ザ・シーズ(5) ロウ・アンド・アライヴ (GNP Crescendo, 1968) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・シーズ - ロウ・アンド・アライヴ (GNP Crescendo, 1968)ザ・シーズ The Seeds - ロウ・アンド・アライヴ~ザ・シーズ・イン・コンサート・アット・マーリンズ・ミュージック・ボックス Raw & Alive: The Seeds in Concert at Merlin's Music Box (GNP Crescendo, 1968) :  

Released by GNP Crescendo Records GNPS 2043, May 1968
Produced by Marcus Tybalt (aka Sky Saxon, The Seeds), Neil Norman
(Side One)
A1. 開幕 Introduction by Humble Hive - 0:20
A2. ミスター・ファーマー Mr. Farmer (Sky Saxon) - 3:50
A3. ノー・エスケープ No Escape (Sky Saxon, Jimmy Lawrence, Jan Savage) - 2:25
A4. サティスファイ・ユー Satisfy You (Saxon, Savage) - 2:00
A5. ナイト・タイム・ガール Night Time Girl (Saxon) - 2:30
A6. アップ・イン・ハー・ルーム Up in Her Room (Sky Saxon, Daryl Hooper) - 9:45
(Side Two)
B1. ジプシーのドラム Gypsy Plays His Drums (Saxon, Hooper) - 4:30
B2. 恋しい君よ Can't Seem to Make You Mine (Saxon) - 2:30
B3. マンブル・アンド・ハンブル Mumble and Bumble (Saxon) - 2:25
B4. あなたの森 Forest Outside Your Door (Saxon) - 2:40
B5. 世界は恋でいっぱい 900 Million People Daily (All Making Love) (Saxon) - 4:50
B6. プッシン・トゥ・ハード Pushin' Too Hard (Saxon) - 2:40
[ The Seeds ]
Sky Saxon - lead vocals, bass guitar, harmonica
Daryl Hooper - organ, piano
Jan Savage - lead guitar, gong, backing vocals
Rick Andridge - drums, backing vocals
with Additional Musician
Harvey Sharpe - bass guitar
(Original GNP Crescendo "Raw & Alive" LP Liner Cover & Side One Label)

 ザ・シーズのアルバム中もっとも中古盤店にアナログLPが二束三文で放出されている本作は、実は無観客のスタジオ・ライヴに歓声をダビングした疑似ライヴと判明し、にもかかわらず別テイクによる代表曲のベスト盤を兼ね、最高の新曲を加えた選曲の良さ、演奏の充実によってザ・シーズの最高傑作といっていい、入門編にも最適かつ究極の出来を誇るアルバムです。当時の西海岸の人気DJだったというハンブル・ハーヴェイによるバンド紹介のMCにつづいて、ものすごい歓声とともに荒々しい演奏が始まり、演奏中も歓声はギャーギャーと止まない狂熱の「ライヴ盤」……タイトルにも『ザ・シーズ・イン・コンサート』と名うってあるから当然そう思いますが、'70年代から批評家に歓声をかぶせた未発表テイクの擬似ライヴではないかと疑われていたのが、'90年代のCD復刻の際にマスターテープの調査によってやはりスタジオ録音テイクにファンの歓声をダビングしたものなのが判明しました。しかしそれは本作の価値を下げはしないので、ザ・シーズの普段のライヴはこれだけ熱狂的で、メンバーの耳には本当にこれだけの観客の歓声が聞こえていたのではないかと思われる白熱のスタジオ・ライヴです。'60年代ロックのライヴ・アルバムとしてはビーチ・ボーイズの『イン・コンサート』‘65.10、ストーンズの『ガット・ライヴ・イフ・ユー・ウォント・イット』'66.11、キンクスの『ライヴ・アット・ケルヴィン・ホール』‘67.8、ザ・タイガースの『ザ・タイガース・オン・ステージ』'67.11、オックスの『テル・ミー/オックス・オン・ステージNo.1』'69.3、ザ・テンプターズの『ザ・テンプターズ・オン・ステージ』'69.7と並ぶ狂熱の擬似ライヴ・アルバムでしょう。全11曲中既発表曲はいずれもシーズの代表曲と呼べる「ミスター・ファーマー」「ノー・エスケープ」「アップ・イン・ハー・ルーム」「恋しい君よ(独りじめしたいのに)」「プッシン・トゥ・ハード」の5曲で、「サティスファイ・ユー」「ナイト・タイム・ガール」「ジプシーのドラム」「マンブル・アンド・ハンブル」「あなたの森」「世界は恋でいっぱい」の6曲が新曲です。そして新曲6曲はザ・シーズ歴代楽曲のレベルを押し上げる名曲ぞろいと言えるものでした。

 '67年8月発表の第3作『フューチャー』を峠にザ・シーズの人気は急速に凋落しました。アルバム未収録シングルの名曲「ザ・ウィンド・ブロウズ・ユア・ヘアー」はアルバム『フューチャー』を凝縮したようなザ・シーズの勝負球でしたがチャートインせず、セカンド・アルバム制作直後に完成されていたスカイ・サクソン・ブルース・バンド名義のブルース・アルバム『ア・フル・スプーン・オブ・シーディ・ブルース』'67.11もチャートインを逃しました。バンドとGNPクレッシェンド・レコーズの間では『フューチャー』を継ぐサイケデリック路線のアルバムをもう1作かそれとも、という方向性の迷いがあり、『フューチャー』のセッションではほぼアルバム2枚組相当分の未発表曲が録音されています。とりあえず完成済みで未発表だったブルース・アルバム『シーディ・ブルース』が発表されたわけですが当時の流行の推移は速く、'68年初頭にはザ・シーズの全米チャート入り規模のヒットは望めなくなりました。そこでバンドは根強い地元のハリウッド近辺のファンのみに狙いを絞り、地元ではロングセラーをつづけていた第1作・第2作の路線にあるライヴのメイン・レパートリー曲を収録したガレージ・ロック回帰のライヴ・アルバムの制作が決定しました。
 
