ゴッズ(2)ゴッズ2 (ESP, 1967) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ゴッズ Godz- ゴッズ2 Godz 2 (ESP, 1967)
ゴッズ Godz - ゴッズ2 Godz 2 (ESP, 1967) :  

Originally Released by ESP-Disk ESP 1047, 1967
(Side 1)
A1. Radar Eyes (Dillon, Kessler, McCarthy) - 2:25
A2. Riffin' (Thornton, McCarthy) - 4:00
A3. Where (McCarthy) - 4:00
A4. New Song (McCarthy) - 2:00
A5. Squeek (Kessler) - 3:30
A6. Soon The Moon (Dillon, Kessler, McCarthy) - 3:15
(Side 2)
B1. Crusade (Dillon, Kessler, McCarthy, Thornton) - 9:00
B2. You Won't See Me (Lennon, McCartney) - 5:00
B3. Travellin' Salesman (Kessler, McCarthy) - 2:15
B4. Permanent Green Light (McCarthy) - 4:15
[ Godz ]
Jim McCarthy - guitar, vocals
Larry Kessler - guitar, viola, vocals
Jay Dillon - organ, piano, autoharp
Paul Thornton - drums, vocals
(Original ESP-Disk "Godz 2" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)

 '60年代後半にニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで活動していたこのバンド、ゴッズについてはイギリスで1975年にフィル・ハーディとデイブ・ラングの共編によって刊行された総合的ロック辞典『The Encyclopedia of Rock Vol.2』(翻訳『ロック百科vol.2』サンリオ1981)に簡潔かつ的確な紹介があります。同ロック百科は'50年代~ビートルズ登場以前までを範疇とするVol.1、ビートルズ登場~60年代いっぱいを扱うVol.2、原著刊行時の'70年代(1976年まで)を取り上げたVol.3の3巻からなりますが、ゴッズが紹介されているVol.2ではファッグスとヴェルヴェット・アンダーグラウンドが同等に重要視されており、ニューヨークの'60年代アンダーグラウンド・シーンからはパールズ・ビフォア・スワインと並んでゴッズに独立項目がある一方で、西海岸やサウス・アメリカのアンダーグラウンド・ロック以外のローカル・シーンにはまだ注意が払われておらず(ザ・シーズほどの目立ったバンドは独立項目で掲載されていますが、ザ・13thフロア・エレベーターズ、レッド・クレイオラなどは言及のみ)、また「パンク・ロック」は現在の'70年代ニューヨーク・パンク~ロンドン・パンクではなく'60年代のアマチュア・ガレージ・バンド勢を指しているのが1975年時点でのロック批評状況を表しており、歴史的証言としての意義があります。現在ならばかなり包括的なロック名鑑ガイドブックでもファッグスはおろかパールズやゴッズに独立項目を割くロック解説書は著されないでしょう。1975年にはまだファッグスやパールズ・ビフォア・スワイン、そしてゴッズに歴史的重要性を認める批評的観点があったということです。ファッグスやパールズの項目も的確で、またの機会にご紹介したいのですが、今回はゴッズのご紹介ですからその項目を引いておきましょう。残念ながら日本語版訳書は翻訳者の事実誤認から来たと思われる訳文で、しかも日本語として体をなしていない悪訳なので、最小限の適宜訂正に改めて引用します。

◎The Godz ゴッズ
 ニューヨーク出身の4人のメンバー、ジム・マッカーシー(ギター、ヴォーカル)、ラリー・ケスラー(ギター、ヴィオラ、ヴォーカル)、ジェイ・ディロン(キーボード、オートハープ)、ポール・ソーントン(ドラムス、ヴォーカル)によるグループで、1966年のデビュー作『Contact High with The Godz (コンタクト・ハイ・ウィズ・ゴッズ)』(ESP 1037、1966年9月録音)は当時のニューヨークでは究極的であると同時に、おそらくロック史上かつてない最悪のデビュー・アルバムだった。しかし、ゴッズのアルバムは最悪だから(つまりキッチュだから)良かっただけではなく、ESPディスクの先輩であるファッグスの定めたアナーキズムの方向に従った、音楽的低水準を維持するための懸命かつ不断の努力ゆえだった。ESPだからこそゴッズは続くアルバム、『ゴッズ2 (Godz 2)』(ESP 1047、1967年)、また多少はまともな『The Third Testament (第三新約聖書)』(ESP 1077、1968年)を制作できたので、他のレーベルならば1作きりで契約を失っただろう。最初の2作は容赦なく非音楽的で、まったくハーモニーにならないヴォーカルが泣き叫び、前衛的ソロがあり、フィドルがぎしぎし軋む。「White Cat Heat」(『Contact High with The Godz』)と「Squeak」(『Contact High~』初演・『Godz 2』再演)はこのバンドの才能がいかなるものかをよく表しており、暴動抑止のはけ口となる究極的な切り札を暗示しているかもしれない。

