サン・ジョルジョ島 - 037 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 ホテル近くのカフェでカプチーノとクロワッサンの朝食をとる。間口の狭いうなぎの寝床のような薄暗い店だ。客はいなく、味もそこそこだ。


遠い夏に想いを-san giorgio01  今日はサン・マルコの向かいのサン・ジョルジョ島に行き、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会を訪れるつもりだ。


 サン・マルコ広場の一番東寄りの発着所から船が出る。目と鼻の先だから直ぐに着く。だが、教会が開く時間を調べてこなった。9時30分からと扉に記してある。開くまで30分以上は待たねばならない。島にはサン・ジョルジョ教会以外に入れる場所がない。海沿いに島の奥まで行き、教会裏の殺風景な庭園に入って時間を潰す。朝日を浴びて、潮風にあたるのは大変に心地よい。


遠い夏に想いを-san giorgio02  サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会は16世紀にパッラディオの設計に基づいて建築が始められた。パッラディオ様式と呼ばれるコリント様式の高い柱をもった建物である。軽やかなヴェネツィア建築を見慣れていると、このパッラディオの建物は見るものを圧倒する。パッラディオの建築はヴェネツィアの近くのヴィチェンツィアという街に多く残っているが、彼の様式は当時のヨーロッパの国々にも影響を与えている。聖堂の中は明るく、装飾のない内部は整然として、清々しい気持ちになる。


 扉が開く頃には、10人ほどの観光客が集まった。日本人の観光客は中年の夫婦、年配の3人組みと私達。ここの塔にはエレベーターで登る。エレベーターの操作はお坊さんがやる。お坊さんのエレベターも初めてだが、エレベーターが小さく、観光用には出来ていないので少人数で昇り降りする。最後は私達だけ。他の連中は先に昇ってしまった。私は高所恐怖症なので、高いところが苦手だ。だが、ここへ来てしまったら、塔に登らないわけにはいかない。


遠い夏に想いを-san marco  ここの塔は18世紀末に再建されたらしいが、頂上からの眺望はすばらしい。空は少し霞んで、ヴェネツィアの上に広がっている。右手にはリドが、正面にはサン・マルコ広場、その向こうにはムラノや墓地の島まで一望できる。西手すぐにはジュデック島が手に取るように望める。リドには昔立ち寄ったことがあるが、ヴェネツィアには珍しい砂浜があり、海水浴客で賑わっていた記憶がある。眼下にはサン・ジョルジョ教会の回廊と芝生の緑が美しい。


 1階に降りると、奥にティントレットの『最後の晩餐』(1592)がある。ティントレットにはサント・ステファノ教会とサン・ポロ教会にも『最後の晩餐』(1570年)があるが、サン・ジョルジョ教会の方は彼の晩年の作で、方向は逆だが、やはり斜めからのアングルで描いている。


 観光客夫婦の奥さんがカメラのシャッターを押してくださいとカメラを突き出す。今度はお返しに撮ってあげるという。大抵、こうゆう時は切り出すのがどうゆう訳か女性の方だ。帰りはまた船に乗りサン・マルコへ戻った。