サン・ラ - フレンドリー・ラヴ (Evidence, 2000)
サン・ラ Sun Ra And His Astro Infinity Arkestra - フレンドリー・ラヴ Friendly Love (Evidence, 2000) :
Released by Evidence Records EDC 22218-2 as "Pathways To Unknown Worlds + Friendly Love", 2000
All composed and arranged by Sun Ra.
(Tracklist)
1. Friendly Love I - 5:44
2. Friendly Love II - 12:56
3. Friendly Love III - 6:27
4. Friendly Love IV - 12:50
[ Sun Ra And His Astro Infinity Arkestra ]
Sun Ra - intergalactic space organ (1-4), mini moog synthesizers (2)
Akh Tal Ebah - flugelhorn (1, 3, 4), space dimension mellophone (2, 4)
Kwame Hadi (Lamont McClamb) - trumpet (2, 3), congas (1-4)
Marshall Allen - oboe (4)
Danny Davis - alto saxophone (2, 3, 4)
John Gilmore - tenor saxophone (1, 3)
Danny Ray Thompson - baritone saxophone & Neptunian Libflecto performance (3)
Eloe Omoe - contra-alto clarinet (1), bass clarinet (4)
Harry Richards (possibly) - drums(1, 2, 3)
Atakatune (Stanley Morgan) - congas (1-4)
＊
(Original Evidence "Pathways To Unknown Worlds + Friendly Love" CD Liner Cover & CD Label)
前回ご紹介した『Pathways To Unknown Worlds』は、ブルー・サム・レーベルから発売された『Space Is The Place』が1998年のCD化時にインパルス！盤に移されたのを除けば、サン・ラのインパルス！・レーベル(ABCレコーズ)との契約で発表された最後のアルバムになりました。同アルバムと同時期の1973年前半にインパルス！からのリリース用に録音され、2000年まで未発表になっていたのが今回の『Friendly Love』で、2014年にはアウトテイク集的性格の強い『Sigh Of The Myth』も発掘されています。その後に録音時期が見直されて『Pathways To Unknown Worlds』と未発表アルバム『Cymbals』のアウトテイク集と判明した『Sigh Of The Myth』(現在はリマスター盤『Pathways To Unknown Worlds』のボーナス・トラックと新編『Cymbals Sessions』に分散収録)に較べれば、『Friendly Love』はアナログLPのアルバム1枚でタイトル曲をLP片面2曲ずつの4パートに分けて制作されたとおぼしい、トータリティの高いアルバムです。1972年～1973年のインパルス！社(ABCレコーズ傘下)との契約期間にサン・ラは『Astro Black』『Cymbals』『Crystal Spears』『Space Is the Place』『Space Is the Place Soundtrack』『Dicipline 27-II』『Pathways To Unknown Worlds』『Friendly Love』の8作・LP10枚分相当のスタジオ盤を制作し、うちインパルス！からの『Astro Black』『Pathways To Unknown Worlds』、ブルー・サムからの『Space Is the Place』、自社のサターンから発売した『Dicipline 27-II』を除けばアルバム6枚組相当(2枚組分の『Space Is the Place Soundtrack』、さらに『Pathways To Unknown Worlds』ボーナス・トラックと『Cymbals Sessions』、『Crystal Spears』と『Friendly Love』)がのちのEvidence社からの発掘発売まで未発表に終わっていたことになります。
以前「サン・ラにつまらないアルバムはない」というようなことを書きましたが、この『Friendly Love』はアーケストラのアルバムではいまひとつ生彩に欠けるものです。本作単体で聴けばサン・ラ・アーケストラ作品ならではの音楽を味わえますが、数多ある名作佳作、全体的な水準でもアーケストラ作品中では比較的に下位にあると見做さざるを得ません。'50年代のバップ・ビッグバンド的な音楽性や'60年代のフリー・ジャズ路線よりも'70年代のクロスオーヴァー・ジャズ・ファンク的作風を求めるならば本作の作風は期待通りなのですが、その路線なら本作の直前の1972年にすでに名盤が目白押しで、本作は名作続きの疲れが出たか、リリース・ラッシュに紛れてしまい、お蔵入りアルバムになるべくしてなった出来ばえでしょう。単体アルバムで「Friendly Love」のパートI～IVを想定して聴けばアーケストラとしてはコンパクトにまとまった好作品ですが、やはりインパルス！社用に制作されて未発表になった『Cymbals』『Crystal Spears』がカップリングCDで発掘発売のあとアナログLP再発売もされているのに対して、本作は『Pathways To Unknown Worlds』とのカップリングCD以外では再発売されていないままになっています。『Dicipline 27-II』も時期的にインパルス！社用に制作されたものと推定されながら、インパルス！からは未発売の可能性を鑑みて自社のサターンからリリースされた自信作だったのを考えると、本作はアーケストラ側でも制作ノルマの消化のために軽くこなしたアルバムだったのかもしれません。
