ジョン・コルトレーン - 身も心も (Atlantic, 1964) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ジョン・コルトレーン - 身も心も (Atlantic, 1964)
ジョン・コルトレーン・カルテット John Coltrane Quartet - 身も心も Body and Soul (Johnny Green with Ed Heyman, Robert Sauer & Frank Eyton) (Atlantic, 1964) - 5:35 :  

Released by Atlantic Records as the album "Coltrane's Sound", SD 1419, 1964
[ John Coltrane Quartet ]
John Coltrane - tenor saxophone, McCoy Tyner - piano, Steve Davis - bass, Elvin Jones - drums 

 この曲は第1回でご紹介した通り、「身も心も」をテナーサックス・スタンダード化したコールマン・ホーキンス(1904-1969)から始めなければ話になりませんが、実はジョン・コルトレーン版の「身も心も」をご紹介したくて長々やってきたようなものです。ジョン・コルトレーン(1926-1967)は1960年10月21日に1セッション、24日には午後と晩の2セッション、26日に1セッションの計3日4セッション(1セッション各3時間)でアトランティック・レコーズにアルバム3枚半を一気に録音しました。それが『Coltrane Jazz』'61(1959年録音を半分含む)、『My Favorite Things』'61、『Coltrane Plays The Blues』'62、「身も心も」を含む『コルトレーン・サウンド~夜は千の眼を持つ (Coltrane's Sound)』'64の4枚で、『Coltrane Sound』の発売が遅れたのは'61年5月にアトランティックとの契約満了アルバムとして録音された『Ore Coltrane』が'61年末に先行発売されてリリース・ラッシュになっていたためで、『Coltrane Sound』の発売はコルトレーンがインパルス・レコーズ移籍後8枚目の『Live at Birdland 』(1964年4月)、9枚目の『Crescent』(1964年7月)と同時期になりました。このスタジオ録音初演の「身も心も」はスタンダード曲カヴァーとしては十分な名演ですが、あくまでスタンダード曲の解釈の範疇にとどまるものとも言えます。

 インパルス移籍後の1961年にアルバム4枚分もの録音と、エリック・ドルフィーを加えたクインテットで年末のヨーロッパツアーを行ったコルトレーンは、帰国後の1962年2月から正式なレギュラー・ベーシストにジミー・ギャリソンを迎えてメンバーを固定します。この頃からさらにオーネット・コールマンとドルフィーからの影響を吸収したコルトレーンは、ライヴでもますます壮絶な演奏をくり広げます。米ヴィー・ジェー・レコーズの原盤なのに、なぜか日本盤が世界に先がけて発売された次のラジオ中継音源のライヴ・アルバム(全4曲中3曲がドルフィー在籍時の2月のクインテット、「身も心も」のみ6月のドルフィー退団後のコルトレーンのワンホーンのカルテット)で聴ける10分近い「身も心も」は、コルトレーンの同曲最高の演奏で、1960年のスタジオ録音をしのぐ、コルトレーンのキャリアでも屈指の名演のひとつでしょう。超高速幾何学的フレーズをばりばり決めるコルトレーン、鉈を振るうようなピアノのマッコイ・タイナー、ベースを弾ませるギャリソン、千手観音の異名を取ったドラムスのエルヴィン・ジョーンズも、バンド4人が神経接続されたような渾然一体となった超絶パフォーマンスが聴けます。1960年のスタジオ録音とはベーシストが変わっただけなのに、ピアノとドラムスの躍動感がた格段に違います。この1962年~1965年のコルトレーン・カルテットこそがジャズ史上最高にして唯一無二の存在だったのを如実に示すライヴ音源で、ここで聴ける「身も心も」はまるでコルトレーン・カルテットに演奏されるために生まれてきたような、ほとんどゴスペル曲の域にまで達した、スタンダード曲の演奏を超えていっそオリジナル曲とすら言える質的な転換があります。ブルース・ロックもサイケデリック・ロックもハード・ロックもプログレッシヴ・ロックもパンクもあらゆる種類のオルタナティヴ・ロックはコルトレーン・カルテットがいなければ生まれてこなかった、ファンクもニュー・ソウルもモダン・ブルースも黒人音楽はみんなここを通った、コルトレーンこそチャーリー・パーカーとジミ・ヘンドリックスを橋渡しした最大の壮大な音楽的革新だったと言われる根拠がここに凝縮されています。吉田秀和氏と並ぶ戦後日本のクラシック音楽批評家の重鎮、遠山一行氏はマイルス・デイヴィスを「アメリカ人のクラシック奏者で、これだけの音楽家を私は知らない」と絶讚していましたが、コルトレーンについては「これほどの演奏家は現在、あらゆる音楽家の中でもいないのではないか」と驚愕を表明していました。コルトレーンは享年40歳の短いキャリアの中で奏法・作風の変遷も激しかったミュージシャンでしたので、このコルトレーン史上最強カルテットの時期の「身も心も」にスタジオ版再演の公式録音がないのが惜しまれますが、スタジオ盤でないジャズ・クラブ出演中継のラジオ放送ライヴだからこそこれほどの名演になったとも言えるヴァージョンです。
John Coltrane Quartet - Body and Soul (Vee Jay,1977) - 9:57 :  

