サン・ラ&ブルース・プロジェクト - バットマン&ロビン (Tifton, 1966) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ&ブルース・プロジェクト - バットマン&ロビン (Tifton, 1966)サン・ラ&ブルース・プロジェクト The Sensational Guitars of Dan and Dale - バットマン&ロビン Batman and Robin (Tifton, 1966) 

Originally Released by Tifton Records 78002, 1966
Produced by Tom Wilson
Composed by Neil Hefti
(Side A)
A1. Batman Theme - 2:16
A2. Batman's Batmorang - 2:52
A3. Batman And Robin Over The Roofs - 6:50
A4. The Penguin Chase - 2:43
A5. Flight Of The Batman - 2:09
A6. Joker Is Wild - 1:58
(Side B)
B1. Robin's Theme - 3:05
B2. Penguin's Umbrella - 3:05
B3. Batman And Robin Swing - 2:42
B4. Batmobile Wheels - 2:08
B5. The Riddler's Retreat - 2:12
B6. The Bat Cave - 2:47
[ Personnel (All Uncredited, probably) ]
Jimmy Owens - trumpet (A1, A2, A3, B4)
Tom McIntosh - trombone (A1, A2, A3, B4)
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone (A1, A2, A3, A5, B4, B5)
Pat Patrick - baritone saxophone (A1, A2, A3, B4), bass
Sun Ra, Al Kooper - Hammond organ (A1, A3, B1, B4), organ
Danny Kalb - harmonica (A6), electric guitar
Steve Katz - electric guitar
Andy Kulberg - electric bass
Roy Blumenfeld - drums 

(Original Tifton "Batman and Robin" Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side A Label)

 本作が何とサン・ラ・アーケストラとアル・クーパー率いる白人ブルース・ロックバンドのブルース・プロジェクトとの合作と判明したのはずっと後年になってからのことです。テレビ番組「バットマン」のサウンドトラックをカヴァーした本作は、ボストン生まれの黒人フリーランス・プロデューサー、トム・ウィルソンのプロデュース作としてのみ明記され、メンバー・クレジットはなくアーティスト名の「ダンとデイル(Dan and Dale)」も他に作品はなく、長く忘れられたアルバムになっていました。'60年代にシングルとアルバム合わせて25枚(サブ・レーベルのTifton Internationalは75枚)しかないムード音楽専門のインディー・レーベル、ティフトン(Tifton)自体が書店売り・駅売り・スーパーマーケット用レコード専門の安っぽいレコード会社だったこともあり、そのまま忘れられても当然だったのですが、トム・ウィルソンが手がけていることからウィルソン関連のミュージシャンの演奏ではないかと推測され、サン・ラ・アーケストラとザ・ブルース・プロジェクトのメンバーの参加説が有力になり、上記の通りの参加メンバーが浮かんできたのです。サン・ラはウィルソンがウィルソン自身のインディー・レーベル、トランジションでデビュー作を出して以来、初のニューヨークのレーベル、サヴォイ・レコーズでの『The Futuristic Sounds of Sun Ra』1962の録音でニューヨーク進出の足がかりを作っていましたし、ブルース・プロジェクトはウィルソンが手がけたボブ・ディランの「Like A Rolling Stone」1965への参加でニューヨークのフォーク・ロック界のキーパーソンになったアル・クーパーがギタリストのダニー・カルプと結成した、シカゴのポール・バタフィールド・ブルース・バンドと並ぶユダヤ系白人ブルース・ロックの先駆的バンドでした。ブルース・プロジェクトはライヴ盤1枚、スタジオ盤1枚でブラッド・スウェット&ティアーズに発展して解散しますが(のちに一時的に再結成してライヴ盤を発表します)、アル・クーパーはミュージシャンズ・ミュージシャン的な人気があり、たとえば日本でもフラワー・トラベリン・バンドのファースト・アルバム『エニウェア』1970でカヴァーされているマディ・ウォーターズの曲「Louisiana Blues」はブルース・プロジェクトのヴァージョンを下敷きにしたものです。

 サン・ラがロック系ミュージシャンやリスナーに注目されるようになったのはポスト・パンク以降でしたが、もともとサン・ラはアーケストラ結成前はシカゴの黒人音楽界全般に関わっていましたから多くのリズム&ブルース、ゴスペル、ドゥー・ワップのアーティストのプロデュース経験があり、黒人音楽界ではいわばロックの父のような存在でした。ブルース・プロジェクトのメンバーはサン・ラの子供ほどの若い世代のミュージシャンでしたが、激戦区ニューヨークのフォーク・ロック界で叩き上げのメンバー揃いでしたし、またユダヤ系白人でもありましたから、両者ともにウィルソンからの依頼をアルバイトと割り切って手堅くこなしたと思われます。本作は変名でリリースしたリンボー・ダンス用音楽のアルバム『Ron Croney, Queens of Limbo, with Orchestra and Chorus - It's Limbo Time』(Dauntless DM-4309, 1963)と同様にサン・ラ・アーケストラの公式サイトでもディスコグラフィーに含めていませんし、ようやくアナログ盤、CD再発されたのも2000年代以降で、それまで「サン・ラとブルース・プロジェクトのインスト・ロック・アルバム!しかもバットマンのテーマ曲集!」と知名度だけは高かったものです。各種音楽サイトでも本作はデータのみ掲載され、レビューは記されていませんが、Allmusic.comでは批評家評価は空白、ユーザー評価では★★★★★と、いわば存在自体が面白がられているアルバムです。「ダンとデイルのエキサイティング・ギター」とアーティスト名が偽装されているように(「ダンとデイル」とは「ジャン&ディーン」のように典型的なサーフィン/ホッド・ロッドのアーティスト名です)、本作はサン・ラ御大自身を含むアーケストラのメンバーとブルース・プロジェクトのメンバーがゲーム音楽のサウンドトラックのように職人的にでっち上げた、典型的な安っぽいサーフ・インスト・ロックの珍品アルバムですが、再発売以来ロングセラーを続けている人気アルバムになっているのはまさに他でもない意外なメンバーのアルバイト仕事の余興の楽しさゆえで、'60年代アメリカのスーパーマーケット用レコードの雰囲気を知るには格好のアルバムとして、またバットマン関連のレコードの典型的なものとして牧歌的なノスタルジア込みで気楽に聴ける、しかもサン・ラ・アーケストラにとってもアル・クーパー&ブルース・プロジェクトにとってもなかったことになっているアルバムとなると面白さは倍になります。本作については特に書くこともないので、こういうアルバムもあるというだけで尽きています。それにしてもブルース・プロジェクトはともかく、『It's Limbo Time』に続いて、よくまあサン・ラ側もこんなアルバイトを引き受けたものです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)