サン・ラ - ジ・アザー・サイド・オブ・ザ・サン (Sweet Earth, 1979) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ジ・アザー・サイド・オブ・ザ・サン (Sweet Earth, 1979)サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - ジ・アザー・サイド・オブ・ザ・サン The Other Side of the Sun (Sweet Earth, 1979) :  

Recorded at Blue Rock Studios, 29 Greene St. NYC, November 1, 1978 & January 4, 1979
Released by Sweet Earth Records SER-1003, 1979
All composed by Sun Ra expect as noted.
(Side One)
A1. Space Fling - 7:40
A2. Flamingo (Anderson, Grouya) - 4:50
A3. Space Is The Place - 9:50
(Side Two)
B1. The Sunny Side Of The Street (J. McHugh) - 9:40
B2. Manhattan Cocktail - 10:15
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - piano, Fender Rhodes, percussion, bells, vocal
Walter Miller - trumpet
Michael Ray - trumpet
Eddie Gale - trumpet
Tony Bethel - trombone
Robin Eubanks - trombone
Vincent Chancey - fluegelhorn
Marshall Allen - alto saxophone, flute
Danny Davis - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, percussion
James Jacson - basoon, flute, percussion
Eloe Omoe - bass clarinet, alto saxophone
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute, percussion
Dale Williams - electric guitar
Oscar Brown Jr. - electric bass
Bob Cunningham - bass
Ben "Jereeboo" Henderson (Jaribu Shahid) - bass
Atakatune (Stanley Morgan) - percussion
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums, percussion
William Goffigan - percussion
Eddie Thomas - percussion
June Tyson - vocal (on A3) 

(Original Sweet Earth "The Other Side of the Sun" LP Liner Cover & Side One Label)

 ヨーロッパ・ツアー後の仕切り直しとなった1977年度最初のアルバム『Solo Piano, Volume 1』(1977年5月録音)から1978年度作品まで、ご紹介できたアルバムだけでも本作ですでに18作を数えますが、本作から『I, Pharaoh』まで1978年11月~1980年6月に至る時期にも、サン・ラ・アーケストラは実に8作ものアルバムを集中録音します。本作も完成は1979年1月のセッションですし、この時期最後の『I, Pharaoh』も録音は1979年に始まりますから、この8作は一括して1979年度の連続セッションと考えていいでしょう。

1. The Other Side of the Sun (Sweet Earth, rec.1978.11.1, 1979.1.4/rel.1979)
2. Song of the Stargazers (Saturn, rec.middle'70's/rel.1979)
3. Sleeping Beauty (also "Door of the Cosmos") (Saturn, rec.1979.6/rel.1979)
4. Strange Celestial Road (Rounder, rec.1979.6/rel.1979)
5. God Is More Than Love Can Ever Be (also "Blithe Spirit Dance", "Days of Happiness" & "Trio") (Saturn, rec.1979.7.25/rel.1979)
6. Omniverse (Saturn, rec.1979.9.13/rel.1979)
7. On Jupiter (also "Seductive Fantasy") (Saturn, rec.1979.5, 1979.10.16/rel.1979)
8. I, Pharaoh (Saturn,  rec.1979-probably1980.6.6/rel.1980)

 このうち『Song of the Stargazers』のように1979年リリースながら録音日が特定できないものもあり(しかもこれは袂を分かったはずのシカゴ・サターン盤で、次回ご紹介しますが大変な訳ありアルバムです)、『On Jupiter』と『I, Pharaoh』の間にはのちに発掘された『Live From Soundscape』(DIW, rec.1979.11.10,11/rel.1994)もありますが、一応『I, Pharaoh』までをご紹介すれば1979年までのサン・ラはひと区切りつくことになります。1956年のデビュー・アルバムからちまちまやってきましたが、やっていればそれなりに進んでいくものです。1979年には1914年生まれのサン・ラは地球年齢65歳でしたが、1993年の逝去まで作品は連綿として続くので、一応年代的には過半は過ぎましたし、この後も可能な限りご紹介していきたいと思います。

 さて本作は、スタジオ録音としては前作に当たる『Lanquidity』(78年7月17日録音)のストレートな続編と言えるものです。1972年初演の代表曲A3「Space Is The Place」の'79年ヴァージョンでジューン・タイソンのヴォーカルが加わる以外は20人編成アーケストラの演奏ですが、ベーシストだけで3人クレジットがあるくらいですから曲ごとにチーム分けした録音と思われます。黒人運動家・作詞家として知られるオスカー・ブラウンJr.がエレクトリック・ベースでクレジットされていて同名異人かとぎょっとしますが、マックス・ローチの『We Insist!』1960のライナー・ノーツによるとアーケストラの出身地シカゴのソングライターだそうですのでやっぱり同一人物なのでしょう。新曲2曲、再演1曲、スタンダード2曲と親しみやすい選曲で、アーケストラ流フュージョン・アルバムとも言われる『Lanquidity』より主流ジャズ寄りですが、スムーズな演奏は前作からのつながりを感じさせます。スウィート・アース・レコーズもフィリー・ジャズ・レコーズ同様余裕のある丁寧な制作環境を手配したようで、録音クオリティも良くジャケットもインディー・レーベルくささを感じさせない立派なものになりました。

 これがフリー・ジャズ・ミュージシャンのサン・ラだとすぐには気がつかないような都会的でムーディなA1も実は相当即興的な変型ブルースだったりするように、A2のスタンダード「Flamingo」もA1の曲名「Space Fling」に引っ掛けた(または順序が逆な)選曲です。このスタンダード曲のアレンジは巧妙で、トランペットがカウンター・メロディを持続しているうちにメインとなるサックス奏者がソロをリレーしていくアレンジで、冒頭のテーマと最初のソロはアルトのダニー・デイヴィス、最後にソロを渡されて見事なエンド・テーマで締めるのはジョン・ギルモアでしょう。A面は代表曲「Space Is The Place」の最新アレンジによる再録音で締めくくられますが、リズム・アレンジを大きく変えて、オリジナルの3連系ファンク・ビートから16ビートでも4拍単位にアクセントを置いたチルアウト的ファンク、いっそディスコと言ってもいいですが、オリジナル・ヴァージョンよりクールなニュアンスになっています。

 B面は長尺曲が2曲ですが、B1は「フラミンゴ」以上に大らかなジャズの香り漂う大スタンダード「明るい表通りで」で、これはあんまり難しく考えずいつもの調子でごきげんにやろう、ということだったのか、エンド・テーマでアンサンブルがヨレヨレになりぐだぐだに終わりますが、リテイクも編集もせずそのままアルバムに収録したのがアーケストラらしくて嬉しいところです。アルバム最後のB2はタイトルからしてわざとらしいくらいジャジーな「Manhattan Cocktail」で、A1よりはぐっと濁ったブルース・カクテルが聴けます。アルバムをループして聴けば、A1からB2までの流れの良さとB2を終えてそのままA1にもどった時の落差に気がつきます。自然にB2まで聴けるのに、A1とはまるでムードが変わっているのです。本作は大胆なコンテンポラリー・ジャズへのチャレンジ作『Lanquidity』に較べるとサン・ラの一筆書きのようなアルバムですが、そこが持ち味の作品でしょう。さり気ない作品ですがアーケストラの、サン・ラの好調さがうかがえます。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)