 2014年発売のイギリスのビッグ・ビート・レコーズからのアレック・パロア(現在ではダリル・フーパーによる再結成ザ・シーズの正式メンバー兼プロデューサーに迎えられています)監修による拡張版デラックス・エディション・リマスターCD『ロウ・アンド・アライヴ』で初めて発表されましたが、本作の制作に当たってザ・シーズはまず'68年2月20日にファンを招いてGNPクレッシェンド社主のジーン・ノーマンのMCで14曲・1時間強のスタジオ・ライヴを収録しました。リマスターCDではディスク2にこの時の全曲が収められており、『ロウ・アンド・アライヴ』収録の11曲に加えて第2作からの「ア・フェイデッド・ピクチャー」、第3作からの「2本の指」「フォーリン」を演奏しています。観客入りライヴですから歓声は普通です。ザ・シーズは2月20日のスタジオ・ライヴ録音に満足しなかったので4月に今度は観客を入れずにスタジオ・ライヴを行い、拡張版リマスターCDのディスク1には歓声をかぶせる前の10曲(『フューチャー』セッション時のスタジオ・ヴァージョンを使った「世界は恋でいっぱい」は未収録)、歓声をかぶせた『ロウ・アンド・アライヴ』のリマスター版を収録しています。問題になるのは「900 Million People Daily (All Making Love)」こと「世界は恋でいっぱい」ですが(原題「9億人の人々が毎日セックスしている」を「世界は恋でいっぱい」とはうまい邦題です)で、ザ・シーズ初のコンピレーション盤『Fallin' Off The Edge』'77の増補改訂再編集盤と言えるGNPクレッシェンド・レコーズからのコンピレーションCD『Travel with Your Mind』'93で初めて発表されたスタジオ録音完全版の同曲は10分20秒あり、同曲はシングル・カットされた「サティスファイ・ユー」のB面では4分11秒でフェイドアウトしていますが、『ロウ・アンド・アライヴ』のアルバム・ヴァージョンでも4分50秒でフェイドアウトしており、後半5分半はまるまるカットされています。10分20秒の全長版を聴くとこの曲はセカンド・アルバムに収められた代表曲「アップ・イン・ハー・ルーム」以上に徹底した1コードのリフだけの曲ですが、前半はメジャーコード、後半はぐったりヘヴィにマイナーコードに変化するだけで聴きごたえのある演奏になっているのがバンドのアレンジ力の向上を示しており、オリジナルLPでは前半だけでフェイド・アウトするのが惜しまれます。第2作では14分半あった「アップ・イン・ハー・ルーム」も『ロウ・アンド・アライヴ』では9分50秒に短縮された替わりにテンポの速い、第2作での演奏より格段に躍動感の増した好演奏になっており、第2作のヴァージョンもシーズの代表曲となった名演ですが、再演にとどまらない効果を上げているのには目をみはらせます。
 
 第1作・第2作の勢い任せの粗っぽいガレージ・サウンドもいいのですが、本作はスタジオ・ライヴ1発録りが余計な装飾を取り払い、また全体的に柔軟でファンキーなビート感が高まっているのが感じられます。テクニカルな意味での演奏力の向上とはちょっと違うのですが、黒人音楽とはまた異なる白人ロックならではのハンマー・ビート(1拍・3拍の頭打ち)の方向でリズム感が非常に躍動的になっています。それでも単にこなれた演奏でかたづかないのは楽曲の単純さ、アレンジ力が向上しても決して複雑にもテクニカルにもならない稚拙さを残しているからで、基本的な音楽性は変わらないのにサイケデリックな複雑な装飾性を採り入れた『フューチャー』ではなく『ロウ・アンド・アライヴ』の方向が第1作・第2作からザ・シーズが進展していくのにふさわしかったのが、『フューチャー』制作時に録音されるも収録を見送られ、本作にシンプルなスタジオ・ライヴ・アレンジで収録された「サティスファイ・ユー」「ジプシーのドラム」「世界は恋でいっぱい」などの出来から伝わってきます。しかしGNPクレッシェンド・レコーズからのザ・シーズのオリジナル・アルバムは本作が最後になり、ザ・シーズは以降'69年にGNPクレッシェンドからシングル2枚を発表してレーベルを離れ、サクソン以外のメンバーは総入れ替えでMGMから'70年にシングル2枚、またかろうじて'72年に自主制作シングル1枚を発表しますが、同年解散してしまいます。それらのアルバム未収録シングルも出来は良く、オリジナル・アルバム最終作の本作がザ・シーズの到達点であるとともに新たな出発点にもなり得ただけに、オリジナル・メンバーのザ・シーズのアルバムがいったんここで終わりになったのは惜しまれますが、ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリン、ザ・バンドやクロスビー・スティルス&ナッシュがのしてきた'70年代の到来にザ・シーズの活躍の余地はなかったとも言えます。またオリジナル・アルバム5作でザ・シーズはひとまず全力を尽くしたと言えるので、2010年代にもなって全オリジナル・アルバムが数倍の未発表音源とともに‘60年代ロック発掘・復刻の権威アレック・パロアさんによってまとめられたのは、50年近く埋もれていた時限爆弾のようなものです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました)