ある日、書棚の整理をいていたら、古い仏語の語学レコード集と古いモーツアルトのSPレコードに古いベートーベンの弦楽四重奏曲全集のLPレコード(今はないバリリー四重奏団)が奥から埃をかぶって出てきた。このモーツアルトのレコードには特別な思い出があった。
ところで、歳をとってからヴァイオリンを始めた皆さん、何がきっかけでヴァイオリンを選びましたか?
*何となく、ヴァイオリンが気に入っていたから。
*好きな演奏家がいたから。
*友達がヴァイオリンを弾いていたから。
*家に大人用のヴァイオリンがあったから。
*メンデルスゾーン、ベートーベン、ブラームス、
チャイコフスキー、 などのヴァイオリンの名曲が好きだったから。
理由を挙げたら、きりがないでしょうが、私がヴァイオリンを始めたきっかけは、多分、他の人達と少々変わっていたと思う。
最初、ピアノを習いたかった。しかし、実家はクラッシクなどまるで縁のない商家だし、戦後間もない頃ではピアノのような高価なものを買う余裕もない。姉がドイツ系のミッション・スクールに通っていたので(と言っても我々はクリスチャンではない)、彼女が時々口ずさむシューベルトの歌曲くらいがクラッシクと縁がある程度だった。
中学3年生のある日、レコード店の前を通ったら、何とも美しい曲が流れてきた。余りに綺麗な曲なので、お店に入り曲名を店の人に尋ねた。
「モーツアルトのヴァイオリン協奏曲5番だよ」
という答えが店の主人から返ってきた。
急いで家に戻り、貯めてあった小遣いを握り締め、再びレコード店に急いだ。そして重いSP盤のレコード4枚アルバムを抱えて家に急いだ。それ以来モーツアルトは私の大好きな作曲家となった。演奏はゲオルク・クーレンカンプというドイツのヴァイオリニスト。
ヴァイオリニストにはどういう訳かユダヤ系の人が圧倒的に多い。名ヴァイオリニストの90%近くはユダヤ系と言っても過言ではない。
クライスラー、ハイフェッツ、エルマン、メニューヒン、オイストラフ、コーガン、シェリング、ミンツ、ミルシュタイン、スターン、パールマンなど例を挙げたらきりがない。戦争中はナチス・ドイツがユダヤ人芸術家を国外に追放したので、唯一ドイツ人のクーレンカンプをドイツの名バイオリニストとして売り出すしかなかった。しかし、モノラルからの復刻版のCD(残念ながらモーツアルトではなくて、ブラームスのソナタだが)を聴くとやはり素晴らしいと思う。
私が好きな演奏家にイスラエルのギル・シャハムという人がいるが、彼がヴァイオリンを始めたのは7歳で、10歳の時エルサレム交響楽団と競演している。7歳とうのは少々遅いみたいだが、驚くべき天才少年だったのだろう。ユダヤ人には特別の音楽的才能があるのかも知れない。
それ以来ヴァイオリンの魅力に取り付かれ、どうしてもヴァイオリンが欲しくなる。そして、親と交渉の末ヴァイオリンを遂に買ってもらった。スズキの安いヴァイオリンだったが、懸命に練習した。
当時、日本には戦後海外から戻ってきた諏訪根自子がいた。美貌の天才女性ヴァイオリニストだった。地方都市ではクラッシクの演奏会は殆どないし、聴きに行く機会もない。
中学3年生の1年間、高校で2年間(受験で3年生の時と浪人時代の1年間は休止)。大学に入ってドイツの楽器を買い求め、大学のオーケストラで4年間、大して上手にならなかったが、あわせて7年間弾いた。
Viosan の「ミネソタの遠い日々」
1970年に私たち夫婦・子供連れでミネソタ大学へ留学した記録のホームページにもどうぞ