サン・ラ - サンライズ・イン・ディファレント・ディメンションズ (Hat Hut, 1980) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - サンライズ・イン・ディファレント・ディメンションズ (Hat Hut, 1980)
サン・ラ Sun Ra Arkestra - サンライズ・イン・ディファレント・ディメンションズ Sunrise in Different Dimensions (Hat Hut, 1980) :  

Recorded Live at Gasthof Mohren, Willisau, Switzerland, February 24, 1980
Released by Hat Hut Records hat Hut SEVENTEEN 2R17, 1980
Japanese Released by DIW Records DIW-1066/67, Hat Hut Records hat Hut SEVENTEEN (2R17), 1981
(Side A)
A1. Light from a Hidden Sun (Sun Ra) - 3:55
A2. Pin-Points of Spiral Prisms (Sun Ra) - 4:40
A3. Silhouettes of the Shadow World (Sun Ra) - 7:20
A4. Cocktails for Two (Johnston-Coslow) - 3:20
(Side B)
B1. 'Round Midnight (Hanighen-Monk-Williams) - 6:50
B2. Lady Bird (Dameron)/Half Nelson (Davis) - 8:00
B3. Big John's Special (Horace Henderson) - 3:40
B4. Yeah Man! (Sissle, Henderson)- 3:30
(Side C)
C1. Provocative Celestials (Sun Ra) - 10:55 [not on CD]
C2. Love in Outer Space (Sun Ra) - 4:55 [not on CD]
C3. Disguised Gods in Skullduggery Rendez-vous (Sun Ra) - 9:00
(Side D)
D1. Queer Notions (Hawkins) - 2:55
D2. Limehouse Blues (Braham-Furber) - 3:50
D3. King Porter Stomp (Morton) - 3:30
D4. Take the A Train (Strayhorn) - 5:05
D5. Lightnin' (Ellington) - 2:45
D6. On Jupiter (Sun Ra) - 3:35
D7. A Helio-hello! and Goodbye Too! (Sun Ra) - 3:10
[ Sun Ra Arkestra ]
Sun Ra - piano, organ
Michael Ray - trumpet, flugelhorn
Marshall Allen - alto saxophone, oboe, flute
Noel Scott - alto saxophone, baritone saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, clarinet, percussion
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
Kenny Williams - tenor saxophone, baritone saxophone, flute
Eric "Samurai" Walker - drums
Chris Henderson - drums
June Tyson - vocal 

(Original Hut Hat "Sunrise in Different Dimensions" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side A Label)

 サン・ラのライヴ盤はごく特殊な新曲コンセプト・アルバム(『Universe in Blue』'72、『Sub Underground』'74など)を除いて、初ライヴ作『Nothing Is』'66(発売'66)以降1970年代中盤('76年)までには、

『Nuits de la Fondation Maeght, Volume I & II』'69&'70(発売'74)
『It's After the End of the World』'70(発売'71)
『Calling Planet Earth』'71(発売'98) 
"Egyptian Trilogy '71"『Nidhamu』(発売'72)『Live in Egypt 1』(発売Middle 70's)『Horizon』(発売Middle 70's)
『Life Is Splendid』'72(発売'99)
『Outer Space Employment Agency』'73(発売'73)
『Concert for the Comet Kohoutek』'73(発売'93)
『Out Beyond the Kingdom Of』'74(発売'74)
『It Is Forbidden』'74(発売2001)
『Live at Montreux』'76(発売'76)

 --などがあり、すべてサン・ラ・アーケストラの代表作と言えるものです。また1970年代後半('77年以降)では、

『Unity』'77(発売'78)
『Piano Recital - Teatro La Fenice, Venezia』'77(発売2003)
『Media Dreams』'78(発売'78)
『Disco 3000』'78(発売'78)
『Sound Mirror; Live in Philadelphia '78』'78(発売'78)
『Of Mythic Worlds』'78(発売'80)
『Omniverse』'79(発売'79)
『I, Pharaoh』'79&'80(発売'80)

