ザ・シーズ(4) スカイ・サクソン・ブルース・バンド (GNP Crescendo, 1967) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・シーズ - スカイ・サクソン・ブルース・バンド (GNP Crescendo, 1967)スカイ・サクソン・ブルース・バンド Sky Saxon Blues Band - ア・フル・スプーン・オブ・シーディ・ブルース A Full Spoon of Seedy Blues (GNP Crescendo, 1967) :  

Released by GNP Crescendo Records GNPS 2040, November 1967
Produced by Marcus Tybalt (Sky Saxon, The Seeds)
All tracks written by Sky Saxon, except where noted.
(Side One)
A1. Pretty Girl (Luther Johnson) - 1:58
A2. Moth and the Flame - 3:47
A3. I'll Help You (Carry Your Money to the Bank) - 3:27
A4. Cry Wolf - 6:04
A5. Plain Spoken (Muddy Waters) - 2:52
(Side Two)
B1. The Gardener - 4:57
B2. One More Time Blues (Luther Johnson) - 2:25
B3. Creepin' About - 2:43
B4. Buzzin' Around - 3:43
[ Sky Saxon Blues Band ]
Sky Saxon - lead vocals, bass guitar, harmonica
Daryl Hooper - organ, piano
Jan Savage - lead guitar, gong, backing vocals
Rick Andridge - drums, backing vocals
with Additional Musicians
Harvey Sharpe - bass guitar
Luther Johnson - guitar
Mark Arnold - guitar
George "Harmonica" Smith - harmonica
James Wells Gordon - saxophone
(Original GNP Crescendo "A Full Spoon of Seedy Blues" LP Sticker Sealed Front Cover, Liner Cover & Side One Label)

 ザ・シーズの大きな蛇足と悪名高い本作の発表は4作目、前作『フューチャー』'67.8からわずか3か月後に発売された本作は実はデビュー作『ザ・シーズ』'66.4('65年4月~'66年1月録音)、第2作『ア・ウェブ・オブ・サウンド』'66.10('66年7月5日~29日録音)に次いで着手され('66年8月12日~10月14日録音)、第2作発売時にはマスターテープが完成していましたが、ライナーノーツを寄せたシカゴ・ブルースのボス、マディ・ウォーターズ(1913-1983)のバンドのメンバーをゲストに迎えてウォーターズのギタリスト、ルーサー・ジョンソンの書き下ろし2曲とウォーターズの既成曲のカヴァー1曲を含み、スカイ・サクソン自作オリジナル曲も合わせ全9曲すべて(自称)モダン・ブルースという、ザ・シーズにあっては異色の内容のため発売が延期され、「スカイ・サクソン・ブルース・バンド」名義で発売されたものです。第3作『フューチャー』'67.8('66年11月3日~'67年6月6日)が第2作から10か月後の発売でしたから順当には'67年2月~3月頃に発売される予定で制作されたはずですが、ザ・シーズはこの頃ようやく知名度が高まり、デビュー作収録曲「プッシン・トゥ・ハード」36位('67年2月・初発売'65年11月/再発売'66年10月)、「恋しい君よ(独り占めしたいのに)」41位('67年3月・初発売'65年6月/再発売'66年5月)、第2作からの「ミスター・ファーマー」86位('67年3月・初発売'66年9月/再発売'67年2月)と、どれもしつこく再発売プロモーションしてシングルが小ヒットにこぎ着けたばかりでした。第2作はチャートインを逃しましたが全米132位まで上がったデビュー作ともども地道にロングセラーをつづけており、新世代のサイケデリックなヒッピー・バンドのイメージをさらに鮮明、かつ勘違いに打ち出したのが第3作『フューチャー』でしたから、同作が全米87位と好成績を収めたことや、サイケデリック=フラワー・ムーヴメントの反動でルーツ・ロック指向のバンドが現れ始めていたことで、本作もやっと(しかしスカイ・サクソン・ブルース・バンド名義で)リリースされる運びになったわけです。

 マディ・ウォーターズはライナーノーツで「アメリカは第二のローリング・ストーンズを生んだと確信する」とザ・シーズを讃え(マディ様ほどの方が直々にライナーノーツの筆を執ったとは思えないので、レーベル側が用意したプレス・シートに名義貸しをしただけなのは想像するに難くありません)、プロデューサーのマーカス・ティボルト(実はスカイ・サクソン自身の変名)はライナーノーツで「本作のサクソンのオリジナル・ブルースの作曲は力強く、ヴォーカルはジョー・ウィリアムズやマディ・ウォーターズ、ジョー・ターナーにも肉薄する」と自画自賛しています。しかし本作で聴かれる演奏はシカゴ派のモダン・ブルースというよりもロカビリー時代の初期の白人ロックンローラーに近いので、イギリスのローリング・ストーンズのミック・ジャガー(1943-)やアニマルズのエリック・バードン(1941-)より本場アメリカ生まれ育ちだけあって古い感覚をそのまま引きずっています。スカイ・サクソン(1937-2009)は1948年生まれとサバを読みデビューしましたが、遅れてデビューしただけで、世代的には'50年代デビューの初期の白人ロックン・ローラーに属するのです。エルヴィス・プレスリー(1935-1977)、カール・パーキンス(1932-1998)、ジェリー・リー・ルイス(1935-)、ロイ・オービソン(1936-1988)、ジーン・ヴィンセント(1935-1971)、バディ・ホリー(1936-1959)、エディ・コクラン(1938-1960)、ディオン(&・ザ・ベルモンツ、1939-)、ジョニー・バーネット(1934-1964)、リッキー・ネルソン(1940-)、デル・シャノン(1934-1990)、ワンダ・ジャクソン(1937-)と'50年代半ばからすでにヒットを飛ばしていた白人ロックン・ローラーを見渡してもスカイ・サクソンがいかに遅れてデビューしたか、また初期の白人ロックはティーンエイジャーによるティーンエイジャー向けの音楽だったかが痛感されます。
 
