サン・ラ - ホワット・プラネット・イズ・ディス (Leo, 2006) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ホワット・プラネット・イズ・ディス (Leo, 2006)
サン・ラ Sun Ra and His Space Arkestra - ホワット・プラネット・イズ・ディス What Planet is This? (Leo, 2006) 

Originally Released by Leo/Golden Years of New Jazz, GY 24/25 (2CD), 2006
Also Released by Vinyl Lovers 900632 (2LP), Russia, 2009
All written & arranged by Sun Ra, expect as noted. 
(CD1)
1-1. Untitled Improvisation - 5:30
1-2. Astro Black - 3:04
1-3. Discipline 27 - 7:29
1-4. Untitled Improvisation - 28:18
1-5. Space is the Place - 10:27
1-6. Enlightenment (Sun Ra, Dotson) - 3:39
1-7. Love in Outer Space - 10:29
(CD 2)
2-1. The Shadow World - 20:42
2-2. Watusa, Egyptian March - 8:54
2-3. Discipline 27-II (incl. What Planet is This? / The Universe Sent me to Converse with You / My Brother the Sun) - 17:39
Total Time 1:56:16
[ Sun Ra and His Space Arkestra ]
Sun Ra - piano, mini-moog, organ, declamation
John Gilmore - tenor sax, percussion, voice
Marshall Allen - alto sax, oboe, flute, percussion, cowbell, voice
Danny Davis - alto sax, flute, percussion, voice
Larry Northington - alto sax, percussion, voice
Eloe Omoe - bass clarinet, bassoon, percussion, voice
Danny Ray Thompson - baritone sax, flute, percussion, voice
Pat Laurdine Patrick - baritone sax, oboe, voice
James Jacson - bassoon, flute, percussion, voice
Akh Tal Ebah - trumpet, fluegelhorn, megaphone, percussion, voice
Kwame Hadi - trumpet, percussion, voice
Dick Griffin, Charles Stephens - trombone, percussion, voice
Hakim Jami - tuba, percussion
Alzo Wright - cello, percussion
Ronnie Boykins - bass
Lex Humphries, Aye Aton - drums
Atakatune - congas, tympani
Odun - congas
Harry Richards - percussion
June Tyson - voice, declamation, percussion, dance
Judith Holton, Ruth Wright, Cheryl Banks - voice, dance 

(Original Leo "What Planet is This?" CD Inner Sheet, Liner Cover & Dlsc 1 Label)

 21人編成のサン・ラ・アーケストラに、歌姫ジューン・タイソンを含む4人の女性コーラス&ダンサー隊で行われた本作のコンサートは、1973年7月6日のニューヨークというだけで会場不明のようですが、ライヴ収録後33年経った発掘盤としても素晴らしい内容を誇るものです。セットリストもライヴ恒例の集団即興演奏で盛り上げてから、前1972年録音、1973年発売の最新作『Astro Black』のアルバム・タイトル曲を「Saturnian Queen」タイソン妃がアカペラで歌い出すわくわくするような1~2曲目から始まり、『Astro Black』同様前1972年録音、1973年発売の最新スタジオ盤『Discipline 27-II』『Space is the Place』からの代表曲に、1971年のライヴ名盤『世界の終焉』に含まれた1966年の名盤『Magic City』からの「The Shadow World」、「Watusa」、この時期のライヴ定番曲「Love in Outer Space」にアーケストラ'50年代最初期からのアンセム的ヴォーカル曲「Enlightenment」もタイソンのリード・ヴォーカルでメンバー全員がコーラスとパーカッションに回って演っている具合に充実しています。さらにライヴならではの長尺集団即興曲、パーカッション・アンサンブルも聴ける、と申し分ない選曲と、1973年当時のゴスペル・ファンク色の強い最新アレンジ~サウンドに統一されたアーケストラが聴けます。

 本作は会場(ライヴ主催者)側の録音か、サン・ラ側の録音か不明ですが、主催者側録音だったら会場は判明していたでしょうから観客入りのラジオ放送用ライヴか、サン・ラの自主制作レーベル、サターン用にバンド自身がリリース候補の予備録音をしていたのではないかと思われる、発掘ライヴとしては最上音質の音源です。後からミキシングし直したとは思えないバランスのミックスですが、オーディエンス・エアーを抑えてミキサー卓からのサウンドボード録音と推測されるクリアな音質ながら、会場の緊張感と臨場感をくっきり捉えており、即時発売されていたらこれもサン・ラの代表的なライヴ名盤に数えられたに違いない、ビギナーからマニアまで納得させる説得力にあふれた、見事な発掘ライヴです。

 1-4「Untitled Improvisation」ではサン・ラの暴走する無伴奏シンセサイザー・ソロから雪崩れこむ天才バリトンサックス奏者パット・パトリックのソロやトランペット奏者アカー・タル・エバーのメガフォン・ヴォイス・パフォーマンスも聴け、ベースとドラムスも'60年代アーケストラを支えた豪腕ベーシストのロニー・ボイキンス、重鎮レックス・ハンフリーズとひさびさに'60年代後半のアーケストラを躍進させたかつての中心メンバーが揃っています。特にボイキンスがレギュラーから外れて臨時参加のファミリー・メンバーになってからは、サン・ラのオルガンかサックス陣の強化によるベースレス編成か、パット・パトリックがやむなくエレクトリック・ベースに廻るスタジオ録音やライヴも多かったので、久々のボイキンスの復帰とハンフリーズとの強力なコンビネーションだけでもバンドの音がぐっと締まり、軽やかでありながら重心は低いサウンドの安定感があります。

 おそらくサン・ラとサン・ラ・アーケストラにとっては本作程度の水準のライヴは日常茶飯事で、このくらいならいつでも演れるという自信があってこそ本作もお蔵入りになっていたマスターテープだったのでしょう。実際サン・ラ没後に発掘発売された未発表ライヴ盤は録音状態こそまちまち、未編集による冗長さこそ玉に瑕でこそあれ、ほとんどが本作で聴ける高い水準に達しています。'70年代~'80年代のサン・ラはすでに年齢は50代後半~70代でしたが、年間4枚~8枚のアルバム制作・発売は当たり前だったので、本作も収録当時は後回しにされ、発表の時期を逃した1作ということになるでしょう。サン・ラにはさらに生前お蔵入りになったスタジオ録音盤も多く、それらも十分に発表されるだけの内容を誇ります。本作もサン・ラにとっては普段のライヴだったでしょうが、並みのミュージシャンにとっては一世一代の名演と呼べるほどのアルバムです。まだまだサン・ラには本作と同等以上の未発表音源が埋蔵されていて、毎年のように発掘発売されていると思うと、あまりの無尽蔵な創作力にめまいにも似た思いがするほどです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)