 --があり、アーケストラのデビュー(1955年)以来初の休止期間だったと思われる1975年(1974年にデビュー以来のマネジメントと契約解消し、また作風の模索があったためと推定されます)以外には毎年公式ライヴ・レコーディングが残されています。発売が90年代、2000年代になったものは公式録音が契約上の理由やレーベルの経営難で未発売だったアルバムで、お蔵入りなどとんでもない質の高さに驚かされます。

 '80年代サン・ラ・アーケストラの劈頭を飾る本作はスイスでのライヴ録音で、1976年創設のスイスのインディー・ジャズ・レーベル、ハット・ハットからリリースされました。ハット・ハットはセシル・テイラー、スティーヴ・レイシーなど硬派のフリー・ジャズ系ジャズマンの新作制作を積極的に行っており、サン・ラのアルバム制作もかねてからの念願だったでしょう。アーケストラの自主制作レーベル、サターンからのアルバムとは比較にならないくらい録音クオリティ、アルバム・ジャケットともにメジャー・レーベルと遜色なく、ちゃんとコンテンポラリー・ジャズらしいジャケット・デザインでもあれば、2枚組LPのA面・C面に主にサン・ラのオリジナル新曲(A3、C2など旧来のライヴ定番曲の大胆な最新アレンジも含みます)、B面・D面にスタンダード曲を配した選曲も丁寧です。ちなみに1980年のオリジナルLPではサン・ラのオリジナル新曲は無題になっており、86年の再発売盤から曲名が明記されるようになりました。サン・ラのソロ・ピアノA1から始まりノー・テーマのインプロヴィゼーション曲A2~A3(1964年以来の代表曲「The Shadow World」の最新ヴァージョン)と間髪入れず畳み込む展開は、事前の作曲のない完全即興演奏だったのかもしれません。

 このA面とC面のオリジナル新曲のサン・ラ・アーケストラはセシル・テイラー・ユニットにこれまでになく接近しており、全曲をアコースティック・ピアノで通していることもあってアーケストラとしてはもっともシリアス・ジャズ寄りの演奏が聴けます。CDではLPのC1、C2が割愛されているのが残念ですが、マーシャル・アレンの素っ頓狂なオーボエをフィーチャーしたC3があるから良しとして、アーケストラらしいのはスタンダード曲のアーケストラ・ヴァージョンのB面・D面かもしれません。セロニアス・モンクの「'Round Midnight」もタッド・ダメロンの「Lady Bird」とマイルス・デイヴィスによるその変奏曲「Half Nelson」のメドレーもアーケストラならではのこってりとしてスリリングなアレンジです。サン・ラがステージ・レパートリーでオリジナル曲とジャズ・スタンダードを同等に演奏するようになったのは名盤『Live at Montreux』の頃からですが、1976年の『Live at Montreux』と1978年の『Unity』、そして1980年の本作を聴くと右肩上がりに良くなっているのに感嘆します。メンバーは半数が入れ替わりましたが、ピアノ(たまにオルガン)に徹してバンドを引っ張るサン・ラ自身の演奏がソロ・ピアノや変則編成の実験を経てさらに強力になったのを感じさせます。

 ところでピアノとテナーのデュオで演奏されるA4「Cocktails for Two」ですが、どう聴いてもテナーは「I Can't Get Started」を吹いているように聴こえるます。サン・ラのピアノが「Cocktails for Two」をリハーモナイズしているのに合わせて「I Can't Get Started」を平行演奏しているのでしょう。本作はバンド全員一丸となって盛り上げる場面と、ピアノとホーンのみで妖しいムードで迫る押し引きも巧みで、実際のライヴでは恒例の「Space Is The Place」で大合唱もしていたと思われますが、アルバムとしてのまとまりには、極端に走りがちな自主制作のサターン・レーベル作品にない客観的な制作姿勢が見られます。メンバーの半数が入れ替わった分、フル編成のアーケストラでも古参メンバーのジョン・ギルモア(テナーサックス)とアレン(マルチリード)、'70年代メンバーのダニー・レイ・トンプソン(バリトンサックス)とマイケル・レイ(トランペット)の比重がますます高まったのもこのライヴ・アルバムからわかります。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)