演奏会の会場を確認し、安心して外へ出る。広場の西端にカフェがある。客は誰も居ない。体格のいいおやじがカウンターで所在なさそうにしている。テラスというにはお粗末で、白い椅子とテーブルが数脚乱雑に置かれているだけだ。空模様が幾分よくなり、ところどころ薄日が差してくる。サンドイッチとカプチーノ。少々不味い昼食だが、しゃにむに胃袋に押し込んだ。
リアルト界隈に出た。ヴェネツィアの干潟のなかでもこのリアルト地区は土地の高いところで、地盤がよく、昔から繁栄した場所だったらしい。橋の上には小さな店屋が軒を連ねる。フィレンツェのポンテ・ヴェッキオみたいだ。うんと昔はパリでもロンドンでも橋の上に民家があるのは普通だったようだ。
魚や野菜の市場にも行ってみる。もう朝の市場が終わろうとしていた。橋のたもとにきて、ノッコが振り返った。
「あそこの小さな屋台覚えている?」
「ええ?」
「あそこで、昔、エンジェルフィッシュのガラスの置物を買ったわ。まだ家の飾り棚にあるでしょう」
「親の代から引き継いだのかな。パリのセーヌの川岸の屋台みたいに」
リアルト橋を戻り広場に出る。正面にカフェが有り、アイスクリームを食べに入る。ここでカメラを床に落としてしまった。蓋が開き、直ぐ閉じたのだが、シャッターの巻き上げなど肝心なところが作動しない。旅行が始まったばかりで、カメラが駄目になると大変だ。とにかくデジタルカメラのない時代だから、フィルムが巻き取れないと大変だ。カメラ屋をさがして使い捨てのカメラ(コダックのがあった)を買う。
それよりもホテルに戻って、フィルムを入れ替えないと。ホテルに戻る途中、通りの奥に小さな楽譜店をノッコが発見した。例によって3時30分までは『昼寝の時間』で閉まっている。時間はあるので、一度、ホテルに帰って黒い小さなバッグにカメラと手を突っ込んで手動でフィルムを巻きもどす。新しいフィルムを入れ換えると作動し始めた。蓋が開いたので、リアルト方面で撮ったフィルムが駄目になっているかもしれない。
もう一度、リアルト方面に写真だけを撮りに戻る。露天でスイカの切り売りをしている。買ってほおばる。余り冷えていないが、暑いので美味しい。帰りには楽譜店が開いていた。リコルディ版のヴィヴァルディの楽譜を買う。リコルディ版の楽譜は正確で間違いのないことで有名で、その昔、名指揮者トスカニーニがオーケストラの練習中にリコルディのパート譜に間違いを発見し「ブラボー、リコルディに間違いがあったぞ」と叫んだという逸話が残っている。しかし楽譜の総数では東京のヤマハの方が遥かに多いのだが、バロックの楽譜が豊富なのと、小さな店でCDも扱っているので結構役に立ちそうな店だ。
ミネソタの遠い日々
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