本作はまずベースレス編成に物足りなさがあり、専任ベーシスト不在時にバリトン奏者でベース・ギターも兼任したパット・パトリックも本作には不参加です。ドラムスはハリー・リチャーズと推定されていますがレギュラー・ドラマーではありません。2コンガがリズムをリードしていますがいかにもボトムが弱く、リズムの重心が浮ついており、また今回のサン・ラの新曲はユートピア的なスペース・エイジ・ジャズ路線で、基本的には同一曲を編成を変えてサウンドのテクスチャー変化からヴァリエーションを試みていますが、ソロイストを刺戟するだけのアイディアが不足しています。近作で大活躍をしていた歌姫ジューン・タイソンも本作には不参加で、タイソンのヴォーカル・インプロヴィゼーションがせめて1～2曲入っていればアルバムの焦点がぐっと定まったものになったでしょう。全体的に本作はアンサンブルもソロも散漫で、4部構成の組曲なのにメリハリも太い芯も欠いているのが冴えません。発掘CD化された際に『Pathways To Unknown Worlds』とのカップリングで発売され、単独リリースされなかったのは同時期録音でどちらも収録時間が短く、カップリング発売に恰好だったこともありますが、本作はもっぱら内容の弱さによるもので、あるいはリハーサル段階の音源かもしれません。メンバー全員がこれほど冴えない、または淡々としたアルバムは珍しく、アーケストラの個性だけでどうにか聴けるマニアックなファン向けの緩いセッション的アルバムとも言えます。もっともそれはサン・ラ・アーケストラのアルバムの水準の高さから見た場合の話なので、同時期のチック・コリアの『Return To Forever』(1972年2月録音)などと較べれば冴えないアーケストラでも凡百のクロスオーヴァー・ジャズとは一線を画しているのがわかります。
今回はあまり書くこともないので、70年代アーケストラ(1970年から1976年まで)のディスコグラフィを再掲載します。サン・ラは1975年にはバンドを休ませて作編曲に専念し、1976年には充実したスタジオ盤の新作発表とモントルー・ジャズ・フェスティヴァルのトリを取りジャズ界の巨匠と現役最高のビッグバンドの座を射止めます。サン・ラは1977年にはソロ・ピアノ作を手始めにアーケストラの編成・運営に見直しを図るので、1976年までで'70年代作品は一旦区切りがつきます。＊は70年代中に新作として発表されたもの、＊のないものはサン・ラ歿後の発掘リリース、()内は1956年のデビュー・アルバムからの通算枚数になります。足かけ7年で36作、枚数にして39枚、うちオン・タイムでリリースされたアルバムは26枚になります。平均毎年4枚のリリースはジャズでは必ずしも多作ではありませんが、アーケストラほどのレギュラー・ビッグバンドが活動15年目～20年目にしてほとんど毎回新曲のアルバムでこのポテンシャルを保ち続けたのは驚異的でしょう。今回でサン・ラのアルバム紹介は約60回目・約80作になりますが、サン・ラ逝去の1993年までこれでもまだ半分に届きません。なおディスコグラフィにはレーベルを追記し、より正確なものに改訂しました。サン・ラ没後に発掘発売されたライヴ盤はこれまでにもご紹介した通りこれ以外にもまだ多数ありますが、今回の掲載はサン・ラ生前発売のアルバムと、バンドまたはレーベルが制作して未発表に終わっていたものに限りディスコグラフィに採用しました。ご参考いただければ幸いです。
[ Sun Ra & His Arkestra 1970-1976 Album Discography ]
＊1(34). My Brother The Wind (El Saturn, rel.1974/rec.1970) Studio
＊2(35). The Night of the Purple Moon (El Saturn, rel.1970/rec.1970) Studio
＊3(36). My Brother The Wind Volume II (Otherness) (El Saturn, rel.1971/rec.1969-70) Studio
＊4(37). Space Probe (also "A Tonal View of Times Tomorrow, Vol.1") (El Saturn, rel.1974/rec.1969-70) Studio
＊5(38). The Invisible Shield (also "Janus", "A Tonal View of Times Tomorrow, Vol. 2", "Satellites are Outerspace") (El Saturn, rel.1974/rec.1962-70) Various Studio & Live Sessions
＊6(39). Out There A Minute (Blast First, rel.1974/rec.1961-70) Various Studio & Live Sessions
＊7(40). Solar Myth Approach Vols 1 (BYG, rel.1974/rec.1969-70) Studio
