グリフォン - 反逆児 (Harvest, 1977) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

グリフォン - 反逆児 (Harvest, 1977)
グリフォン Gryphon - 反逆児 Treason (Harvest, 1977) 

Released by EMI/Harvest Records SHSP 4063, 1977
Produced by Mike Thorne
Engineering & mixed by John Leckie
All Lylics by Tim Sebastion
(Side 1)
A1. スプリング・ソング Spring Song (Harvey, Sebastion) - 10:00
A2. ラウンド・アンド・ラウンド Round & Round (Harvey, Sebastion) - 4:30
A3. フラッシュ・イン・ザ・パントリー Flash in the Pantry (Gulland, Sebastion) - 4:57
(Side 2)
B1. ファレロ・レディ Falero Lady (Harvey, Sebastion) - 4:08
B2. スネイクス・アンド・ラダーズ Snakes and Ladders (Harvey) - 5:15
B3. フォール・オブ・ザ・リーフThe Fall of the Leaf (Harvey, Sebastion) - 4:22
B4. メジャー・ディザスター Major Disaster (Foster, Sebastion) - 4:04
[ Gryphon ]
David Oberle - lead vocals, percussion
Brian Gulland - bassoon, English horn, recorders, backing vocals
Bob Foster - guitars, backing vocals
Richard Harvey - keyboards, piano, sax, recorders
Jonathan Davie - bass guitars
Alex Baird - drums
(Original EMI/Harvest "Treason" LP Liner Cover, Lyrics Inner Sleeve & Side 1 Label)

 惜しかったとしか言いようのないグリフォンのハーヴェスト・レーベル移籍第一作にしてラスト・アルバムの本作は、グリフォンのメンバーが尊敬していたイエスで言えば『トーマト (Tomato)』(Atlantic, 1978)に当たる(プログレッシッヴ・ロックの時代の衰退を先取りした)作品です。レコード袋が歌詞カードになっているように初めてほぼ全曲ヴォーカル曲で統一された作品になっており、ドラムス兼任からヴォーカル専任になったデイヴ・オバリーの替わりに新ドラマーを迎え、前作『Raindance』を最後に脱退したギターのグレアム・テイラーの替わりにギターとベースも新メンバーが加わりました。A1はイエスの「クジラに愛を (Don't Kill the Whale)」 (アルバム『Tormato』'78収録なのでグリフォンの方が先)を思わせる16ビートのリフが印象的な曲で展開もイエス的ですが、16ビートかつテクニカルなのにまるでファンキーでないのは4拍の大きなノリに欠けてイーヴン(平坦)な16分音譜の羅列になっているからです。またこの曲を始めとして楽曲はなかなか良いのにヴォーカルが弱く、構成に洗練が欠け、ミックスがまずく、せっかくの楽曲を生かしきれていない面も目立ちます。しかしアルバム全体は16ビートへの取り組みが一応成功しており、新メンバーのギター、ベース、ドラムスの貢献が大きいでしょう。その代わり16ビートが決まれば決まるほどプレイは普通のロック・バンドに近くなり、サード・アルバムまでのグリフォンのアンサンブルにはオリジナリティがあったのになあと遠い目になってしまうので、新メンバーの演奏も健闘しているのですが、かつてのイギリス古楽のロック化を試みていたグリフォンの面影は唯一のインスト曲B2にうかがわれるのみで、この曲ではギター、ベース、ドラムスの新メンバーもオリジナル・コンセプトのグリフォンのアンサンブルを十分こなしており、おそらくライヴでは初期~絶頂期グリフォンの曲を演奏できるセンスと力量のメンバーだったろうと推察できます。少なくともミックスさえ良ければ中途半端なヴォーカル曲導入とロック化の不消化が目立った前作『Raindance』より数等優れたアルバムで、1975年の『Raindance』発表のタイミングで本作が出ていたらもう少しバンドの寿命も延びていたかもしれません。『Raindance』の時点でオイルショック不況から王立音楽院からの助成金を打ち切られたバンドは、予算不足のためにライヴ回数も全盛期(とはいえつい前年)の1/4に減らさざるを得ませんでした。

 何より本作は『Raindance』から2年も開いた1977年発売というタイミングが悪すぎました。せっかくの新生グリフォンによるレコード会社移籍第1弾の力作なのに肝心のレコード会社が本腰を入れて売り出す気がなかったのです。レコード会社のプレスシート(宣伝資料)はメンバーの意向をまったく無視して作成され、本作はシェイクスピアと同時代の劇作家シリル・ターナー(代表作『復讐者の悲劇』)の作品をモチーフにしたコンセプト・アルバムとされていました。メンバーはバンド自身によるCD再発のためにレコード会社から原版権を買い戻した'90年代までそれを知らず、そもそもシリル・ターナーって誰?と笑い話になったそうです。エンジニアとミックスは解散間際~ソロ初期のビートルズ関連作からアビー・ロード・スタジオ専任エンジニアになり、XTCの初期作品を始めイギリスのパワー・ポップ系名プロデューサーになったジョン・レッキーで、プロデュースはディープ・パープルのスタッフから業界入りし、グリフォンの本作と前後してワイヤーの初期3作のプロデューサーとして名を馳せ、のちソフト・セルの「汚れなき愛 (Tainted Love)」をプロデュースし英米・全欧で大ヒットさせたマイク・ソーンです。レッキーは1949年生まれ、ソーンは1948年生まれとグリフォンのメンバーより4~5歳年上なくらいですが、1980年代にイギリスのロック界の重鎮になったので、グリフォンのメンバーよりも音楽的感性はよほど若かったことになります。というより、グリフォンはあまりに正統派のミュージシャンとして早熟すぎて、デビューと作風の確立も早すぎたためにメンバーの大学卒業の頃には時代遅れになってしまったバンドでした。かくして本作はパンク/レゲエ/ファンク/ニュー・ウェイヴの時代に咲いたプログレッシヴ・ロックの徒花となり、メンバーはバンドを見切ってカタギ(クラシック音楽関係)に戻っていったのです。ジェスロ・タルやイエス、ジェントル・ジャイアントなどに較べるとグリフォンは意欲やテクニックこそ劣らないとは言え、センスとアイディアに致命的な限界がありました。また牧歌的といえば聞こえはいいですが、このバンドの演奏には緊張感がほとんどない上にリスナーが飽きる要素が多いのです。しかしそれがグリフォンならではの味と愛嬌になっているので、何もすべてのバンドが万能かつ一流でなければならないわけではないではありませんか。そしてグリフォンは数度の一時的再掲載を経たのち2015年に再結成し、今なお現役バンドとして活動しているのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)