ザ・シーズ(3) フューチャー (GNP Crescendo, 1967) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・シーズ - フューチャー (GNP Crescendo, 1967)
ザ・シーズ The Seeds - フューチャー Future (GNP Crescendo, 1967) :  

Released by GNP Crescendo Records GNPS 2038, August 1967 / US#87
Produced by Marcus Tybalt (aka Sky Saxon, The Seeds)
(Side One)
A1. Introduction (Saxon, Hooper) - 1:03
A2. フラワー・チルドレンの世界 March of the Flower Children (Saxon, Hooper) - 1:45
A3. Travel with Your Mind (Saxon, Hooper, Savage) - 3:00
A4. 問題外だぜ Out of the Question (Saxon, Serpent) - 3:02 / US#No Chart
A5. Painted Doll (Saxon) - 3:20
A6. フラワー・レディ Flower Lady and Her Assistant (Saxon) - 3:15
A7. Now a Man (Saxon, Hooper, Savage) - 3:20
(Side Two)
B1. 無数の影 A Thousand Shadows (Saxon, Hooper, Savage) - 2:25 / US#72
B2. 2本の指 Two Fingers Pointin' on You (Saxon) - 3:10
B3. 入口はどこ Where Is the Entrance Way to Play (Saxon) - 2:55
B4. Six Dreams (Saxon) - 3:05
B5. Fallin' (Saxon, Hooper) - 7:40
[ The Seeds ]
Sky Saxon - lead vocals, bass guitar, cover, artwork
Daryl Hooper - organ, sitar, piano, backing vocals
Jan Savage - lead guitar, gong, backing vocals
Rick Andridge - drums, backing vocals
with Additional Musician
Harvey Sharpe - bass guitar
Your Imagination ... flute, cello, harp, girls voices, horn, tabra drums, tuba, whips, flugelhorn, weather
Ed Gardner and Marcus Tybalt - opening phrase from "March of the Flower Children" conceived froma little dream 

(Original GNP Crescendo "Future" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side One Label)

 コンセプト・アルバムの本作はザ・シーズ版の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・クラブ・バンド』'67.6.1(ザ・ビートルズ)と称される作品ですが、制作はちょうどぴったり『サージェント・ペパーズ』と重なる時期に行われており(制作終了は『サージェント・ペパーズ』発売の5日後でした)、アメリカに拠点を移した新生エリック・バードン&ジ・アニマルズの第1作『ウィンズ・オブ・チェンジ』'67.7がビートルズ作品の影響ではなく同時進行で制作されていたのと同様に、この後次々現れた『サージェント・ペパーズ』の影響下のアルバムとは一線を画していると思われます。『サージェント・ペパーズ』影響下のアルバムはイギリスではローリング・ストーンズの『サタニック・マジェスティーズ・リクエスト』やプリティ・シングスの『悲しみよさようなら (S.F.ソロウ)』、ザ・フー『トミー』やスモール・フェイセズ『オグデンズ・ナッツ・ゴーン・フレイクス』、ゾンビーズ『オデッセイ・アンド・オラクル』、ピンク・フロイドやムーディ・ブルースの諸作などきりがありませんし、アメリカではビーチ・ボーイズ『スマイリー・スマイル』'67.9、ラヴィン・スプーンフル『エヴリシング・プレイング』'67.10、バッファロー・スプリングフィールド『アゲイン』'67.10、モンキーズの『スターコレクター』'67.11と『小鳥と蜂とモンキーズ』'68.4と『ヘッド』'68.12、ラヴ『フォーエヴァー・チェンジズ』'67.12、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス『アクシズ・ボールド・アズ・ラヴ』'67.12、ザ・バーズ『名うてのバード兄弟』'68.1、アイアン・バタフライ『ヘヴィ』'68.1と『イン・ア・ガダ・ダ・ビダ』'68.6と『ボール』'69.1、さらにフランク・ザッパ&ザ・マザーズによる完全な『サージェント・ペパーズ』への当てこすりアルバムとしてストーンズの『サタニック・マジェスティーズ』に匹敵する『ウィー・アー・オンリー・イン・イット・フォー・ザ・マネー』'68.3、遅ればせながらモビー・グレイプ『ワウ』'68.4、グレイトフル・デッドの『太陽の賛歌』'68.7と『アオクソモクソア』'69.6、クイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス『愛の組曲』'69.3、ザ・ドアーズ『ソフト・パレード』'69.7まで、ローカル・レーベル/インディー・レーベルのマイナー作品まで含めると「サージェント・ペパーズ・シンドローム」と言えるほど同作影響下のアルバムは多く、'65年~'66年のストーンズの『アウト・オブ・アワ・ヘッズ』『アフターマス』期のサウンドがアメリカのバンドの指標になっていたのに取って代わるものでした。

