続・裸のラリーズ - Volcanic Performance (Univive, 2008) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

裸のラリーズ - Volcanic Performance (Univive, 2008)
Disc 1 complete show of November 3, 1975 at Meiji Gakuin University,
Discs 2 & 3 complete show of July 25, 1976 at Yaneura, Tokyo.
Disc 4 fragments from unspecified 1979 shows
Tracks 1-2, 1-4, 1-5, 2-1, 2-3, 2-6, 3-1 previously issued on Naked Diza Star (UNIVIVE-010).
Initial quantities came with a bonus disc titled "Laid Down '76 Again".
As few other Univive titles, part of the audio is affected by digital flaws.
Released by Univive UNIVIVE-017, 2008 (4CD+1 Bonus Disc, Unofficial)
Bonus Disc previously issued by Univive UNIVIVE-005, 2006 (1CD-R, Unofficial)
全作詞作曲・水谷孝
◎1975-11-03
1-1. Introduction - 2:45
1-2. 造花の原野 - 5:31
1-3. 黒い悲しみのロマンセ - 8:06
1-4. 夜より深く - 12:59
1-5. 氷の炎 - 13:07
1-6. The Last One - 13:04
◎1976-7-25 
2-1. Diza Star - 9:58
2-2. 氷の炎 - 9:25
2-3. 夢 - 7:36
2-4. 造花の原野 - 11:22
2-5. 白い目覚め - 4:25
2-6. 夜、暗殺者の夜 - 12:35
2-7. 記憶は遠い - 12:43
2-8. Diza Star 2 - 5:35
3-1. 踏みつぶされた優しさ - 8:01
3-2. 夜より深く - 10:20
3-3. 黒い悲しみのロマンセ - 8:19
3-4. Enter The Mirror - 9:29
3-5. The Last One - 20:42
◎1979 Etcetera
4-1. 氷の炎 - 11:24
4-2. 鳥の声 - 13:01
4-3. 天使 - 7:06
4-4. 夜、暗殺者の夜 - 15:06
4-5. 造花の原野 - 10:01
◎Laid Down '76 Again /1976-6-22
Bonus-1. 記憶は遠い - 2:50
Bonus-2. Improvisation/Fragment - 1:35
Bonus-3. 夢 - 6:58
Bonus-4. 造花の原野 - 12:41
Bonus-5. 夜、暗殺者の夜 - 10:08
Bonus-6. 夜より深く - 4:50
Bonus-7. Improvisation #2 - 8:07
Bonus-8. The Last One Improvisation - 11:03
[ 裸のラリーズ Les Rallizes Dénudés ]
水谷孝 - lead guitar, vocals
中村武志 - rhythm guitar (1975-11-03, 1976-6-22, 1976-7-25)
楢崎裕史 - bass guitar (1975-11-03, 1976-6-22, 1976-7-25)
高橋シメ - drums (1975-11-03)
三巻俊郎 - drums (1976-6-22, 1976-7-25), guitar (1979 Etcetera)
Doronco - bass guitar (1979 Etcetera)
野間幸道 - drums (1979 Etcetera) 

