サン・ラ - ライヴ・イン・ローマ (Transparency, 2010) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ライヴ・イン・ローマ (Transparency, 2010)サン・ラ Sun Ra - ライヴ・イン・ローマ Live in Rome (Transparency, 2010) :  

Recorded live at "Teatro Giulio Cesare", Rome, Italy, March 28, 1980
Released by Transparency Records 0315, 2cds, 2010
All composed by Sun Ra expect as indicated.
(Disc 1)
1-1. Untitled
1-2. Tapestry From An Asteroid
1-3. Astro Black
1-4. The World Is Waiting For The Sunrise - Mr. Mystery
1-5. Discipline 27
1-6. Untitled
1-7. Untitled
1-8. Big John's Special (F. Henderson)
1-9. Yeah Man! (F. Henderson)
1-10. Springtime Again
1-11. Limehouse Blues (W. C. Handy)
(Disc 2)
2-1. Watusa
2-2. Lights On A Satellite
2-3. Enlightenment (Dotson, Sun Ra)
2-4. Space Is The Place - We Travel The Spaceways
2-5. Nothing Is
2-6. Children Of The Sun
[ Sun Ra Arkestra ]
Sun Ra - piano, organ, synth, conductor
Michael Ray - trumpet, flugelhorn
Marshall Allen - alto saxophone, oboe, flute
Noel Scott - alto & baritone saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, clarinet, percussions
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
Kenny Williams - tenor & baritone saxophone, flute
Eric "Samurai" Walker, Chris Henderson - drums, percussions
June Tyson - vocals 

(Original Transparency "Live in Rome" CD Liner Cover)

 '70年代後半以降のサン・ラのイタリアでの人気は高く、1977年~1978年のライヴ盤は『In Some Far Place: Roma '77』(Art Yard, 2016)をテレビ放映映像の抜粋しかYouTube上に上がっていない『Live at Montreux』(El Saturn, 1977)をご紹介した際に、また強力な変則カルテット編成のライヴ三部作『Media Dreams』『Disco 3000』『The Sound Mirror』(El Saturn, 1978)をすでにご紹介しました。本作『Live in Rome』は1978年1月以来のイタリアでのライヴ収録で、音質からも放送用、または会場側の記録録音かバンド・レコーディングと思われる2時間のフル・コンサート収録で、ミックス済みの状態で発掘リリースされ、ややナロウ・レンジながら臨場感あふれる、アーケストラの演奏・観客の反応ともに熱気の伝わってくる好作です。まるでロックのコンサートのような盛り上がりというのは話が逆で、イタリアのロックというとコテコテのプログレッシヴ・ロックやカンタウトーレ(シンガーソングライター)作品に近いラヴ・ロックのイメージが強いのですが、PFMやゴブリン、ニュー・トロルスのように国際的成功を収めたバンドも根本にはジャズ・ロック指向が強いメンバーが集まった成り立ちを持っており、フランスとともに戦前からジャズの人気が高かったのでジャズの受容とロックの受容が地続きな音楽国でした。従来のポピュラー音楽のフォーマットを解体することから始まったドイツのロックとはそこがやや異なりますが、ドイツでもサン・ラのジャズの実験性はロックの革新と並行して受けていたので、この三大音楽国を始めとするヨーロッパのミュージシャンやリスナーには'70年代以降の新たなロックの潮流もサン・ラ・アーケストラの斬新なジャズも同じ次元で好評を博していたと言う方が正確でしょう。

 特撮映画のキャラクターに扮したようなサン・ラの強烈なポートレートをジャケットにした本作は、Transparency社版CDやアーケストラ公式サイトでは上記のような曲目になっていますが、全10トラックでランニング・タイム無記載に分けられているTransparency社版CDそのものが楽曲のトラック分けに対応しておらず、SNS上のサン・ラ・マニアの討議・研究では実際には以下の曲目のセットリストになると究明されています。またYouTubeにアップされた曲目リストではさらに異なる楽曲の区切りがされているので、先の公式曲目リストでは楽曲ごとのタイム表記を併記できなかったのはそうした理由によります。

(Disc 1)
01. Medley : Improv > Pleiades > Improv > Tapestry From An Asteroid > Improv > Astro Black > Strange Worlds > The World Is Waiting For The Sunrise > The Living Myth > Mystery, Mr. Ra > Discipline 27 (36:03)
02. Inside The Blues (02:08)
03. Blues (03:20)
04. Big John's Special (03:00)
05. Yeah Man! (02:30)
06. Springtime Again (06:20)
07. Limehouse Blues (03:46)
(Disc 2)
08. Watusi (07:44)
09. Lights On A Satellite (05:45)
10. Enlightenment (02:15)
11. Space Is The Place (08:55)
12. They'll Come Back (04:26)
13. Medley : Calling Planet Earth > On Jupiter > Hit That Jive Jack (15:21)
14. [cuts in >] Exotic Forest [incomplete] (01:57)
15. King Porter Stomp (Jerry Roll Morton) (04:03)
16. Sun Ra and His Band From Outer Space (01:02)

 上記のようにアーケストラの代表曲、新曲、古典ジャズ曲が多くはメドレー形式で演奏され、いずれも本作の時期ならではの極端にデフォルメーションされ、断片化されたアレンジで演奏されているため、Transparency社盤CDでも正確な曲目を特定できなかったのでしょう。またライヴ収録から30年を経て発掘リリースされたため、アーケストラ側でも正確なセットリストの記録が残っておらず、存命中のメンバーの記憶でも確認できなかったため、Transparency社盤の曲目記載をそのまま採用したと思われます。サン・ラ生前リリースの公式盤のニューヨークでのライヴ盤『Voice of the Eternal Tomorrow』(El Saturn, 1980)は1980年9月収録ですから、本作は1980年2月スイス収録のサン・ラ生前リリースの公式盤『Sunrise in Different Dimensions』(El Saturn, 1980)と『Voice of the Eternal Tomorrow』の間を埋める貴重な発掘リリースになりました。9人編成+ジューン・タイソンのヴォーカルと標準編成アーケストラとしては最小ながら恒例のパーカッション・アンサンブルから始まり、マルチ・キーボードで暴走しつつもテーマを提示するサン・ラのプレイに導かれて、5曲目の「Discipline 27」までは36分にもおよぶノンストップのメドレーです。また「Space Is The Place」以降の終盤はTransparency社盤では「Nothing Is」とされていますが、同名の1966年の名盤ライヴと似通った展開が見られ、「Exotic Forest」が演奏されているので1980年版「Nothing Is」と解釈されたのでしょう。エンディングではアルバム『Atlantis』エンディングで用いられたテーマ合唱が聴かれます。本作収録のローマでのライヴは'50年代~'60年代~'70年代アーケストラの歴代レパートリーを最新アレンジで一気に演奏した大サービスのセットリストで、ミックス済みのマスターテープが残されていることからリリースも検討されたものと思われます。しかし本作はアナログLP3枚組にもおよぶ2時間あまりのフルセットでないとあまり意味をなさないので、サン・ラ生前のリリースは見送られ、収録から30年を経てようやく発掘リリースされたものと思われます。また断片的なメドレーが続くためサン・ラ生前の公式リリース作品を聴いていないと、ライヴ会場の観客はともかく、音源だけではやや散漫に聴こえるライヴ盤でもあります。しかし1980年のアーケストラのライヴをフルセットで楽しめる点では本作も大きな価値のあるアルバムであり、この頃からようやくアーケストラも1977年~1979年のイレギュラー期を乗り切り、レギュラー編成に戻って躍進を続ける体制が整います。本作はその始まりをとらえた発掘ライヴとしてドキュメント的価値以上の内容を誇るアルバムです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)