 グラミー賞に新設された年間最優秀ポップ・アルバム賞第1回を受賞したビートルズの『サージェント・ペパーズ』は、ちょうど戦後ベビー・ブーム世代の成人年前後で画期的にLPレコードの売り上げが伸び、シングル中心だったレコード産業史上LPアルバムの売り上げがシングルを凌駕し始めた1967年を象徴するリリースであり、レコード収録内容規定(それまでは市場分離の規定からイギリス盤とアメリカ盤が同一でリリースされることは許可されませんでした)の緩和によってイギリス盤とアメリカ盤でビートルズのアルバムが同一内容で発売された初めての作品でした。ゲイトフォールド・カヴァー(見開きジャケット)で表裏・内側までオールカラー印刷も画期的なら、ポップス/ロックのアルバムで裏ジャケットに歌詞が全掲載されたのも『サージェント・ペパーズ』が初めてで、それまでは通常LPレコードの裏ジャケットは白黒印刷でジャケット裏面解説(ライナー・ノート)に当てられていました。以後も解説シート、ブックレットを「ライナー・ノート」と呼ぶのはそれに由来し、SPレコードをバインダーで複数枚綴じた「アルバム」がLP時代にもCD時代にも呼称として残ったのと同様の由来です。何より『サージェント・ペパーズ』が画期的だったのはジャケット・アート、アルバム全収録曲によって作品的統一感を強く打ち出していたことで、同アルバムからは意図的にシングル・カット曲もシングル・ヒット曲も収録されず、アルバムA面・B面を聴き通してひとつの作品をなす画期的な特色がありました。管弦楽の大胆な導入、多彩な曲想、メドレー形式で曲間なしに進む構成など、同作はポップス/ロックのアルバム史上初めて交響楽的構成を持った作品でしたが、ビートルズはクラシック音楽の手法でなく純粋にロック的な発想からこうした形式にたどり着いたのです。
 
 ザ・シーズのオリジナル・アルバム『ザ・シーズ』『ア・ウェブ・オブ・サウンド』『フューチャー』『ロウ・アンド・アライヴ』は'90年代からザ・シーズのアルバムのCD復刻をしてきたイギリスのビッグ・ビート・レコーズから、'60年代ロック研究の第一人者アレック・パロアの監修によって2012年~2014年にかけて未発表テイク・未発表曲満載で拡張版最新リマスターCDが発売され、同レーベルはさらにパロアさんの監修によりGNPクレッシェンド~MGMにいたる全シングルAB面を集めた『シングルスAズ&Bズ』を2014年に、また2019年にはザ・シーズの最新ドキュメンタリー映画のサウンドトラック盤『プッシン・トゥ・ハード』をリリースしており、ザ・シーズには未発表音源が公式オリジナル・アルバムの4倍以上現存するのが判明・発売されました。デビュー作『ザ・シーズ』は1CDにボーナス・トラックとして未発表テイク・未発表曲10曲追加、以降は2CDで『ア・ウェブ・オブ・サウンド』は未発表テイク・未発表曲7曲追加の上同アルバムのモノラル・マスターとスカイ・サクソン・ブルース・バンド名義の『ア・フル・スプーン・オブ・シーディ・ブルース』のモノラル・マスター、『フューチャー』はアルバム未収録曲・未発表別テイクを含むモノラル・マスター12曲に全15曲の完全未発表別テイク・未発表曲収録、『ロウ・アンド・アライヴ』ではアルバム編集前の実はライヴではなくスタジオ録音擬似ライヴの未編集マスター10曲に本物の完全未発表ライヴ14曲、さらに『シングルスAズ&Bズ』ではオリジナル・アルバム収録テイクとは異なるシングル・マスター全24曲、ベスト&レア・トラック集と言えるドキュメンタリー映画のサウンドトラック盤『プッシン・トゥ・ハード』では既発売リマスター盤にも未収録だった未発表別テイク・ライヴ10曲がレア・トラックとして初収録されるなど、未発表別テイクが現存しないらしいスカイ・サクソン・ブルース・バンド名義の『ア・フル・スプーン・オブ・シーディ・ブルース』を除いては、実はザ・シーズのオリジナル・アルバムは入念にセッションが重ねられ、その中からアルバムがまとめられていったのが明らかになりました。