 CD5枚組(本編4枚+ボーナス・ディスク1枚)、トータル5時間を越える本作は、前回に概要をご紹介しましたが、実質的にアルバム4作分の大作になるため前回でご紹介しきれなかった内容細目を見ていきたいと思います。ディスク1に昭和50年(1975年)11月3日の明治学院大学でのライヴ、ディスク2と3に昭和51年(1976年)7月25日の渋谷のライヴハウス・屋根裏でのライヴ、ディスク4に昭和54年(1979年)の複数のライヴからまとめたライヴ・コンピレーション、さらにボーナス・ディスクは本作に先立ってリリースされたライヴ盤『Laid Down '76 Again 』収録の昭和51年(1976年)6月22日の渋谷・屋根裏でのライヴを収めた、翌昭和52年(1977年)3月12日に立川教育文化会館でのコンサートのライヴにして裸のラリーズの代表作となった公式盤『'77 Live』(Rivista, 1991)に上りつめていく途上のラリーズのライヴ3回分と、1980年の山口冨士夫(ギター、1949-2013)参加前の1979年の過渡期のライヴ・コンピレーションが聴ける大作です。ボーナス・ディスクの『Laid Down '76 Again』が本作に先立って単品リリースされていたように、本作もディスク1の昭和50年(1975年)11月3日明治学院大学ライヴ、ディスク2&3の昭和51年(1976年)7月25日の渋谷・屋根裏ライヴ、ディスク4の『1979 Etcetera』、さらに昭和51年(1976年)6月22日渋谷・屋根裏ライヴ『Laid Down '76 Again』と単品アルバム4作分を一気にまとめたもので、5枚組の本作を聴けば'70年代の絶頂期ラリーズのライヴを集中的に堪能できます。本作から7テイクは水谷孝自選のライヴ・コンピレーション『Naked Diza Stai』に先に発表され、特に渋谷・屋根裏での1976年6月22日・7月25日のライヴは名演と名高い音源です。

 ただし本作を聴くと『'77 Live』がいかに完成度の高かったライヴかも痛感されます。水谷孝(1948-2019)自身がアルバム化を前提として録音していたとおぼしい同作では、1曲1曲が非常に高い完成度のアレンジ・演奏で収められていました。本作に収録されている4回(1979年分も1回と数えるとして)のライヴは、『'77 Live』はもとより、たとえば1976年10月30日の金城学院大学ライヴや1977年8月13日~14日の「第四回夕焼け祭り」ライヴと較べてもアレンジや楽曲展開に試行錯誤が目立ちます。もっとも早い1975年11月3日の明治学院大学ライヴは、観客の話し声が聞こえることからも音質良好ながらオーディエンス録音でしょう。「Introduction」ではエフェクターのセッティングを兼ねたフィードバック・ノイズから始まります。1曲目の「造花の原野」はミドル・テンポで、このヴァージョン以外聴いたことのないギター・リフつきのアレンジです。2曲目の「黒い悲しみのロマンセ」、3曲目の「夜より深く」は比較的標準的なアレンジで演奏されますが、一転して極端にノイジーな4曲目の「氷の炎」は通常の特徴的なリフが目立たないアレンジで、普段は20分以上に渡って演奏される5曲目のライヴ最終曲「The Last One」は13分と短めですが、中間部を短縮した分エンディングでは3分以上に渡ってギターのフィードバック・インプロヴィゼーションが聴かれます。「The Last One」はともすれば30分前後に長引くことも多い曲ですが、ここではエンディングまで完走テイクが聴けます。

 次に収録日順に、単品発売もされたボーナス・ディスクの『Laid Down '76 Again 』の渋谷・屋根裏1976年6月22日ライヴでは、観客のレスポンスが入らないことからバンド側によるサウンドボード(ミキサー卓)音源と思われます。ラリーズのフォーキーな面の代表曲「記憶は遠い」から始まり、2曲目の「Improvisation/Fragment」から強烈なフィードバック・ギターが炸裂します。3曲目「夢」はフィードバック・インプロヴィゼーションにヴォーカル・インプロヴィゼーションが重ねられる楽曲で、7月25日の屋根裏ライヴ同様に4曲目「造花の原野」の前奏曲となっています。ここでの「造花の原野」は1975年11月3日明治学院大学ライヴとは同一曲とは思えないほどアップテンポでノイジーです。5曲目の「夜、暗殺者の夜」もアレンジはほぼ固まっていますがのちの『'77 Live』に較べるとかなりテンポが速く、テンポを落として正解だったなと思わせられるテイクです。ノイジーな演奏は曲調はフォーキーな6曲目「夜より深く」でも続きます。この曲と「夜、暗殺者の夜」は同一音型のリフなので、あえて「夜、暗殺者の夜」はアップテンポにしたのかもしれません。『'77 Live』の頃には「夜より深く」は実質「夜より深く Part 2」と呼ばれる、短調の楽曲に再アレンジされます。7曲目「Improvisation #2」と8曲目「The Last One Improvisation」はひとつながりのフィードバック・ギター・インプロヴィゼーションで、全体的に楽曲を聴かせるよりもノイジーなサウンド実験の目立つアグレッシヴなライヴになっています。

