サフォークの町々 - 017 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 リンカーンの大聖堂はパリのノートルダムのように正面に2つの塔をもった美しい聖堂で、一度は訪ねたい場所だが、チャールズには関心がない。チャールズの地元、サフォークに来たのだから、サフォークを歩くのが一番だと言う。ごもっともなお言葉である。サフォークらしさのあるルートを選び、最後はコンスタブル・カントリーへ行こうとチャールズが提案する。


 コンスタブルという画家の知名度は日本でどの程度のものだろうか。知名度はかなり低いと私は思う。フランスの印象派の画家は知っているが、コンスタブルなんて知らないという人達が殆どではないのか。イギリスの画家はと訊けば、帰ってくる画家の名前はターナーだけだろう。ラファエル前派などは、「オフィーリア」と題した絵は見たことがあるが、作者のミレイの名前が出てこない人達が多いに違いない。


 私がコンスタブル(ファエル前派もそうだが)を知ったのは東京に出て来て、早稲田大学の学生になった頃である。もう50年も前のことだが、ターナーを知っていても、コンスタブルは知らなかった。コンスタブルは風景画家だが、その画風は余りにもオーソドックスで古風に見える。しかし、イギリス人がイギリスの美しい風景を目の前にすると、「まるでコンスタブルの絵のようだ」と感嘆の言葉を発する。イギリス人には、それだけコンスタブルが身近な存在になっている。


遠い夏に想いを-five bell  今日も朝から空は晴れ上がり、夏の日差しがサフォークの森や村々に満ち溢れている。骨董店の横を右に曲がって(クレア町歩きⅡ-015の骨董店の写真参照)、A1092号線を東に進む。カヴェンディシュまで来た。丘の上に"Five Bell"という小さなレストランがある。薄いピンクの2階建ての茅葺きの建物が素晴らしい。

 
遠い夏に想いを-cavendish  家の前はなだらかな斜面で緑の芝生が広がっている。紅茶とパンだけの簡単な朝食だったので、お腹がすいていたが、早朝で店は閉まっていた。ここの前からは平野の彼方まで見渡せる。素晴らしい景色だ。ロング・メルフォードの町まで望める。


遠い夏に想いを-cavendish02


遠い夏に想いを-longmelford  ロング・メルフォードの教会が美しい。聖堂と呼ぶに相応しい堂々たる建物だが、聖堂ではない。クレア、ロング・メルフォード、ラヴェナムは羊毛の織物工業で栄えた町だ。これ等の土地は羊毛の飼育に適さなかったので、羊毛は周辺の他の地域から調達していたらしい。


遠い夏に想いを-pink house
 この地区では茅葺きの民家が美しい。"Five Bell"の道を挟んで左隣に、壁はピンクで茅葺きの古い民家が建っている。まるでいちごのヨーグルトかシャーベットのように美しい民家である。2階はすべて出窓になっていて、茅がお伽噺話の家のように屋根を覆い尽くしている。家はL字型に建てられていて、手前が三角形の芝生になっている。今年は残念ながら緑でなく黄色に変わっている。これが緑なら、青い空を背景に、緑の芝生の中に建つ伽噺話のピンクの家みたいに素晴らしいに違いない。


遠い夏に想いを-pinkhouse02  更に、東へ進むと、道路沿いの家では茅葺きの最中である。壁はまたもやピンクだ。家の形は普通の民家だが、屋根の勾配がかなりきつく、一階の窓すれすれまで茅が敷きつめられている。これは排水をよくする為の知恵なのだろうか。最近の日本では、白川郷以外は田舎へ行っても、茅葺きの民家は殆ど無いのが寂しい。日本では茅葺きの民家は消えてゆく運命にある。