 以上が『The Encyclopedia of Rock Vol.2』のゴッズの項目の全文意訳引用ですが、第3作『第三新約聖書』でジェイ・ディロンはバンドの正式メンバーから外れ(録音には参加しています)、ESPディスクの経営難に伴ってゴッズはいったん解散してしまいます。ESPが制作を再開し、ゴッズも5年ぶりに再結成してストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の脱力カヴァーを含む第4作『Godzundheit (悪乗りゴッズ)』(ESP 2017, 1973)をマッカーシー、ケスラー、ソーントンの3人で制作しますがゴッズは事実上1968年でとっくに解散しており、1990年代初頭にドイツのインディー・レーベルZYX MusicがESPディスクのアルバムを一斉CD化した際に『コンタクト・ハイ~』から『悪乗りゴッズ』の既発売4作の初CD化に伴って発掘発売されたゴッズ名義の未発表アルバム『Alien』(ESP/ZYX Music 3008-2、1973年録音)はジム・マッカーシーが、『Godz Bless California』(ESP/ZYX Music 3019-2、1974年録音)は西海岸に移住したポール・ソーントンが臨時メンバー(なんとロサンゼルス滞在時のポール&リンダ・マッカートニー夫妻が1曲参加!)を集めて制作した実質的なソロ・アルバムでした。2005年にジェイ・ディロンの訃報(2002年頃)が明らかになり、2007年にはマッカーシー、ケスラー、ソーントンのオリジナル・メンバー3人が集まって新作の録音を開始したニュースが流れ、インディー・レーベルのMantra Ray Recordsから新作『The Godz Remastered』が発売されたのが2012年で、また新作の残りテイクが同レーベルから『Gift from the Godz』として発売された2014年からラリー・ケスラーが単独でゴッズ名義のライヴ活動を行うようになります。2015年の新作シングルの録音にポール・ソーントンが参加したことからゴッズはケスラーとソーントンを中心に新メンバー2人を加えて本格的に再結成され、2019年にはケスラーによる再結成以降のゴッズのドキュメンタリー映画も公開されました。イギリスの音楽誌「Shindig !」でゴッズを表紙に巻頭特集が組まれたのもドキュメンタリー映画の公開に併せてでしたが、2019年4月にポール・ソーントンが逝去し一応ゴッズは2018年をもって活動を休止したとされます。こうしたゴッズの歩みを、ギャラすら払わないESPディスクの契約実態(ノーギャラでアルバム6枚制作、しかも2枚はボツ)と考えあわせると、無償の行為という実存主義的命題すら浮かんでくるほどです。またデビュー作ではハンク・ウィリアムズ、本作ではビートルズ、第3作ではボブ・ディランのレパートリー(の改作)、第4作ではストーンズの下手くそなカヴァーを誰も望んでいないのに平気でやっています。これはファッグスはやらず、後のクラウトロック(西ドイツの実験派ロック)勢のアモン・デュールやファウストがパロディまたは批評的に採り入れた手口ですが、ゴッズの場合はパロディでも何でもなく、単に下手なだけなのをわざわざ見せつけているだけなのです。再結成以前のゴッズの3作では本作『ゴッズ2』はまだしも音楽的な作品で、ニューヨーク・パンク~ノー・ウェイヴにつながるダークでシニカルな音楽性が一応サマになっている、ゴッズの最高傑作と呼べるアルバムです。

