サン・ラ - パスウェイズ・トゥ・アンノウン・ワールズ (Impulse!, 1975) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - パスウェイズ・トゥ・アンノウン・ワールズ (Impulse!, 1975)
サン・ラ Sun Ra And His Astro Infinity Arkestra - パスウェイズ・トゥ・アンノウン・ワールズ Pathways to Unknown Worlds (Impulse!, 1975) Full Album
Original Impulse! Edition (with "Friendly Love) :

Released by ABC Records Impulse! ASD-9298, 1975
Reissued by Modern Harmonic Records MHCD-084, February 22, 2019
Produced by Alton Abraham
All composed and arranged by Sun Ra.
(Side A)
A. Pathways To Unknown Worlds - 12:12
(Bonus track)
2. Untitled - 5:28
(Side B)
B1. Extension Out - 7:31
B2. Cosmo-Media - 6:58
(Expanded Edition Bonus tracks)
5. Pathways to Unknown Worlds (Complete Take) - 12:34
6. Extension Out (Complete Take) - 13:02
7. Cosmo-Media (Complete Take) - 7:08
8. View From a Mountain Top - 3:11 (Previously Unissued)
9. Intrinsic Energies - 8:40 (Previously Unissued)
10. Of Mythic Worlds - 12:46 (Previously Unissued)
[ Sun Ra And His Astro Infinity Arkestra ]
< collective personnel >
Sun Ra - keyboards
Akh Tal Ebah, Lamont McClamb - trumpet
Danny Davis - alto saxophone
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe
John Gilmore - tenor saxophone, percussion
Danny Thompson - baritone saxophone
Leroy Taylor - bass clarinet
Bill Davis, Ronnie Boykins - bass
Clifford Jarvis - drums
Eugene Brennan, Russell Branch, Stanley Morgan - congas 

(Reissued Modern Harmonic Pathways To Unknown Worlds" CD Liner Cover & Original Impulse!  LP Side A Label)

 本作は秀逸なアルバム・ジャケットながら、やや成立の背景やあまりに短い収録内容に疑問の残る作品です。今回でサン・ラ・アーケストラのアルバム紹介はほぼ60枚、取り上げたアルバムは80枚あまりになります。そのうち1972年に入った第45作『Astro Black』からはABCレコーズ傘下インパルス!レーベル(『Space Is The Place』のみABCレコーズ傘下のブルー・サム・レーベル)のためにレコーディングされたアルバムで、この時期唯一サターン・レーベルから発売された『Discipline 27-II』はおそらくインパルス!に提供する予定の原盤だったのではないか、と同作をご紹介した際に推測しました。同作は『Space Is The Place』と同じシカゴ録音で同時期の録音になり、サン・ラ・アーケストラ主演映画のサウンドトラック『Soundtrack To The Film SPACE IS THE PLACE』は『Discipline 27-II』『Space Is The Place』を包括する期間に録音されています。

 そこで、『Astro Black』に続いてインパルス!へのスタジオ録音の新作として制作されながら2000年に発掘CD発売されるまで未発表だったアルバム2作『Cymbals』『Crystal Spears』を先にご紹介しました。『Astro Black』は1972年5月録音、『Cymbals』『Crystal Spears』はそれに続く1972年半ばまでの録音と推定されます。『Discipline 27-II』『Space Is The Place』は1972年10月録音です。さらにインパルス!のため録音され1975年発売になったのが本作『Pathways to Unknown Worlds』で、1973年(月日不明、恐らく初頭)の録音でした。『Cymbals』ご紹介の際にインパルス!へは5枚分を録音し発表されたのは2作、と解説してしましたが、実際は『Pathways~』と同時期にもう2枚分の未発表アルバムがあったことが判明しています。次回ご紹介しますが1枚は1973年前半録音の『Friendly Love』で、初めて発掘されたのは2000年に『Pathways~』とのカップリングでCD化されました。さらにインパルス!からのリリース予定だったマスター・テープから2014年に『Sign Of The Myth』としてイタリアのインディー・レーベルから発売されたアルバムがありますが、これは未発表アルバムというより『Cymbals』セッションと『Pathways~』セッションのアルバム未収録テイク集だったようで、現在は収録曲はリマスター盤『Cymbals Sessions』と『Friendly Galaxy』とのカップリングではなく単独で再リマスターCD化された『Pathways To Unknown Worlds』に分割収録されています。

 結局1972年~1973年にABCレコーズに録音された音源のうち、発売されたのは『Astro Black』『Space Is The Place』『Pathways to Unknown Worlds』の3枚、サターン・レーベル自身でリリースしたのが『Discipline 27-II』、お蔵入りしたのが『Cymbals』『Crystal Spears』『Friendly Love』と『Cymbals Sessions』『Pathways To Unknown Worlds (Expanded Edition)』の5枚となり、さらにLP2枚組相当の『Soundtrack To The Film SPACE IS THE PLACE』も未発表アルバムと数えればお蔵入りのスタジオ録音アルバムは4作・LP7枚分に上ります。発表・未発表合わせれば'72年5月~'73年前半の1年間で10作・11枚分を録音したわけで、このうち『Space Is The Place』のB面5曲のうち2曲、映画サントラ『Soundtrack To The Film~』以外は初スタジオ録音の新曲ばかりですからアルバム8枚分が新曲になります。'72年には海外ツアーがなかったとはいえ、この時期サン・ラ・アーケストラがいかに好調だったかがわかります。

 姉妹編とも言うべき前作『Space Is The Place』『Discipline 27-II』はともに名作といえる出来でしたが、専任ベーシスト不在のためバリトン奏者のパット・パトリックがベース・ギターを兼任していたのが唯一の難点になっていました。パトリックは天才サックス奏者ですがベース演奏はあくまで余技であり、パトリックに代わってバリトンサックスの座についた新任のダニー・トンプソンも優れた奏者でしたので、天才ベーシストのロニー・ボイキンスが復帰(しかも新参加のビル・デイヴィスとの2ベース)した本作ではパトリックは不参加(そして日本に在住してソロ活動をしていました)となっています。ボイキンスの復帰によって本作は近年のゴスペル・ファンク的作風に、『The Heliocentric Worlds~』以来の路線の抽象度の高いフリー路線を重ねたものになりました。また初CD化ではボーナス・トラックに6分弱の未発表曲が発掘されたものの、オリジナルLPではB面は十分ですがA面が12分強の1曲のみと短すぎるのです。CDではこの未発表曲を2曲目に配置しており、楽曲の内容も配分もしっくりきます。さらに2019年の単独リマスターCD化時には全曲が編集前のテイクに戻され、『Sign Of The Myth』で発掘されていたアルバム未収録曲3曲が追加されています。LP時代にはインパルス!との契約との最終リリースとなった本作ですが、ジャケットの秀逸さと楽曲単位の充実では優れながらもどこかバランスを欠いて見えるのは、重鎮メンバーのパトリックの不在と、オリジナルLPではA面1曲12分、B面2曲14分のトータル26分というヴォリュームに欠ける収録内容、拡張版でも未発表曲の曲順が決定的とは言えない、インパルス!側からの契約満了として編まれたアルバムならではの、構成の練りこみ不足によるものかもしれません。おそらくサン・ラにとっても、本作は不本意なリリースだったのではないかと思われます。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)