Recorded live at Birdland Club, New York City, June 2, 1962
Released by Vee Jay Records ‎as the album "The Inner Man", UXP-88-JY, Sep.25.1977
[ John Coltrane Quartet ]
John Coltrane - tenor saxophone, McCoy Tyner - piano, Jimmy Garrison - bass, Elvin Jones - drums
 
 インパルス移籍後のコルトレーンは年間10枚以上のスタジオ録音・ライヴ録音を憑かれたように収録していたので、生前には多くても年間3~4枚のリリースだったため、1967年7月の急逝後に続々と未発表のスタジオ録音アルバム、ライヴ・アルバムが発掘発売されました。1971年発売の2枚組LP『Live In Seattle』はLP2枚組で全4曲80分の長尺演奏でしたが、1994年の新装2枚組CD化でさらに2曲・55分相当(!)を追加し、LPでは収録漏れになっていた、21分にも及ぶ「身も心も」が発掘されました。このライヴではカルテットにバス・クラリネットとベースを兼任するドナルド・ギャレット、元サン・ラ・アーケストラのピンチヒッター・テナー奏者だったファロア・サンダースが加わったセクステット(2ベース・アンサンブルを含む)で、サン・ラやアルバート・アイラーのニューヨーク進出から本格的にオーネットやドルフィー以来のフリー・ジャズへの傾倒を深めていたコルトレーンにとって決定的な転機となりました。サンダースと、やはりフリー・ジャズ出身ドラマーのラシッド・アリを加えた2テナー・2ドラムス・セクステットでのスタジオ録音アルバム『瞑想 (Meditations)』(1965年11月録音)を最後に6年来のメンバーだったマッコイとエルヴィンはコルトレーンの急進的なフリー・ジャズ路線を嫌って脱退し、バンドはピアノにコルトレーン夫人のアリス・コルトレーンを迎えて、コルトレーン、ファロア、アリス、ギャリソン、アリのクインテットでコルトレーンが末期癌で倒れるまでの最後の1年の活動に入ります。『Live In Seattle』もすでに余命1年10か月の演奏です。定型ビートを廃し、フリー・ジャズ化した(特に4分台からは完全に原曲を離れたフリー・ジャズです)、コルトレーンの1965年版「身も心も」のライヴ演奏は、1960年スタジオ版、1962年ラジオ音源ライヴ版のどちらともまったく変わった、しかしまぎれもなく同じテナー奏者による音色の聴ける真摯な演奏です。それ以上、この身を削るような演奏に、いったい何が言えるでしょうか。
John Coltrane Sextet - Body and Soul (Impulse!, 1994) - 21:25 :  

Originally Released Impulse! AS-9202-2, 1971, 2LP
Expanded Reissued by Impulse! ‎as the album "Live In Seattle", GRD-2-146, 1994, 2CD
[ John Coltrane Sextet ]
John Coltrane & Pharoah Sanders - tenor saxophone, Donald Garrett - bassclarinet & bass, McCoy Tyner - piano, Jimmy Garrison - bass, Elvin Jones - drums

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)