 本作は「The Seeds」とステッカーが貼られたジャケットも存在しますが、先行シングルもシングル・カット曲も含まれず、GNPクレッシェンド・レコーズ自体がファン向けのコレクターズ・アイテムと割り切って発売した形跡があります。'91年のキング・レコードからの伊藤秀世氏監修のザ・シーズ日本盤初CD化リリースでも本作は外され、1996年の英デーモン・レコーズ盤GNPクレッシェンド時代のザ・シーズのCD3枚組ボックス・セット、2001年の英エドセル・レコーズのザ・シーズ全集3枚のうちの『Future / A Full Spoon of Seedy Blues』に収められた他は、英ビッグ・ビート・レコーズの拡張版CDリマスター盤『ア・ウェブ・オブ・サウンド』にモノラル・マスターが収録され、日本盤ではインディーズのハヤブサ・ランディングから2010年に発売されたのが唯一の単品CD化となっています。ザ・シーズのオリジナル曲は正味「プッシン・トゥ・ハード」「恋しい君よ(独り占めしたいのに)」「ミスター・ファーマー」の3パターンくらいしかなく、オリジナル・アルバムは全部そうなのですが、唯一本作だけがブルース~変形ブルースのコード進行の曲を含んでいるので、いつものザ・シーズ節が相変わらずのスカイ・サクソンのがなり声のヴォーカルと、同じリフしか弾かないキーボード、手数の少ないメトロノーム的なドラムスくらいにしか感じられせん。ギターやサックス、ブルースハープがマディ・ウォーターズのバンドからゲスト参加しているので、ザ・シーズ名物の指のまわらない千鳥足ギターやオクターブを上下するだけのオルガン、サイケなだけのスライド・ギターも聴けません。いつものザ・シーズ節もワンパターンの曲想だからこそ活きるのですが、ザ・シーズのワンパターンは他のバンドにはちょっと聴けない、実はザ・シーズだけの魅力だったのが逆にわかります。ブルース・フォームの楽曲をやり、それだけでアルバムを作ると、スカイ・サクソンのセンスは'50年代のティーンエイジ・ロックに先祖帰りしてしまうのです。

 ザ・シーズ結成以前にスカイ・サクソンは本名のリッチー・マーシュ名義で'62年~'63年にソロ・シングルが数枚あり、それらはフランスのエヴァ・レーベルからザ・シーズ名義でザ・シーズ末期のMGMからのシングル2枚・自主制作シングル1枚のAB面とともにコンピレーション盤『Bad Part of Town』'82にまとめられましたが、ザ・シーズ以前のリッチー・マーシュ名義のソロ・シングルはもろに'50年代ロック衰退後・ビートルズ登場以前のティーンエイジ・ポップスそのものでした。ジェファーソン・エアプレインのマーティ・ベイリン(1942-2018)にも同時期に似たようなソロ・シングルがあるのを思えば、ビートルズやストーンズ登場によって起こったバンド指向が音楽性ともどもどれだけ多くの変化をアメリカのロック・ミュージシャンたちにおよぼしたかが実感されます。アメリカのロック研究家マーク・ノーブルスによるとビートルズが全米ブレイクした1964年からプロとアマチュアのバンドに明確に区分がついた1968年までにアメリカ合衆国に何らかの活動実績を残したバンドは18万組以上にも上がるそうで、それを思えばザ・シーズでさえも18万組以上のロック・バンド中ではトップクラスということはできるでしょう。またセンスが古かろうと勘違いだろうとザ・シーズほど天衣無縫にサイケデリックなラヴ&ピース天国、セックス・ドラッグ&ロックン・ロール賛歌で一貫していたバンドはないので、本作は白人ブルースのアルバムとしては最低ですが、スカイ・サクソンがやればこういう中途半端な変なアルバム、'50年代ロカビリーのセンスのまま'60年代モダン・ブルースをやって真剣なのに冗談みたいなアルバムになってしまったのもヒッピーかぶれの30男らしい天然の底抜けな間抜けさがあります。しかも大御所マディ・ウォーターズのお墨つきとあっては、マディ様も何と度量の広い、リップサーヴィスに惜しみないお方ではないでしょうか。

(旧記事を手直しし、再掲載しました)