外国語教育に思うこと - 035 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 旅行記とは関係ないのだが、ヴェネツィアのカメリエリの話が出たついでに、外国語の習得と活用について考えを述べてみようと思う。


 日本の語学教育は相変わらず花盛りだ。だが、覚える必要の無い者、本気で覚える気もない者、必要がないのに覚えておけば何かと格好がいいと思う者、周りがそうゆう雰囲気だから、などなど・・・漠然とした動機を持つ者が多い。


 このヴェネツィアのカメリエリ君のように、日常的に使う必要があれば英語は覚えられる。日常的に必要性がないのに、覚えられるわけがない。英語やフランス語の会話は知識ではない。次元が違うが、子供が海外にいて言葉を聞き、そして喋りだすのを想像すればいい。その子供が帰国して日本語しか使わなければ、3ヶ月もしない内にすっかり忘れてしまう。


 テレビなどでもよく見かけるが、東南アジアやアフリカの庶民が上手に英語でコミュニケーションをとっている。イギリスの植民地だった経緯もあるだろうが、それだけではないと思う。また、テレビでも時々紹介されるが、外国人が1年くらいの勉強で、日本にも来たことがないのに、日常会話で日本語を聞いたり、話したりしているの見て驚いてしまう。


 日本語は子音も母音も世界一単純だから、外国人にとって日本語は覚え易い。問題は漢字だけだ。とにかく漢字は音読みや訓読みがあり、日本人が考える以上に大変だと思う。そのうえ同音異義語がやたらと多い。


 外国人に「何年英語をやっていますか」って訊かれて、「中学・高校で6年間です」と答えると、「6年間も!」とみな一様に驚く。発音が単純な日本語を話しているから、複雑な音を含む外国語が聞けない。コミュニケーションだから、聞けないと、喋れない。英会話に必要なのは中学校の英語のテキストで充分。だから「英語が喋れますか」ではなく「英語会話が出来ますか」と訊くべきだ。


 ラジオやテレビの会話番組を熱心に聴いて、外国語を使えるようになった者を多く知っている。録音して何度も聞くことだ。具体的な目的と意思があれば何とかなる。そして実際に外人と会話してみるのだ。


 私はある外資系の企業に勤めていた。退職の1年半ほど前に、英語教育部門の責任者をやった。専任講師はカナダ人とアメリカ人の2人だった。派遣社員扱いでオフィスに毎日いてもらった。外資系の会社だが、外資系他社比べて駐在する外人は極端にすくない。その代わり、アメリカの本社から担当者が事業部ごとにやって来る。毎日オフィスのどこかに20人以上滞在している。どうしても英語が必要になる。


 私は最初希望する全ての社員に英語教育の機会を与えたが、結果は余り効果が上がらない。TOEICのテストも定期的に実施し、点数が少しばかり上がっても、実際には役に立たない。本当に覚えたいという社員には補助金をだして外部の英会話学校に通わせることにした。やはり身銭を切って習わないと駄目のようだ。


 会社の必要とする者が英語を充分に使えるようにするため、外資系特有の英語のプレゼンテーション方法とか特殊なフレーズなどを教えさせた。最低限のトレーニング方法だ。この方が効率がいいし、会社の要望にも答えられる。しかし、これではプレゼンテーションには役立つが、外人を交えたフリー・ディスカッションでは役にたたない。聞いて話せる「使える英語」でないと駄目だからだ。