 本作で圧巻なのはディスク2と3を占める1976年7月25日の渋谷・屋根裏ライヴで、インストルメンタルのギター・インプロヴィゼーション曲「Diza Star」が2回演奏されていることから2セットが行われたものと思われます。この音源も客席のエア録音が入らないことからバンド側によるサウンドボード録音でしょう。「Diza Star」(Dizastarはアモン・デュールのアルバム名から採ったラリーズの事務所名でした)はフランスのエレクトロニック・インダストリアル・バンド、エルドンの1979年のアルバム『Stand By』のタイトル曲に酷似しており、偶然の類似ながらラリーズの先駆性を感じさせます。「氷の炎」はここではベース・リフの比重の強い、『'77 Live』のアレンジに近づきつつある演奏ですが、この日のラリーズのライヴは6月22日の『Laid Down '76 Again 』同様非常にノイジーなギターをフィーチャーしており、サウンド・バランスは『'77 Live』とまったく異なる印象を受けます。「夢」~「造花の原野」は6月22日ライヴと同じパターンですが、「造花の原野」はさらにアップテンポになっています。ノイジーでアップテンポなのはフォーキーな「白い目覚め」でも変わらず、「夜、暗殺者の夜」などは『'77 Live』より1‥5倍近くアップテンポに感じます。本来フォーキーな「記憶は遠い」も「白い目覚め」と同様のエレクトリック・アレンジで、おそらくここまでがファースト・セットだったと思われます。セカンド・セットは「Diza Star 2」から始まり、「踏みつぶされた優しさ」は1969年には演奏されていた「The Last One '70」、さらに同曲を改作した「お前を知った」のヴァリエーションですが、ここではヴォーカル・パートのない、アップテンポの循環コード・インプロヴィゼーション曲に変貌しています。フォーキーな曲想を持つ「夜より深く」「黒い悲しみのロマンセ」「Enter The Mirror」もここではフィードバック・ギターのフィーチャー度が高く、ラスト曲「The Last One」は20分を越えるフィードバック・ギターの嵐となっています。

 1975年~1977年の全盛期ラインナップが解散し、1978年秋から新メンバーによる編成で活動を再開したラリーズは、1980年の山口冨士夫参加まで過渡期と言える時期に入ります。『1979 Etcetera』は1979年のサウンドボード録音ライヴ音源のアンソロジーですが、定番曲の「氷の炎」「夜、暗殺者の夜」「造花の原野」の新規アレンジも、バラード調の新曲「鳥の声」「天使」もまだリハーサル段階に聴こえます。ただしこれも、裸のラリーズ史におけるミッシング・リンク的な位置を明らかにする貴重音源には違いありません。

 ただし本作に収録されたラリーズのライヴ音源は、いずれも完成度よりもアグレッシヴなインパクトに傾いた演奏ばかりなので、公式盤『'77 Live』、または楽曲単位で完成度の高いライヴ・テイク、スタジオ・テイクを集めたコンピレーション盤『溺れる飛べない鳥は水羽が必要』『Heavier Than A Death In A Family』『Blind Baby Has Its Mothers Eyes』『France Demo Tapes』などを先に聴き、一通りラリーズの代表的楽曲を知っている方が楽しめます。本作は'70年代ラリーズのライヴ・レパートリーのほとんどを網羅しているだけに、より完成度の高いテイクとの聴き較べによってなおのこと面白く聴ける大作ライヴ・コンピレーションです。かつての渋谷・屋根裏、あの渋谷駅前ビルのキャバレー「ロンドン」の四階で、こんな激烈演奏がくり広げられていたと思うとそれ自体がサイケデリックな気がします。

※本記事作成のちに、楢崎裕史氏(1952年12月8日生~2023年3月24日没)の訃報を知りました。偉大なミュージシャンの冥福をお祈りいたします。