スタン・ゲッツ - 身も心も (Clef, 1953) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

スタン・ゲッツ - 身も心も (Clef, 1953)
スタン・ゲッツ・クインテット Stan Getz Quintet - 身も心も Body And Soul (Johnny Green with Ed Heyman, Robert Sauer & Frank Eyton) (Clef, 1953) - 3:14 :  

Released by Clef Records ‎as the album "Stan Getz Plays", MGC-137, 1953
[ Stan Getz Quintet ]
Stan Getz - tenor saxophone, Duke Jordan - piano, Jimmy Raney - electric guitar, Bill Crow - bass, Frank Isola - drums 

 ジャズのテナーサックスの巨匠を上げるとコールマン・ホーキンス(1904-1969)、レスター・ヤング(1909-1959)、ソニー・ロリンズ(1930-)、ジョン・コルトレーン(1926-1967)と並んで必ず上がるのがスタン・ゲッツ(1927-1991)で、並みいる黒人奏者を置いても白人ではゲッツだけは落とせない人になります。ゲッツは義務教育卒業後すぐビッグバンドに就職した叩き上げのプロで、レスター・ヤングがいなければゲッツは出てこなかったかもしれませんが、ゲッツの場合はビ・バップがなくてもレスターの影響だけで個性を確立できたのではないかと思える強力なジャズマンでした。また前記の4人は大きな影響力がありましたが、ゲッツから影響を受けたジャズマンはほとんどいない点でもポピュラーなのに特異、特異なのにポピュラーな怪物的存在でした。それはゲッツよりもさらに大きく、フランク・シナトラ(1915-1998)についても言えることでしょう。
Frank Sinatra and His Orchestra - Body and Soul (Columbia, 1949) - 3:22 :  

Recorded in New York City, November 9, 1947
Released by Columbia Records as the album "Frankly Sentimental", C-185, 1949
[ Frank Sinatra and His Orchestra ]
Frank Sinatra - vocal, Alex Stordahl - arrangement with Frank Sinatra's Orchestra
 
 ビ・バップによるモダン化に先んじてサックスの可能性は拡大されていましたが、しかし前回ご紹介したアート・テイタム(1909-1956)やナット・キング・コール(1919-1965)ほど優れたピアニストでも「身も心も」の演奏ではギタリストにメロディーを弾かせていました。打鍵楽器であるピアノには「身も心も」のようになめらかに歌うメロディーが不向きだからですが、テイタムに影響を受け、ビ・バップの渦中でジャズ・ピアニストになったバド・パウエル(1924-1966)は、殺気立つほど大胆な打楽器的奏法と猛烈に細分化された和声解釈・リズム感で縦横無尽にメロディーとソロを弾き、モダン・ジャズ・ピアノの開祖というべきピアニストになりました。楽器別で影響力を較べれば、レスターやチャーリー・パーカー(1920-1955)が後続のサックス奏者に与えた影響よりも、後続のジャズ・ピアニストへのパウエルの絶大な支配力の方が勝るかもしれません。
Bud Powell Trio - Body and Soul (Mercury, 1951) - 3:20 :  

Released by Mercury ‎Records as the album "Bud Powell Piano", MG C-507, 1951
[ Bud Powell Trio ]
Bud Powell - piano, Curley Russell - bass, Max Roach - drums
 
 西海岸で数少ないビ・バップ支持者のジャズマンであり、ディジー・ガレスピー(1917-1993)やパーカー、マイルス・デイヴィス(1926-1991)やバド・パウエル、マックス・ローチ(1925-2007)らと親交を持ち共演を重ねながら、作曲・編曲家でもあったベーシストのチャールズ・ミンガス(1922-1979)には、ビ・バップの主流とはかなり外れる実験的指向がありました。ミンガスはニューヨークに拠点を移してからはレニー・トリスターノ(ピアノ・1919-1978)とデュオでクラブ出演することが多かったと伝記にありますが、音楽性は異なりこそすれ実験性ではトリスターノのクール・ジャズとの親近性を感じさせます。次のテイクでは世にも珍しい、ベースがテーマを弾く「身も心も」が聴けます。
Charles Mingus - Body and Soul (Debut, 1953) - 3:36 :  

Released by Debut Records as the album "Strings And Keys", DLP1, 1953
[ Personnel ]
Charles Mingus - bass, Spaulding Givens - piano
 
 ビ・バップの最盛期からポスト・バップのジャズ・スタイルを考えていたバリトンサックス奏者のジェリー・マリガン(1927-1996)はニューヨーク出身ながら、いち早くロサンゼルスに拠点を移した白人ジャズマンでした。まマリガンよりもいっそうクール・ジャズの影響を受けながらもクール・ジャズの源泉であるビ・バップ要素は皆無で、クール・ジャズの実験性をやわらげクリーンな親しみやすさから人気を博した西海岸出身のデイヴ・ブルーベック(1920-2012)・カルテットのアルトサックス奏者、ポール・デスモンド(1924-1977)はもっとも白人ジャズらしい良さを発揮したジャズマンでした。マリガンはピアノレスの小編成バンドを得意としていましたし、デスモンドはブルーベック・カルテット以外ではブルーベック以外のピアニストとは決して共演しなかったので、自分名義のアルバムでは金管楽器入りのピアノレス・カルテットか、ピアノではなくギターにジム・ホール(1930-2013)を迎えるのが常で、唯一例外はMJQとの共演でした。なのでマリガンとデスモンドの共演はごく自然な組み合わせでした。ホーキンスやレスターら黒人奏者とは違い、また白人奏者でもゲッツとの共通点はほとんどない演奏です。意外性のある共演ではない分、幾分優等生のパーフェクトすぎる模範解答の観はありますが、マリガンとデスモンドに一流ではない演奏をするなと言っても無理ではありませんか。
Gerry Mulligan & Paul Desmond Quartet - Body and Soul (Verve, 1958) - 9:43 :  

Released by Verve Records as the album "Gerry Mulligan - Paul Desmond Quartet", MGV-8246, 1958
[ Gerry Mulligan & Paul Desmond Quartet ]
Gerry Mulligan - baritone saxophone, Paul Desmond - alto saxophone, Joe Benjamin - bass, Dave Bailey - drums

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)