グリフォン - ゲット・アウト・オヴ・マイ・ファーザーズ・カー!(Gryphon, 2020) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

グリフォン - ゲット・アウト・オヴ・マイ・ファーザーズ・カー!(Gryphon, 2020)
Gryphon - Get Out of My Father's Car! (Gryphon, 2020) :  

Released by Belle Antique BELLE 203397, November 25, 2020
Photography by Andy HoMastered
Artwork, Graphic Design by John Hurford
Producer, Recorded, Mixed, Mastered by Graeme Taylor
(Tracklist)
1. Get Out Of My Farther's Car! (Brian Gulland, Graeme Taylor) - 4:06
2. A Bit Of Music (Andy Findon, Gary Findon) - 4:47
3. Percy The Defective Perspective Detective (Brian Gulland) - 2:31
4. Christina's Song (Clare Taylor, Christina Rossetti) - 3:41
5. Suite For '68 (Andy Findon, Gary Findon) - 5:04
6. The Brief History Of A Bassoon (Graeme Taylor) - 2:59
7. Forth Sahara (Rob Levy) - 3:46
8. Krum Dancing (Andy Findon, Graeme Taylor) - 5:26
9. A Stranger Kiss (Clare Taylor) - 4:19
10. Normal Wisdom From The Swamp... (Brian Gulland) - 5:11
11. Parting Shot (Graeme Taylor) - 5:52
12. Lament (Brian Gulland, Graeme Taylor) - 11:17
[ Gryphon ]
Graeme Taylor - Acoustic Guitar [Santa Cruz OM Acoustic Guitar], Electric Guitar [Telecaster Blackguard, Sunburst Stratocaster], Vocals, Keyboards, Drum Programming
Brian Gulland - Bassoon, Recorder, Soprano Saxophone, Whistle, Melodica [Melodicator], Piano, Organ, Harpsichord, Harmonium, Vocals, Performer [16 Panel, Quick Fold, Rainbow Coloured Golf Umbrella]
Clare Taylor - Violin [Colin Mezin 1871 Violin, Francois Nicolas Violin Bow, Joseph Alfred Lamy Bow], Vocals, Performer [Quick Fold, 25 Inch, Multicoloured Gold Umbrella, Percy Prius Carhorn, Door Slams]
Andy Findon - Flute, Piccolo Flute, Crumhorn [Soprano Crumhorn], Soprano Saxophone, Tenor Saxophone, Baritone Saxophone, Clarinet
Rob Levy - Bass Guitar [Sadowsky And Musicman Bass Guitars]
Dave Oberlé - Drums, Percussion, Vocals, Bells [Bell Striker]
(Original Gryphon “Get Out Of My Farther's Car!” Inner and Liner Cover, CD Label)

 グリフォンは2007年に32年ぶりのコンサートをオリジナル・メンバーの四人(リチャード・ハーヴェイ、ブライアン・ガランド、グレアム・テイラー、デイヴ・オバリー)でロンドンのクイーン・エリザベス・ホールを会場に行い、新作アルバムのリリースも予告しましたが、それぞれ教職に就くメンバーの多忙のためにこの時は一時的な再結成に終わりました。2015年には再びツアーを行い、2016年に国民的バンド、フェアポート・コンベンションの前座でツアーを回ったのち、バンドは公式に再結成を宣言します。ガランドと双頭リーダーだったリチャード・ハーヴェイは教職の多忙でバンドを離れましたが、ガランド中心のバンドになったグリフォンはハーヴェイに代わる木管古楽器奏者を迎えて2018年に(未発表テイク、未発表ライヴなどのコンピレーション・アルバムを除く)41年ぶりの新作『リインヴェンション (再確立) (ReInvention)』を発表します。2020年には曲目違いの日本盤も出た『ゲット・アウト・オヴ・マイ・ファーザーズ・カー!(Get Out Of My Father's Car! )』を発表し、現時点では同作がグリフォンの最新作となっています。グリフォンの公式YouTubeチャンネルではトランスアトランティックからの4作『鷲頭、獅子胴の怪獣 (Gryphon)』1973、『真夜中の狂宴 (Midnight Mushrumps)』1974、『女王失格 (Red Queen to Gryphon Three )』1974、『レインダンス (Raindance)』1975と日本発売ヴァージョンの『ゲット・アウト・オヴ・マイ・ファーザーズ・カー!(Get Out Of My Father's Car! )』2020の5作が公式アルバムとされ、『反逆児 (Treason)』1977、『リインヴェンション (再確立) (ReInvention)』2018は割愛されているので、バンドの意向に従い『ゲット・アウト・オヴ・マイ・ファーザーズ・カー!』を再結成後の最新作としてご紹介しておきましょう。

