現地製作者からがお得 - 070 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 工房には彼しかいない。クレモナ式のヴァイオリン工法は全て自分で作り分業はしない。
「ところで、年間にどのくらい楽器を作るのですか」
「ヴァイオリンが6台くらい、チェロが2台くらい」
「93年はどのくらい作りましたか」
私のヴァイオリンが93年製なので聞いた。
「ちょっと調べてみましょう・・・、えーと、記録を見るとヴァイオリンが8台ですね。この年はすこし多く作りました」
「所で、ヴァイオリンはいくらですか」
「大体、5千ドルくらいです(現在、価格は1万5千ドルくらいする)」
送料その他経費を入れても、日本に着いたら60万円くらいだろう。60万円が仕入れ価格で、小売価格は倍近くになる。チェロも同じとすれば、気に入らなくても、日本で売れば決して損はないだろう。リスクと言えば円が安くなる事ぐらいだろう。今の経済状況からするとその可能性は高い。


 「日本に帰ってから返事をします。ファックスはありますか」
私は名刺に自宅のファックス番号を記して渡し、彼も名刺をくれた。
「わたしは年に2度ほどアメリカに行きます。アメリカのヴァイオリン制作の水準は非常に高いです。日本にも訪問しないかとの誘いはありますがなかなか行けません」
「インターネットを見ていると、結構アメリカのヴァイオリン制作情報が多いですね」
「今年は旅行が出来ません。2~3日中に2人目の子供が産まれるのです」
「それはおめでとうございます。写真を一緒に撮りましょう」
ファックスでの連絡を約して工房を辞した。


 「クレモナは駄目だったが、ミノツィに会えて、イタリアに来た目的の一つは達成されたね」
私はほっとして言う。
「一昨日の夕方は会えなくて、がっくりしてたもね」
ノッコが冷やかす。


 私達は大学を卒業してから35年間楽器から遠ざかっていた。経済成長期で忙しくて楽器を弾いている暇がない。ノッコがチェロの練習を再開してから、私も定年後のことを考えて再びヴァイオリンを弾き始めた。35年間のブランクは大きかったが、このとき購入したのがミノッツィのヴァイオリンだった。


遠い夏に想いを-チェロ

 後日談になるが、翌年の12月にDHLで注文した楽器が着いた。楽器はベニヤの梱包(写真右のボックス)で送られてきた。期待したとおりのいい楽器だった。新作の弦楽器は最低5年~10年は弾かないと、音は良くならない。長年自然乾燥した木材でも水分を含んでいて生きているので、ある程度水分が抜けるまで微妙な雑音があるからだ。

 ミネソタの遠い日々 - New (シカゴへの旅パート2を追加) -
1970年に私たち夫婦・子供連れでミネソタ大学へ留学した記録のホームページにもどうぞ