＊7'(41). Solar Myth Approach Vols 2 (BYG, rel.1974/rec.1969-70) Studio
＊8(42). Nuits de la Fondation Maeght, Volume I (Shander, rel.1974/rec.1969-70) Live
＊8'(43). Nuits de la Fondation Maeght, Volume II (Shander, rel.1974/rec.1969-70) Live
＊9(44). It's After the End of the World (Phonogram/Mps, rel.1971/rec.1970) Live
9'(45). Black Myth/Out in Space (Motor Music, 2CD, rel.1998/rec.1970) Complete "It's After the End of the Worlds" Concerts
＊10(46). Universe In Blue (El Saturn, rel.1972/rec.1971) Live
11(47). Calling Planet Earth (Freedom, rel.1998/rec.1971) Live/Unreleased
＊12(48). Nidhamu (El Saturn, rel.1972/rec.1971) Live
＊13(49). Live in Egypt 1 (El Saturn, rel.Middle 70's/rec.1971) Live
＊14(50). Horizon (El Saturn, rel.Middle 70's/rec.1971) Live
＊15(51). Welcome To Saturn (Impulse!, rel.1973/rec.1956-71) Compilation from El Saturn Albums
＊16(52). Astro Black (El Saturn, rel.1973/rec.1972) Studio
17(53). Cymbals (Evidence, rel.2000/rec. 1972 or 73) Unreleased Impulse! Recording
18(54). Crystal Spears (Evidence, rel.2000/Rec.1972 or 73) Unreleased Impulse! Recording
19(55). Life is Splendid (Total Energy, 1998) Live/Unreleased
＊20(56). Space is the Place (Blue Thumb, rel.1973/rec.1972) Studio
21(57). Discipline 27-II (El Saturn, rel.1972/rec. 1972) Studio
22(58). Space Is the Place (soundtrack) (Evidence, rel.1993/rec.1972) Unreleased Studio Soundtracks
＊23(59). Deep Purple (El Saturn, rel.1973/rec.1953-73) Various Studio Sessions
＊24(60). Pathways to Unknown Worlds (Impulse!, rel.1975/rec.1973) Studio
25(61). Friendly Love (Evidence, rel.2000/rec.1973) Unreleased Impulse! Recording
26(62). Outer Space Employment Agency (Total Energy, rel.1999/Rec.1973) Live/Unreleased
27(63). Concert for the Comet Kohoutek (ESP, rel.1993/rec.1973) Live/Unreleased
＊28(64). Out Beyond the Kingdom Of (also "Interplanetary Concept", "There Is Change in The Air") (El Saturn, rel.1974/rec.1974) Live
＊29(65). The Antique Blacks (El Saturn, rel.1974/rec.1974) Studio
30(66). It Is Forbidden (Total Energy, rel.2001/rec.1974) Live/Unreleased
＊31(67). Sub Underground (also "Temple U", "Cosmo-Earth Fantasy") (El Saturn, rel.1974/rec.1974) Live
32(68). Dance of the Living Image (Transparency, rel.2007/rec.1974) Live+Studio/Unreleased
＊33(69). What's New? (El Saturn, rel.1975/rec.1975) Live
＊34(70). Cosmos (rel.1976/rec.1976) Studio
＊35(71). Live at Montreux (El Saturn, rel.1976 & Phonogram/Inner City, rel.1978/rec.1976) Live
36(72). A Quiet Place in the Universe (Leo, rel.1994/Rec.1976&77) Live/Unreleased
(旧記事を手直しし、再掲載しました。)