 現在のグリフォンはリチャード・ハーヴェイ(リコーダー、クルムホルン、マンドリン、キーボード)は欠くも、オリジナル・メンバー四人のうちの三人、ブライアン・ガランド(バスーン、トロンボーン、クルムホルン、リコーダー、キーボード)、グレアム・テイラー(ギター、ヴォーカル)、デイヴ・オバリー(ドラムス、パーカッション、リード・ヴォーカル)は健在で、1973年のデビューから50年、三人まで残っているなら十分リスナーを納得させるものです。多忙を理由に不参加のハーヴェイの代わりに加入したのはグラハム・プレスケット(キーボード、マンドリン、ヴァイオリン、ギター、パーカッション)、ローリー・マクファーレン(ベース)の二人で、新メンバーはマルチ・プレイヤーのハーヴェイが抜けた穴を埋めるべく、ライヴのレギュラー・メンバーになっています。

 本作『ゲット・アウト・オヴ・マイ・ファーザーズ・カー!』は再結成第1作『リインヴェンション (再確立)』同様、グリフォン自身のレーベルからリリースされたもので、日本ではマーキー・コーポレーションのベル・アンティーク・レーベルからリリースされました。オリジナルのイギリス盤が自主制作盤で会社名なし、レコード番号なしという仕様に対して、多少曲目違いの日本盤はレコード会社明記、レコード番号ありというのが何ともグリフォンらしいというか、バンド自身も日本盤の方をインターナショナル盤として自身のYouTubeチャンネルにアップしています。グリフォン本来のリーダーはイギリス王立音楽院出身のリチャード・ハーヴェイ(現在不参加)とブライアン・ガランド(各種木管古楽器)なのですが、自主制作になってからはギタリストのグレアム・テイラーが録音、ミキシング、プロデュースを一手に引き受けているのも現在のグリフォンらしさを感じさせます。中心メンバーはオリジナル・メンバーのガランド、テイラー、デイヴ・オバリー(ドラムス、ヴォーカル)の三人ですが、本作ではライヴ・メンバーのグラハム・プレスケットとローリー・マクファーレンの代わりに、テイラー夫人のクレア・テイラー(ヴァイオリン他)、アンディ・フィンドン(フルート他)、ロブ・レヴィー(ベース)が加わった六人編成となっており、つまり現在のグリフォンはガランド、テイラー、オバリーを中心としてファミリー的に都合のつくミュージシャンが参加する、といった活動形態を取っているのでしょう。内容はいかにも往年のグリフォンのまんま、1977年の最終作『反逆児』よりずっと全盛期のトランスアトランティック時代のグリフォンに近く、日本盤では『女王失格』の代表曲「ラメント」を再演しています。わざわざ使用楽器を機種やメーカーまで明記したクレジットも楽器にこだわる古楽器バンド、グリフォンらしく、全体的にはテクニカルなのに牧歌的というグリフォンらしさをきちんと再現していて、往年のリスナーなら十分納得いくものです。これからグリフォンをお聴きになる方にはトランスアトランティック時代の4作、特に最初の3作をお薦めしますが、結成から50年、長い長いブランクを経て相変わらずのグリフォン節が聴ける本作は後ろ向きなのか前向きなのかわからず、元々古楽器アンサンブルでプログレッシヴ・ロックのリスナーにアピールする現代版古楽を演る、といったグリフォンのコンセプト自体がそういう物であり、案外お洒落なカフェで小さい音量で流れていれば可愛らしく聴けるような折衷主義的バンド、グリフォンのトイ・ポップ的な本質が楽しめる好盤として本作も細々と愛されていくにふさわしい内容です。ただし緊迫感はほとんどないので、まずグリフォンは初期3作、次いで『レインダンス』や『反逆児』、本作はその後聴いてこそしみじみ染みてくる最新作とご理解いただければ幸いです。