 これほど丁寧な未発表別テイク・未発表曲発掘作業が行われているアメリカのロック・アーティストはザ・シーズと同時期でもそれこそボブ・ディラン、ビーチ・ボーイズ、ザ・バーズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ザ・ドアーズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリンなどひと握りの重要バンド、アーティストしかいないので、長年ヒッピー文化の生んだ最低の勘違いバンドと目され永遠の劣等生、コミック・バンドあつかいすらされてきたザ・シーズが、何周も回って逆に唯一無二の存在と近年ようやく認められてきたのは歴史の皮肉を感じます。ザ・シーズが上記のアーティスト、バンドと匹敵すると認められるようになるとは、'60年代末~'80年代に誰が予想できたでしょうか。ザ・シーズのオリジナル・アルバムがGNPクレッシェンドの日本販売権を持つキング・レコードから日本初CD化されたのは'91年で、英米ロック史研究の第一人者・伊藤秀世氏の監修で『ザ・シーズ+8』『ア・ウェブ・オブ・サウンド+3』『フューチャー+8』の3枚に、『ロウ・アンド・アライヴ』とアルバム未収録・未発表曲集『Fallin' Off The Edge』全曲を振り分けて発売されました。イギリスのドロップ・アウト・レコーズがザ・シーズのGNPクレッシェンド時代の全曲を収録したCD3枚組ボックス『Flower Punk』をリリースしたのが'96年、やはりイギリスのエドセル・レコーズから『The Seeds / A Web of Sound』『Future / A Full Spoon Of Seedy Blues』『Raw & Alive / Rare Seeds』と2in1CDを3枚でGNPクレッシェンド時代のザ・シーズ全集を出したのが2001年ですから、伊藤氏の慧眼はイギリスでの本格的再評価に先んじたものでした。また伊藤氏はアルバムのブックレット解説で、本作『フューチャー』こそがようやく再評価の高まったラヴの『フォーエヴァー・チェンジズ』にも匹敵するザ・シーズの最高傑作ではないかとしています。
 
