ゴッズ(1)コンタクト・ハイ・ウィズ・ザ・ゴッズ (ESP, 1966) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ゴッズ - コンタクト・ハイ・ウィズ・ザ・ゴッズ (ESP, 1966)
(Reissued 1972 "Contact High with The Godz" LP Front Cover)
(Original 1966 LP Front Cover)
ゴッズ Godz - コンタクト・ハイ・ウィズ・ザ・ゴッズ Contact High with The Godz (ESP, 1966)  

Recorded in New York City, September 28, 1966
Originally Released by ESP-Disk 1037, 1966
Reissued by ESP-Disk 1037, 1972
(Side A)
A1. Come On Girl, Turn On (Kessler, McCarthy) - 4:21
A2. White Cat Heat (Dillon, Kessler, McCarthy) - 2:11
A3. Na Na Naa (McCarthy) - 2:58
A4. Elevem (Dillon) - 3:56
(Side B)
B1. 1 + 1 = ? (McCarthy) - 2:39
B2. Lay In The Sun (McCarthy) - 2:57
B3. Squeak (Kessler) - 2:54
B4. Godz (Dillon) - 1:26
B5. May You Be Alone (Hank Williams) - 1:34
[ Godz ]
Jim McCarthy - guitar, plastic flute, harmonica, vocals
Larry Kessler - bassguitar, violin, vocals
Jay Dillon - psaltely (autoharp), art direction
Paul Thornton - drums, guitar, maracas, vocals
(Reissued 1972 "Contact High with The Godz" LP Liner Cover & Side A Label)

 このバンド、ゴッズは‘60年代ロック最大の特異点と言うべきバンドなので、以前にもご紹介しましたが、何度も取り上げたいと思います。ゴッズという同名バンド(ただし綴り違いの「The Gods」)にはグレッグ・レイクがキング・クリムゾン加入前に参加していたサイケデリック・ロック・バンド、また1976年にグランド・ファンク・レイルロードのドン・ブリューワーのプロデュースでデビューしたハードロック・バンドもいますが、こちらはESP-Diskからアルバムをリリースしていた、'60年代ニューヨークのアンダーグラウンド・バンドのゴッズです。イギリスのロック辞典『The Encyclopedia of Rock Vol.2』1975では「究極にして最悪のデビュー・アルバム」「ロックの最低水準であろうとする懸命かつ不断の努力」「容赦なく非音楽的」と特記され、今日アメリカの音楽サイトAllmusic.comでは五つ星満点で四つ星半(『Godz 2』は三つ星、『The Third Testament』1968は四つ星、『Godzhundheit』1973は三つ星)、Rateyourmuic.comでは5.00満点で3.01(Godz 2』は3.32、『The Third Testament』は3.14、『Godzhundheit』は2.85)と、今日でもそれなりに評価の対象となっているバンドです。Allmusicの評価ではデビュー・アルバムの本作が最高作、Rateyourmuicでは低評価なりに『ゴッズ2』が最高作、ともに次点が『The Encyclopedia of Rock Vol.2』が「前2作よりは多少はまともな」と評したサード・アルバム『第三新約聖書 (The Third Testament)』なのは一種の妥協点と言えるでしょう。

