橋を渡って戻ると、橋の袂に小さな船着き場がある。コンクリートの護岸のような作りだが、階段を降りて行くと短いプラットフォームのような場所に出る。待っているのは我々と年配の女性2人と尼さん風の女性だけ。行き先に違いがあるのだろうか、船が着いても誰も乗らない。
暫くして、我々が乗る船が着いた。出発時刻になったが、我々以外客はだれも乗らない。キングストン行きの船は出ていった。「貸し切り」でテムズ川を船旅することになった。
薄曇りとはいえ、時々、顔を出す太陽の強い日差しを避けるために、船べりから離れてキャンバスで覆われた席に移動する。小さな船だし、「貸し切り」状態なので、何処に座ろうとも「貸し切り」なのだ。
17世紀の名建築家クリストファー・レンが造ったハンプトンコートのゴシック宮殿がテムズからのぞめる。ハンプトン・コートは実に煙突の多い宮殿だ(下のパステル画)。チューダー朝の飾りとしての役割もあるから、ただの煙突ではないのだろう。しばらく、ハンプトン・コートの川岸に沿って船はテムズを下って行く。
すれ違う船もロングボートや豪華な観光船だったり、セールを上げたヨットだったりと、見ていて大変に楽しい(上の水彩画)。
この辺りでも、テムズ川は川幅が150メートル以上ある。下流に下って行くのだが、所々川幅がせばまって、行き交う船がすぐ近くまで寄ってくる。最近は日本でも建設省が、英国の真似をして、護岸をコンクリートで固めることは少なくなった。テムズ川は桟橋以外の岸辺は自然な景観を保っている。川沿いに、昔、馬で船を引いた後が遊歩道として残っていたり、ボートハウスや綺麗な庭をもった民家が点在し(上の水彩画)、川岸にあるレストランなどのテラスでお茶を飲んでいるご婦人方を眺めているだけで飽きることが無い。
午後の川風が心地よく吹き抜ける船旅は快適だった。途中で誰も乗ってこなかったので、「貸し切り」のままこの船は終着であるキングストン・アポン・テムズの町に着いた。10キロほどの短い船旅だったが、素晴らしい思い出になった。キングストンで老婆2人が船に乗ってきた。今度は彼女達の「貸し切り」船になった。
ミネソタの遠い日々
- New (「留学を終えて」を掲載) -
1970年に私たち夫婦・子供連れでミネソタ大学へ留学した記録のホームページにもどうぞ