ミラノへ - 092 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 ミラノに着いた。おばさん(と言っても多分我々よりも若いだろう)に別れを告げて、真っ直ぐバスの案内所へ行く。バスの出発まで20分以上ある。


 72年に泊まった駅裏のホテルを探してみたがどうしても判らない。ホテル名も住所も記憶にない。今回の旅でむかし泊まったホテルを発見できたのはヴェネツィアのセレニッシマだけだ。だが、このミラノのホテルには思い出があった。チェックインして部屋に行くと、小さなシャワー・ルーム(一メートル四方しがない広さ)が、お湯も水も出ず、工事途中であった。メイドを呼んで、訳を聞き何とかしてもらおうとするが、このメイド、英語が全然駄目でイタリア語もあやしい。一向に埒があかない。そのうち彼女の出身地がスイスのフランス語圏だと判り、今度はノッコの出番となってやっと意志の疎通ができて、部屋を取り替えてもらうことが出来た。


 当時ヨーロッパは英語よりもフランス語が結構通じたものだ。アテネでは空港が停電になり、手荷物が出てこない。電気で動く掲示板も役に立たずで、女性の係官に質問するが英語が分からないと言う。フランス語なら判るのだけれどと言うので、この時も奥様の出番となった。


 ところで、ホテルの名前は忘れたが、地下鉄が開通して以来、この辺りの様子が少し変わったのではないか。昔より少し静かになった感じ、と言うより、人は歩いているのだが活気が無い。むしろ、昔の商店街やホテルが追い出されて、オフィス街が出来つつあるせいだろうか。


遠い夏に想いを-カウンター  バスに乗って空港まで行く。カウンターでチェックインする時に座席の予約をする。
「残念ながら、2人並んでの席はありません。通路をはさんでなら取れます」
係員の女の子は言う。
「仕方がない、それでいいですよ」


 予約をして、旅の最初の日に買ったお土産の小さなハンドバッグの免税手続きをすませて、出発までの時間をつぶしに空港の中を歩き出した。