イギリスの芝 - 009 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 ダリアガーデンを出て隣の「観葉植物庭園」と名づけられた三日月型の庭園に入ると、ぐっと視界が開けてくる。そこには美しい緑が広がっていた。レンガの塀が半円形状に続き、その周りには色とりどりの潅木や草木が植え込まれている。ベンチが2ケ所におかれ、アクセントになっている。憩うもよし、見るもよし。季節に合わせて色とりどりの花も植えられている。北国の芝生の美しさは何ともいえない心地よさがある。ここは幸運にも今年の夏のヒートに枯れずに美しい緑色を保っている。


遠い夏に想いを-三日月型庭園
 東京あたりに住んでいると、残念ながら芝生の美しさは分らない。本州以南の芝は余り美しくない。それより苔の方が種類も多い。苔が一面に植えられている庭の光景には感動する。まさに苔むす緑の美しさに圧倒される。学生時代によく一人で京都の寺社を歩き回った。


 ロンドンなどでは「スクエア」という芝生だけの小さな緑地帯が数多くある。私は芝の専門家ではないし、少々偏見はあるかも知れないが、アメリカやヨーロッパでの経験から、どうも、北緯45度以北でないと芝は美しくない。北緯45度というと日本では稚内くらいになるのだが、せめて札幌とか本州でも雪の積もる北の地域が限度だろう。ヨーロッパは暖流のせいで暖かく、北緯45度といえば相当南の感じになる。フランスのボルドーやイタリアのミラノなどがこの辺りか。


 イギリスは意外と北に位置しており、ロンドンなどは52度くらいに位置する。サハリンやシアトルと同じ位置である。東京はずっと南下してアフリカのアルジェと同じ緯度上にある。アメリカではミネソタに住んでいたが、内陸部だから冬は厳しい。セント・ポール(州都)は北緯45度で、小川の岸の残雪から垂れ落ちる雫が日の光に輝いているのを見ていると、春が近いと胸が膨らむ思いがする。そして雪の下から芝が現われ、一面にグリーンの絨毯に変わる。この光景は春が来たという喜びと同時に、何ともいえず美しかった。


 正月にシアトルに仕事で行ったが、飛行機の窓から見る眼下のゴルフ場の芝は青々と緑一色で、その中でゴルファーがプレーしていた。アメリカの西海岸は暖流のおかげでシアトルでも雪が積もらない。英国にはグリーンがつく地名が多い。グリーンだけでも緑地帯を表わす地名として使われている。ただ、残念ながら、一年中緑の芝生の広がる公園や緑地帯を持たない日本では、これをゴルフ場以外に植えようという発想を持たない。北海道の人達はゴルフ場のベント芝(寒冷地用)が美しいのをよく知っている。関東のゴルフ場では夏芝の高麗芝が主流だから5月の連休になっても芝はまだ黄色い。