 ゴッズについては次回で最高傑作『ゴッズ2』を採り上げる際により詳しくご紹介するつもりですが、レコード会社勤務のサラリーマン(ジェイ・ディロンは広告デザイナー、他の3人は営業マン)4人がESPディスクから2作のアルバムを出していたファッグス(『Fugs First Album』1966.3が全米アルバムチャート142位、『The Fugs (Second Album)』1966.5が95位)に触発されて結成し、ファッグスに続いてESPディスクのアンダーグラウンド・ロック路線の第2弾アーティストとしてデビューしたバンドでした。このデビュー・アルバムではジェイ・ディロンがアートワークを手がけていますが、アートワークの方はともかくメンバー全員楽器も音楽もまったくの初心者で、『ゴッズ2』『第三新約聖書』とアルバムを重ねるごとに演奏も曲作りも少しずつだけ上達しますが、デビュー・アルバムの本作の時点では演奏も曲作りも前例のないほど壊滅的で、ミュージシャンとしては素人なりに詩人・文筆家の集まりだったファッグスが曲作りもパフォーマンスもサマになり、焦点の定まった、しっかりしたアティチュードを持ったバンドだったのに対して、一体何をやりたいのか自覚もなければ演奏手段もないような始末でした。アルバムも8曲のオリジナル曲と大カントリー歌手ハンク・ウィリアムズのカヴァー1曲をつたなく演っており、全9曲で25分しかない貧弱なアルバムです。AB面で30分にも満たないLPは当時は珍しくありませんでしたし、ビーチ・ボーイズやファッグスもAB面計30分未満で充実したアルバムを作っていたのに、ゴッズのメンバーは全員が曲を買いても何のアイディアもないほどで、シングル・カットされた(!)本作の代表曲B2「Lay In The Sun」でも歌詞は1行「All I wanna do lay in the sun」をくり返しているだけです。現行CDでは1曲目と2曲目の位置が入れ替えられて1曲目に「White Cat Heat」、2曲目にタイトルを短縮された「Turn On」が配置されていますが、2分間ケンカする猫の鳴き真似をしているだけ(しかも下手で全然サマになっていないのに、聴いていると後半から耳がいかれて猫の鳴き声に聞こえてくる!)の「White Cat Heat」、歌詞は4分あまり「Well Come on, well come on little girl turn on」だけの「Come On Girl, Turn On」と冒頭2曲だけでアイディアは尽きており、この2曲だけ聴けばゴッズの本質はつかめます。「Na Na Naa」はタイトル通りナナナーとハミングしているだけ、現行CDでは「Eleven」ですがLP時代には誤植か故意か「Elevem」というタイトルだった4曲目もタイトルを唸っているだけと、作曲メンバーは別々ですが、これほど何をやりたいのかリスナーに全然何も伝わってこない音楽というのも他に類を見ないほど壮絶で、そのためゴッズのアルバムは今日にいたるまで語り継がれ、聴き継がれているのです。

 アルバムB面は「1 + 1 = ?」とこれまた白痴的なタイトルの牧歌的フォーク・ロック(しかもアコースティック・ギターの演奏もハーモニカの音色も汚いだけ)で始まり、前述した「Lay In The Sun」があり、適当にかき鳴らしているだけのギターとパーカッションにヴァイオリンがギーギー軋んでいるだけのインストルメンタル曲「Squeak」(『ゴッズ2』でも再演されます)、メンバー全員で口々にバンド名を叫んでいるだけの「Godz」と来て、オモチャの笛がピロピロするハンク・ウィリアムズのカヴァー(現行CDでは「May You Never Be Alone Like Me」と改題)で「君は僕ほど孤独じゃないだろ?」と呼びかけて終わります。「(当時のニューヨークのアンダーグラウンド・シーン、またロック史上にあっても)究極にして最悪のデビュー・アルバム」「ロックの最低水準であろうとする懸命かつ不断の努力」「容赦なく非音楽的」であるためにはこれほど徹底していなければならないわけで、本作の発売は1966年末でヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビュー・アルバム(1967年3月)に先んじていますが、ファッグスやヴェルヴェットはもとよりゴッズに較べれば当時のラヴやフランク・ザッパ&マザーズ、ザ・シーズを始めとする西海岸のアンダーグラウンド・バンド、ザ・13thフロア・エレベーターズやレッド・クレイオラらのテキサス・サイケなどは真面目に音楽的な追求(実際そうでしたが)をしていたバンドに見えてきます。次回ご紹介する『ゴッズ2』では本作より格段に音楽的骨格の明確なプロト・パンク/プロト・サイケデリック的音楽性を獲得するゴッズですが、それでも本質的には本作と以降の『ゴッズ2』や『第三新約聖書』、『悪乗りゴッズ (Godzhundheit)』、また'90年代の発掘CD化まで未発表に終わっていた『Alien』(1973年録音)、『Godz Bless California』(1974年録音、なんとポール&リンダ・マッカートニー夫妻が1曲参加!)までゴッズの姿勢は何も変わっていないので、これほどあっけらかんとした虚無的な冗談ロックがビジネス至上主義の国アメリカの、ビジネスとアートの聖地ニューヨークから生まれてきたのには腰が砕けます。しかも21世紀になってからオリジナル・メンバーで再結成し、メンバーの一人が逝去したつい最近の2018年までマイペースに新作録音やライヴ活動までしていたとは何ということでしょうか。ゴッズのメンバーにとってはゴッズがライフワークだったという厳粛な事実の前には、虚数に虚数を無限に掛けるような壮絶な価値転倒すら感じずにはいられない空恐ろしさすら覚えます。

(旧記事を手直しし、再掲載しました)