 ただし伊藤氏の意見は少数派で、スカイ・サクソン・ブルース・バンド名義作を除けば『フューチャー』はザ・シーズのアルバム中、発売当時こそ全米87位とシーズの全オリジナル・アルバムで最高のランクを記録したものの、サイケデリックな装飾がバンド本来のガレージ・サウンドを損ねていると、デビュー作やセカンド、擬似ライヴ『ロウ・アンド・アライヴ』より人気の低いものです。「問題外だぜ」はデビュー作のセッションで収録され未収録曲だった曲で、同曲や疾走する「ナウ・ア・マン」などに、オクターヴ違いで同じリフしか弾かないオルガン、千鳥足のようなギター、勢いだけはあるドラムス、甲高い声でがなるスカイ・サクソンのヴォーカルといったザ・シーズ本来の魅力がある、という説です。管弦楽を被せた曲はどうも違和感があります。シングル・カット曲「無数の影」(全米72位、これは管弦楽なし)や「2本の指」、アルバム最長の最終曲「フォーリン」などはザ・シーズ最大の代表曲「プッシン・トゥ・ハード」とほとんど同じ曲ですし、「フラワー・チルドレンの世界」や「フラワー・レディ」などは「2本の指」や「フォーリン」同様管弦楽の導入がわずらわしくはないかと思えます。ザ・シーズは『サージェント・ペパーズ』は聴いていなかったとしても『サージェント・ペパーズ』セッションからのアルバム未収録曲で'67年2月にシングル・リリースされたビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー c/w ペニー・レイン」は聴いていたのは間違いないので、「トラヴェル・ウィズ・ユア・マインド」や爆音から始まる「シックス・ドリームス」などの管弦楽絡みのラーガ・ロック曲にはビートルズのラーガ・ロック路線の影響があると考えられます。「ペインテッド・ドール」など管弦楽なしには6/8拍子のロッカ・バラードにすぎないので、必ずしも管弦楽の導入がマイナス面になっているだけではありません。アルバム制作は『サージェント・ペパーズ』の影響は受けていないと言っても、見開きジャケットの内側に全歌詞を掲載したのは明らかに『サージェント・ペパーズ』のジャケットが手本ですし、アルバムの録音は6月6日に完了したと記録されていてもGNPクレッシェンドはビジネスに長けたハリウッドのレコード会社ですから、6月1日発売の『サージェント・ペパーズ』を聴いてすぐさま映画音楽の管弦楽ミュージシャンを呼んでオーヴァーダビングし、ジャケットを真似た可能性は大いに考えられます。 

 それはビッグ・ビート・レコーズからのリマスター盤『フューチャー』2013で発掘発表された全15曲の完全未発表別テイク・未発表曲収録が管弦楽を含まないザ・シーズのメンバー(とゲスト・ベーシスト)だけの録音なのからも推察できるので、管弦楽のオーヴァーダビングを前提とした曲もあったでしょうがバンドの演奏だけでもアレンジは完成されており、かえってストレートですっきりとした魅力ある別ヴァージョンになっています。アルバムに採用されたマスター・テイクは多少アレンジが異なりますが、デビュー作、第2作同様ザ・シーズのメンバーの演奏だけの『フューチャー』の完成型というのも拡張版『フューチャー』で聴けるセッションの全貌から見えてきます。この時期にすでに『ロウ・アンド・アライヴ』でアルバム初収録される新曲にしてシーズの絶頂期を代表する佳曲・名曲「ジプシーのドラム (Gypsy Plays His Drums)」「サティスファイ・ユー (Satisfy You)」「世界は恋でいっぱい (900 Million People Daily All Making Love)」も完成していれば、アルバム未収録シングルとしてリリースされる「ザ・ウィンド・ブロウズ・ユア・ヘアー (The Wind Blows Your Hair)」、のちGNPクレッシェンドによる編集盤『Fallin' Off The Edge』'77や『Travel with Your Mind』'93で発掘される「チョコレート・リバー (Chocolate River)」「サッド・アンド・アローン (Sad and Alone)」などオリジナル・アルバム未収録の名曲の数々も録音されており、この時期のザ・シーズの創作力の充実がうかがえます(『ア・ウェブ・オブ・サウンド』の後すぐに制作・完成されるも未発表だったスカイ・サクソン・ブルース・バンド名義作『ア・フル・スプーン・オブ・シーディ・ブルース』は本作からたった3か月後の'67年11月に発売されます)。思えばザ・シーズはレパートリーの全曲をバンド自身のオリジナル曲かつセルフ・プロデュース(マーカス・ティボルトはスカイ・サクソンとザ・シーズ自身の変名で、セルフ・プロデュースだと自主制作盤みたいだからという建て前でした)で貫いてきたバンドでした。ザ・シーズのオリジナル曲は名曲でも一流バンドのB面曲程度の代物でしたが、100点満点でいつも赤点ギリギリの30点、しかもそれが全力を尽くした演奏なのがこのバンドの良さであり、拡張版リマスターCDでアルバム・セッションの全貌が見えてくるとこの一見サイケな力作『フューチャー』もいつもの全力のザ・シーズではないか、と妙にいじらしく愛しく聴けてくる、またGS色溢れるいなたいジャケットまで胸に迫るのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました)