偽アーケストラのレア廃盤!ソング・オブ・スターゲイザース (El Saturn, 1979) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ソング・オブ・スターゲイザース (El Saturn, 1979)
サン・ラ Sun Ra and his Myth Science - ソング・オブ・スターゲイザース Song of the Stargazers (El Saturn, 1979) :  

Recorded at unknown studios, date unknown (around '78)
Released by El Saturn Records Saturn 6161, LP487, 1979
All composed and arranged by Sun Ra (credited)
(Side A)
A1. The Others in their World - 10:15
A2. Somewhere Out - 4:42
A3. Distant Stars - 1:03
A4. Duo - 3:05
(Side B)
B1. Seven Points - 4:51
B2. Cosmo Dance - 6:33
B3. Galactic Synthesis - 9:52
[ Sun Ra and his Myth Science Arkestra ]
(credited)
Sun Ra - piano, keyboards
Michael Ray - trumpet (possibly)
Craig Harris - trombone
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe, piccolo
John Gilmore - tenor saxophone
Eloe Omoe - bass clarinet 
Danny Ray Thompson - baritone saxophone 
unknown - electric guitar
unknown - bass
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums (possibly)
unknown - conga
unknown - percussion 

(Original El Saturn "Song of the Stargazers" LP Liner Cover & Side A Label)

 本作はYouTubeにも上がっているので一応音だけは聴くことはできますが、初回プレス以降一度も正式再発売されず、一度だけ年代不詳のイタリア製アナログLPで海賊盤が出回っただけの稀少盤です。それなりに初回プレスの枚数は多く、録音年月日不詳なことからアーケストラの公式サイトの完全ディスコグラフィーでも発売順で1979年度の劈頭に掲載されていますが、アーケストラ公式サイトでも矛盾を来しているのが、マネジメントによるシカゴ・サターンからの公式リリースは1977年のライヴ盤2作『The Soul Vibrations of Man』(El Saturn 771)と『Taking a Chance on Chances』(El Saturn 772)で終了し、以降バンド自身が運営するフィラデルフィア・サターンのみになったという記述で、本作は正式なリイシュー一切なしという点でもマネジメント側のシカゴ・サターンがバンドに無断でリリースしたものと推定され、さらにマニアの間ではスタジオ盤の本作はサン・ラ・アーケストラの未発表ニュー・アルバムではなく、シカゴ・サターンが地元シカゴのミュージシャンにサン・ラ・アーケストラの未発表曲集を装って録音させた贋作なのではないかというのが近年の定説になっています。しかもマネジメント側は本作を正式にサン・ラ作品として著作権登録しているため、バンド側も再発売は拒否できても本作を贋作として隠滅できないという厄介な事情になっているようです。

 筆者も本作の入手には苦労し、サン・ラ作品ならすべてオンデマンド販売するという触れこみの業者から他の入手困難アルバムと一括してCD-Rコピーを取り寄せたのですが、海外のマニアがSNS上で論議しているようにまずトランペット奏者がマイケル・レイとは思えないどころか、アーケストラの中核メンバーでサックス陣の重鎮のマーシャル・アレンもジョン・ギルモアも偽者くさい、それだけならばライヴでもスタジオ録音でもメンバーの組み換えが多いアーケストラがたまたまレイやアレン、ギルモア不在で録音したとも考えられるとしても、ドラマーやパーカッション奏者のカウベル使用がサン・ラ・アーケストラらしくない、そもそもオルガンからソロ・ピアノ演奏に移るとこのマルチ・キーボード奏者自身がサン・ラ自身とは思えない、という点で多くのマニアの意見が一致しています。サン・ラがエジプトのサン・ラ・アーケストラのフォロワー・バンドと共演したアルバムがのちにあり、そこで聴けるアーケストラもどきのバンドの演奏がなかなかアーケストラらしい特徴をとらえて演奏しているものの、あちこちで本物のサン・ラ・アーケストラらしからぬ演奏がちらちらのぞいてしまう、という面白いアルバムがありますが、どうも本作もシカゴ・サターン主宰者のアルトン・エイブラハムが地元のジャズマンを集めて「サン・ラ・アーケストラへのプレゼンテーション・アルバムを作ってくれ」と持ちかけ、俺たちのデモテープをサン・ラ・アーケストラが採用してくれるのかと乗り気になったジャズマンたちの録音がそのままサン・ラ・アーケストラのアルバムとして発売されてしまったのではないか、という成立事情が、近年ではサン・ラ生前からの熱心なマニアの間では定説になりつつあります。

 おそらくアーケストラ公式サイトが本作を一応公式ディスコグラフィーに載せているのは、決別したとはいえバンド創設から25年あまり世話になったエイブラハムへの金銭面の義理があり、公式再発売まではさすがに許可していないものの出てしまったアルバムは仕方ない、とアーケストラ作品として一応公認だけはしている、またはアーケストラ自身も本作が偽作か真作かわからない(!)ということでしょう。アーケストラが1972年にフィラデルフィアに本拠地を移してバンド自身もフィラデルフィア・サターン作品をリリースするようになってから、シカゴ・サターンには義理立てだけでいろいろ音源を提供してきた事実もあります。シカゴ・サターンでは明らかにフィラデルフィア・サターン作品よりも質の劣る、デモテープ段階のような音源ばかりをアルバム・タイトルやジャケット、アルバム内容の編集によってアーケストラの公式アルバムらしい作品としてリリースしてきたのが1972年~1977年のシカゴ・サターン作品でした。『The Soul Vibrations of Man』『Taking a Chance on Chances』のライヴ盤2作でもうシカゴ・サターンではバンドからの提供音源をリリースし尽くしたはずでした。義理立てするならファン有志が立ち上げたフィリー・ジャズ・レコーズなどに新作を録音するよりシカゴへの凱旋公演のついでにシカゴ・サターンに新作提供すべきものを、過去のシカゴ・サターン作品の版権はアルトン・エイブラハムが握っていたはずですから、新作提供の話はどちらからも起こらなかったと思われます。本作のリリースにいちばん驚いたのはサン・ラと当時のアーケストラのメンバーだったと思いますが、フィラデルフィア・サターン作品すらどさくさ紛れのリリースを続けてきたアーケストラとしては自分たちが提供した音源だったのか、新たに捏造されたアーケストラの贋作なのか多いに混乱し、再プレスは拒否するとしてもリリースされてしまった初回プレスの回収までには至らず、またこのリリースを贋作と公表すれば過去のシカゴ・サターン作品まで渡ってファンの信頼を裏切ることから本作限りは目をつぶったものと思われます。ただし、公式サイトでは本作の録音データを「Live, unknown date and place.」と、スタジオ録音であることを否定しています。またA1とA3は1960年に同名曲がありますが、同名異曲であることを注記しています。

 というわけで、本作はビートルズの海賊盤に偽ビートルズの音源が紛れこんでいるのと同じような、おそらく9割9分偽アーケストラによる贋作なのですが、オルガン・ソロの一部に部分的にサン・ラ自身の未発表音源を編集してある可能性も指摘され、またアーケストラからの音源のうち音質的、または完成度からは使い物にならない演奏を編集、または新たに匿名ジャズマンたちによって再録音させた可能性も捨てきれず、また前述の通りシカゴ・サターンは本作収録の全7曲をサン・ラ新作オリジナル曲として著作権登録しているため、もうアーケストラ側でも再発売こそ拒否できこそすれ、存命中のメンバーにとっても自分たちが演奏した録音だったのか、捏造された贋作なのか記憶にもない状態なのでしょう。1977年~1979年の、新作製作ラッシュだった頃のアーケストラならではの椿事を体現するアルバムでもあります。それに本作は贋作としては良くできていて、しれっとアーケストラの新作と聴かされれば新曲ばかりでなかなか力作ではないかと、筆者も疑念を抱きながら長年それなりに愛聴してきたくらいです。こんなことが平気で起こるのがいかにもサン・ラ・アーケストラらしいとも言え、サン・ラ生前にリリースされた贋作というだけでもちょっとした珍品として気に留めていい(?)アルバムです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)