グリフォン - レインダンス (Transatlantic, 1975) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

グリフォン - レインダンス (Transatlantic, 1975)
グリフォン Gryphon - レインダンス Raindance (Transatlantic, 1975) 

Recorded at Sawmills Studios, Cornwall during June and July 1975 except "Wallbanger" which was recorded on the Manor Mobile at Brian Goodman's P.S.L. Studios in London during October 1974
Released by Transatlantic Records TRA 302, 1975
Produced by Gryphon
(Side One)
A1. ダウン・ザ・ドッグ Down the Dog (Harvey) - 2:44
A2. レインダンス Raindance (Harvey) - 5:37
A3. マザー・ネイチャーズ・サン Mother Nature's Son (John Lennon, Paul McCartney) - 3:08
A4. ハンカチーフの盗賊 'Le Cambrioleur Est Dans le Mouchoir' (Taylor, Bennett) - 2:14
A5. オルモル Ormolu (Harvey) - 1:00
A6. フォンティネンタル・ヴァージョン Fontinental Version (Taylor) - 5:36
(Side Two)
B1. ウォールバンガー Wallbanger (Harvey) - 3:33
B2. ドント・セイ・ゴー Don't Say Go (Taylor) - 1:48
B3. (ある小さな)英雄の生涯 (Ein Klein) Heldenleben (Harvey) - 16:03
[ Gryphon ]
Brian Gulland - bassoon, backing and lead vocals on A6
Graeme Taylor - guitars, backing vocals
Richard Harvey - grand, electric Rhodes, RMI and Crumar pianos, Minimoog, Copeman Hart organ, Mellotron, Clavinet, keyboard glockenspiel, recorders, krumhorns, penny whistle, clarinet on A4
Malcolm (Bennett) Markovich - bass, flute
David Oberle - drums, lead vocals (A3, A6, B2), percussion
(Original Transatlantic "Raindance" LP Liner Cover & Side One/Side Two Label)

 グリフォン早くも凋落の一歩とされる第4作の本作はデビューからまだ3年目ですから、あまりに全盛期の短いバンドでした。ベーシストは毎回サポート・メンバーが入れ替わっていましたが、このアルバムを最後にオリジナル・メンバーのハーヴェイ/ガランド/テイラー/オバリーのうち重要なギター・パートを担っていたグレアム・テイラーは脱退し、レコード会社のトランスアトランティックとの契約も更新されず、グリフォンはレーベル移籍を余儀なくされます。直接にはオイルショックの余波が原因とも言えますが、アルバム4作目となるともう新人バンドではなく、グリフォンの人気はマニア向けに止まったものでしたし、レコード会社はこれ以上ブレイクを望めないバンドよりも新人の売り出しを優先するものです。他ならないグリフォン自身もデビューは変わり種のプログレッシヴ・古楽フォーク・ロックのグループとして話題先行で売り出されたバンドでしたが、第2作『真夜中の饗宴』と第3作『女王失格』の2枚の名作を送り出したもののインストルメンタル曲中心の方向性はセールス面の限界を露わにしてしまった恰好になりました。そこでグリフォンはオバリーのヴォーカル曲の比重を増やすことにし、本来このアルバムにはヴォーカル曲がさらに3曲ほど録音されていたそうです。ところが逆に従来のファンからの不評を恐れたレコード会社側からヴォーカル曲の収録を制限され、結局それまでのようにバスーンとリコーダーのアンサンブルをフィーチャーしたインストルメンタル曲でヴォーカル曲の収録予定枠の半分を埋めることになりました。アルバムは何だかよくわからないジャケットで発売され、セールス不振と不評を残してバンドは契約レーベルを離れることになります。

 本作のヴォーカル曲ではビートルズ、というよりポール・マッカートニーの名曲「Mother Nature's Son」のカヴァーが目を惹きますが、これは元々原曲がトラッド風なアコースティック・ソフト・ロックの名曲なのでビートルズのヴァージョンに見劣りしないまでもストレート・カヴァー以上にはなっておらず、バンド自身もヴォーカル曲に重点を移しながらもあまり自信はなかったそうで、従来路線のイギリス古楽由来の楽曲もどこか集中力に欠け、工夫と張りにも欠ける印象を受けます。グレアム・テイラーのギターも前3作のアレンジに見られたジム・ホール的なアイディアと冴えがなく、前2作では光っていたメンバーのオリジナル曲も本作では平凡に聴こえます。B3の16分におよぶ大曲「(Ein Klein) Heldenleben」もモード奏法によるソロイストの交替で長丁場を乗り切るばかりで、構成の巧みさに富んだ『真夜中の饗宴』『女王失格』の大曲から数等後退した印象を受ける冗長な演奏になっています。もしグリフォンに才能が欠けていたらデビュー作前後ではこうだったようなスタイルと出来ばえで、意欲的な失敗作ならまだいいのですが、これは迷いがそのまま表れてしまったアルバムでしょう。テイラーの抜けたバンドは、次作でオバリーがヴォーカルに専念、ギターとベース、ドラムスに新メンバーを迎えた6人編成でレコード会社移籍第1弾に勝負を賭けますが、勝負するなら本作の時期がぎりぎりのタイミングでした。結果的にラスト・アルバムになった次作は本作よりはよほど思い切りの良いプログレッシヴ・ロックのアルバムになりましたが、ジャーナリズムやリスナーからの反響はほとんど得られず、そのままグリフォンは解散に追いこまれてしまうのです。身も蓋もないことを言えば、音楽的素養やテクニックに恵まれながらグリフォンに欠けていたのは意外性や驚き、発想の飛躍など本来的な創造的の根源となるアーティスティックな姿勢でした。その慎ましさが同時にデビュー作、『真夜中の饗宴』また『女王失格』では美点になっていたので、ミュージシャンのあり方とはつくずく難しいものだと思わされます。またラスト・アルバムになった次作『反逆児』は完全な商業的失敗作に終わり、もっとも世評の低い作品ですが、これが意外に良いのです。そもそもグリフォンのようなバンドが5作ものアルバムを残したのは'70年代のイギリスならではという気がします。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)