・レンジでほぼモノラルながら良好な音質と言えるものでしたが、ギリシャのアテネのジャズ・フェスティヴァルでおそらくトリを勤め、ギリシャのジャズ界を仕切っていたであろうPraxis社が全力を上げてバックアップした本作は鋭利な音質で最高のテンションのアーケストラの演奏を収録しており、1971年末のエジプト公演三部作『Egyptian Trilogy '71』(『Nidhamu』『Live in Egypt 1/Dark Myth Equation』『Horizon』)に匹敵し、作風の円熟では12年前のエジプト公演三部作を越える出来です。ラガブが参加していても共同リーダーとしての公演だった『Sun Rise in Egypt vols. 1, 2 and 3』とは段違いに緊張感の高いライヴで、完全にサン・ラが仕切ったアーケストラの凄みと緩急自在な演奏をとらえて余すところがありません。また本作は1983年10月のヨーロッパ・ツアーからメンバーの半数が帰国して中核メンバーのみが残ってからのライヴであり、アーケストラの歌姫ジューン・タイソンも帰国してからのライヴだけにヴォーカル・ナンバーを主にジョン・ギルモア、コーラスはメンバー全員で大合唱しており、ギルモアに次いでサン・ラ自身のヴォーカルがバンドや観客を煽りに煽っています。ヴォーカル曲冒頭や終盤で盛り上げているのがサン・ラのヴォーカル部で、平歌になるとリード・ヴォーカルを取っているのがギルモアです。またサックス陣が「electronic wind instrument」をステージで使用するようになったのがこのジャズ・フェスティヴァルのライヴからで、これはまだ開発されて間もなかった頃のサックス・シンセサイザーですが(ソニー・ロリンズが使っていたリリコンなどもその一種です)、もともとアコースティック楽器に執着がなく新しい楽器はすぐに試すのがサン・ラですし、従来のサックスとシンセサイザー・サックスの併用で新しい音色のアンサンブルも試せれば、結成30年近く経って中心メンバーの高齢化が進んだサックス陣にとっては長時間のステージでの身体的負担の軽減にもなったと思われます。

 本作は同一曲目・曲順ながらアナログLPでの3枚の方がステージの進行がわかりやすく、フリー・インプロヴィゼーション曲からヴォーカル曲で盛り上げていく前半、古典ジャズ曲に「酒とバラの日々」まで演ってしまう(しかも曲ごとに多彩で意外性に富んだアレンジ)中盤、ほとんどメドレーでインストルメンタル曲・ヴォーカル曲の代表曲を次々くり出し大クライマックスを迎える後半と、アーケストラ結成から30年間の集大成的ライヴとも言えるセットリストであり、実際のステージの曲順通りと思われることからも、複数のステージから編集されていた1971年のエジプト三部作より勢いと自然な流露感に優れ、また歌姫ジューン・タイソンの不参加が本作に限って言えばギルモアやサン・ラを中心とした男性ばかりのメンバーの咆哮と大合唱の凄みでプラスに働いています。本作の1/3以上を占めるヴォーカル曲がタイソンさんのリード・ヴォーカルで歌われていたらテンションの高さは同じでも音楽の質感はもっとまろやかになっていたと思われ、またジューン・タイソンのヴォーカルはアーケストラにとって地に足の着いた安らぎを与えるものでした。本作は鋭利な音質をとらえた録音状態、激越な演奏ともに振り幅は普段のアーケストラのライヴ以上に広く、こってりと、またはチャーミングに演奏される古典ジャズ曲もあれば、これほど攻撃的なニュアンスに徹したアーケストラは他には聴けないほど凶暴な演奏にまで振れています。

 本作の前後では1982年にアルバム『Nuclear War』セッションで初録音されたヴォーカル曲「Nuclear War」が披露されており、同アルバムはスリーマイル島原発事故に触発されたサン・ラの問題作で、当初メジャーのコロンビアに持ちこんで売りこみが失敗し、ギリシャのMusic-Box RecordsとイギリスのY Recordsからようやく1984年に発売されたものです。Y Recordsからは12インチ・シングルでタイトル曲が1982年に先行発売され、またアルバムは『Nuclear War』としてのリリースに先立ってA面・B面がアーケストラ自身のサターン・レコーズから1983年に『A Fireside Chat with Lucifer』『Celestial Love』の2作に分割発表されました。この曲は核所有国の全世界の為政者を「Motherfucker !」と面罵した曲ですが、歌詞からもジューン・タイソンには歌わせず、サン・ラと男性メンバーたちのかけ合いで歌っています。おそらく歌詞からもアメリカ本国ではライヴで演奏するのは憚られたと思われ、また事実上軍事政権が長く続いたエジプト、ギリシャで演奏するのも危険な行為でしたが、英語歌詞であることからどさくさ紛れに、かつ堂々とレパートリーに加えられたのでしょう。これも女性メンバーであるジューン・タイソン参加のステージでは歌えなかったヴォーカル曲で、その点でも本作収録のライヴはアルバム『Nuclear War』リリース直前の絶好の機会でした。本作がアーケストラ畢生のライヴになったのはさまざまな外的条件にもよるものでしょうが、そうした好機をたぐり寄せたのもサン・ラならではの創作力の賜物です。本作から1993年の逝去まで10年、最晩年までサン・ラは現役をまっとうしますが、本作以降のアーケストラはもっぱらメインストリーム・ジャズに近い方向に向かっていくことになります。本作にキャリアの総括の意図も感じられるのは、サックス陣のエレクトロニック・サックス使用の開始とも相まって、やれるだけやっておこうというメンバーの高齢化との直面を予感させないではいられない面もあります。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)