さて、ドイツ館のホールは20人程度の客で、サロン風の音楽会を催すには最適だが、40人も50人もの聴衆を入れてリサイタルをやる場所ではない。半地下の石室みたいな部屋なのである。
しかし、小ホールだが音の反響とか合奏の音のまとまり具合は非常にいい。私達は早く来たので一番前の席に座った。8割くらいの入りである。
今日の演奏会は20代後半の若手の奏者による弦楽四重奏である。ベート-ベン・カルテットという4人で、第一と第二ヴァイオリンが女性で、ヴィオラとチェロが男性。この4人の中ではビオラがビロードのような素晴らしい音を響かせている。第一ヴァイオリンの女性は少し硬いが、しかりした音で、きちんとテンポを取って行くタイプ。第二ヴァイオリンの女性は上手いのだが、全く無感心という感じで譜面も見ないで弾いている。チェロはしっかりとした音で、マイペースと言ったところ。
演奏曲目は盛りだくさんで、全部で4曲である。モーツアルトの初期の作品であるK157の四重奏曲で、イタリアのミラノで作曲された素適な曲である。ミラノ四重奏曲の6曲は全部4楽章でなくて3楽章しかなく、イタリアのコンチェロト・グロッソの形式をまねたらしい。ヴァイオリン協奏曲なども3楽章形式なのはコンチェロト・グロッソの名残だと言われている。だから、TVコマーシャルでも聞かれるK136~138のように、この曲はデヴェルティメントと呼んだ方が良いのかも知れない。
2曲目は、シューベルトの作品125の1(D87)で、いわゆる10番の弦楽四重奏曲である。作風が若い時のものと異なるため後年の作と思われていた曲で、どちらかと言うと弾きやすい、楽しい曲で、家族が集まって弾くために作曲したものらしい。
次は、ハイドンの作品で、作品17の2である。ハイドンは70曲以上の弦楽四重奏曲を残している弦楽四重奏の父みたいな作曲家だが、この曲は割と初期の作品である。
最後は、ベートーベンの作品18の4で締めくくる。ベートーベンは16曲の弦楽四重奏曲を残しているが、作品18は初めて書いた四重奏曲で、誰にでも直ぐに親しめる曲ばかりである。それまではピアノトリオとか弦楽三重奏曲などを作曲していた。新米の作曲家として、先輩のハイドンとか他の作曲家と競合しないようにするためだと言われている。作品18は6曲あるが、18の4は短調の曲だが、不思議と暗さがなく、力強く軽快に始まる。
演奏はまだ完成されていないが、今後が楽しみな楽団であった。演奏が終わって、暗い庭にでた。
夜空にシュテファン寺院の塔が見えた。「モーツアルトも、当時、この夜空のシュテファンの塔を見ていただろうな」と思うと感慨深いものがあった。
Viosan の「ミネソタの遠い日々」
1970年に私たち夫婦・子供連れでミネソタ大学(University of Minnesota)へ留学した記録のホームページにもどうぞ