 ゴッズはファースト・アルバムではメンバー全員がバンドを組んでから楽器を始めたためにほとんどまともな演奏ができないというあんまりな状態でデビューしたバンドで、代表曲「White Cat Heat」: YouTube Godz White Cat Heatなどはパーカッションの連打とアコースティック・ギターのかき鳴らしにメンバー全員で犬猫のケンカの鳴き真似をする、しかも大して似ていない壮絶な出来(同作の「Turn On」や「Na Na Naa」、本作の「Riffin'」「Where」「Squeak」も同工異曲です)と、先輩ファッグスのダダイズムが音楽的な焦点の定まった戦略的で方法的なものだったのに対して、ゴッズのデビュー作はファッグスのでたらめに聞こえる部分のみを模倣した結果のような、何をやりたいのかすら全然伝わってこない壮絶なアルバムでした。同作には「Lay In The Sun」というシングル・カット曲(!)もありますが、アコースティック・ギターの1コードだけをかき鳴らしながら歌詞は「All I wanna do lay in the sun」の1行をくり返すだけです。ファッグスのような高度な文学性や反体制的アティテュードすら皆無なので、そもそも音楽で伝えたい事柄や音楽的表現の追求すら放棄している筋があります。1966年といえばビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンがアルバム『Pet Sounds』で、ポップ・ソングに「神」の御名を使っていいのだろうかと名曲「神のみぞ知る (God Only Knows)」の発表に悩んでいた頃ですが、何も考えずに「Godz」と名乗ったデビュー作のゴッズは神の名のもとに猫や犬の鳴き真似(しかも全然サマになっておらず、聞いているうちにこちらの耳がおかしくなって次第にそれらしく聞こえてくる)を平然と録音していたので、「当時究極的であると同時に最悪」と批評家をして驚嘆せしめるだけのものがあったのです。ファッグスやホリー・モーダル・ラウンダーズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響から最良のアシッド・フォーク・ロックを生んだのがパールズ・ビフォア・スワインなら、ゴッズはファッグス影響下の最悪の見本を体現してみせたので、本作では前作(ほとんどアコースティック・ギターとパーカッションのみでした)ではまだ演奏できなかったエレクトリック・ギターやベース、キーボード、ヴィオラの使用に踏みきり、といってもほとんど弾けないのでどうやらライヴ活動で頭角を現してきたヴェルヴェット・アンダーグラウンド(ヴィオラの使用にその影響は顕著です)を実際に聴いてきたか、評判だけで模倣しようとしてみせた節があります。ビートルズの「ユー・ウォント・シー・ミー」をカヴァーして、途中で演奏を中断し雑談を挟んで一応完走するふざけたヴァージョンもありますが、楽器なんかスタジオ入り10分前まで触ったこともないと言わんばかりの稚拙な演奏(Allmusic.com評)でひたすら1コードだけ、しかもこれでもかの単調さと汚い音色で無意味な歌詞を唸るだけ(「Riffin'」ではターザンの真似と「メリーさんの羊」の口笛、「Where」ではタイトルを連呼するだけ)と、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが現代音楽からの知識と方法意識から、計算された効果的なミニマリズムで表現していた手法が、ゴッズの場合は単に安易に演奏できるからヴェルヴェット・アンダーグラウンド風の手法を採り入れたにすぎないのです。

 本作のA6「Soon The Moon」はミネソタ産ガレージ・パンクの雄ザ・リッターのヒット・シングル「Action Woman」('67年1月シングル発売)をヒントにした楽曲かもしれません。ドラムスの四つ打ちのビートとトニックだけで刻むベースに類似がありますが、かっこいい高揚感のあるザ・リッターの同曲に較べてゴッズの「Soon The Moon」はどんよりとした虚無的なトリップ感覚しかありません。ゴッズが本当にマジもんの低脳無能集団だったか、あえてこれほどひどいものを晒していたのかは想像のつかない次元にあります。しかしこのゴッズにしてはロックな名曲が、ゴッズとも思えないほどかっこいいオープニング曲のA1「Rader Eyes」なのはバンドの発想と力量を示してあまりあり、ゴッズのアルバムの虚無的酩酊感となっているのは、ちょっと他のバンドには見られない(あえて言えば、これを意識的にやってのけたのが'70年代ポスト・パンクの先鋒、ワイヤーだったとも言えますが)奇観です。

 次作『第三新約聖書』にはボブ・ディランが民謡メロディーを改作したプロテスト・フォーク時代の名曲「ハッティ・キャロルの寂しい死 (Lonesome Death of Hattie Carroll)」(アルバム『時代は変る』1964.2収録)と同じメロディー、コード進行のポール・ソーントン作のオリジナル曲もあります。本作のオープニング曲「Rader Eyes」(タイトルからしてなかなかです)も「Soon The Moon」と同様、ゴッズと思わないで聴けば'70年代ニューヨークのノー・ウェイヴの先駆的ナンバーのようでもあるというか、極端な非音楽的アプローチによって結果的にノー・ウェイヴを予見したナンバーです。本当に間抜けなだけの(しかし徹底して最低であろうとした)度し難いカスのようなバンドなのか、『The Encyclopedia of Rock』が可能性を見たように暴力衝動の音楽的昇華なのか、もし後者なら、いや前者だとしても、そもそもロックンロールの本質には暴力性と下降指向があり、何も考えていなかったからこそゴッズは何となくその両方を体現していたとも言えます。またこのカスのような音楽に案外強い中毒性があるのは紛れもなく、主流ポップとは別に纏綿と流れるこの系譜がオルタナティヴ・ロックならば、ゴッズもまた正統的な反主流ロックの源流とも言えるので、アートでもポップでもないからこそ達成し得た素人くささならではの純度ではファッグスやヴェルヴェット・アンダーグラウンドとは別の次元に成り立っていたとも見なせます。また同時期の西ドイツで暇な駐在アメリカ軍人がやっていた異端バンド、モンクス(「僧侶たち」)とゴッズはバンド名だけでも表裏一体で、偶然ニューヨークとドイツで同じことをやっていました。しかしファッグスはおろかゴッズに較べればフランス・ツアーまでこなしたモンクスは遥かにプロのバンドらしく見えるので、いっそうゴッズの存在はロック史に仕組まれた半永久的にわけのわからない冗談のように際立っています。しかもメンバー全員がレコード会社勤務のサラリーマン(……宴会芸!?)だったそうですから、本当にこの連中は何を考えてこんなことをやっていたのでしょうか。

(旧記事を手直しし、再掲載しました)