夕暮れのヴェネツィア - 042 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 まだ早いが、帰り道の途中のリストランテで夕食をとる。かなり広い店でテラスがあり、まだ客は2組しかいない。北欧の若い男の子が4人、入るか入らないか迷っている。結局、隣の席に陣取ったが、ウエイターの対応が悪い。メニューを持って来たまま、何時まで待っても全く注文を取りにこない。4人は痺れを切らして立ち去ってしまった。残念ながら、食事は記憶に残るほど美味しくなかった。時間が早いので、一度ホテルに戻る事にする。


遠い夏に想いを-オーケストラ  戻る途中に、ガラス細工屋があった。小さなオーケストラの演奏者をガラスで作る。ノッコが前から欲しがっていたものだ。店に入ると、イタリア人にしては大柄な男が出てきた。愛想はすこぶる良い。話によると、この店の工房で作っているとのこと。なにやら写真帖みたいなものを拡げて指し示す。
「この女性、知っているかね」

「ああ、知ってるよ」
そこには、日本で有名なピアニストが写っている。そして、彼女の本名(H.Fukuda)で差し出された簡単な手紙を見せてくれた。手紙には製品の出来具合を褒めている。そんなこんなでオーケストラの楽士一式を買うことになった。


遠い夏に想いを-フォルモーサ教会  さて、音楽会だ。会場の教会は既に場所を確認していたから、急ぐことはなかったが、時間があるので早目に出かけることにした。ところがどう勘違いしたのか、迷子になってしまった。歩けば歩くほど遠のいているみたいだ。夕暮れの景色が昼間のとは異なっているせいだろうか。リオ・デイ・サン・ロレンツオ運河に出てしまった。全く反対だ。地図を見ると西へ戻ればいいのだが、直線道路はないから、一度か二度角を曲がると判らなくなる。そのうち、土地感も無いのに、勘に頼ろうとして罠にはまる。


遠い夏に想いを-Don't look now  ダフネ・デュ・モ-リアというミステリー・ロマンを得意とする英国の作家がいた。私の大好きな作家の一人だが、彼女の代表作の「レベッカ」はローレンス・オリビエとジョン・フォンテーンで映画化されたので、年配の人は知っているかもしれない。そんな彼女に『Don't Look Now』(『赤い影』とい題名で映画化された)という短編小説がある。娘を亡くして、夫婦でヴェネツィアにやってくるのだが、その中で、一度歩いた道なのに、夜にはどうしても迷子になり、同じところをぐるぐると回って歩く話がある。ヴェネツィアでは一度歩き出したら、間違っていても、先へ先へと進んでしまう衝動に駆られる。益々分らなくなる。この時は行きも帰りもこの小説のごとく訳が分らなくなってしまった。


 とにかく、教会には2倍以上の時間をかけて、開演10分前に着いた。まだ、80%くらいの入りである。後ろから3列目くらいにやっと座れた。開演頃には補助席がどんどん出されて超満員になった。今日の曲目はヴィヴァルディが中心で最後はバッハのコンチェルトで終わる。

 ミネソタの遠い日々 - New(シカゴへの旅を追加) -
1970年に私たち夫婦・子供連れでミネソタ大学へ留学した記録のホームページにもどうぞ