もとよりあんかけ焼きそばは大好物ですが、この焼きそば弁当は、何と言っても「一日1/3食分の野菜あんかけ焼きそば」というのが魅力的です。一人暮らしの独身男は何しろ野菜を摂る機会がどうしても乏しくなってしまうので、最近は極力サラダを副菜に摂るよう心がけていますが、それでも成人男性の野菜の一日の必須摂取量には足りていないでしょう。
20年ほど前『海辺のカフカ』というほとんど記憶に残っていない長篇小説を読んだ時、唯一印象に残っているのは家出した主人公の読書家(特に夏目漱石が好き)の少年が図書館に住みこんで司書の女性の若い燕になるアホらしい設定と、もうひとつ、この少年が牛丼が好きで牛丼屋で牛丼を注文する時必ず野菜サラダも頼むことでした。少年という設定なのに中身はいかにもおじさんで、この小説の作者にはフィクションを書こうとしても作者自身の年齢を投影した想像力しかないんだな、と思いましたが、野菜サラダだけはうらやましかったのが印象に残っています。同作を読み返すことは二度とないと思いますが、「一日1/3食分の野菜」などと名うったあんかけ焼きそばなどを食べるとふと牛丼に必ず野菜サラダをつける『海辺のカフカ』の少年を思い出すのは、我ながらちょっと目黒のサンマめいた滑稽さを感じます。