ストラディヴァリ - 018 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

遠い夏に想いを-ストゥラッド博物館03  ストラディヴァリ博物館が開いていた。世界中で残っているストラディヴァリは400丁くらいと言われている。ストラディヴァリは93歳まで生きた。ヴァイオリンは手工業作品だから分業はしない。一人で全部作る伝統は今でも受け継がれている。


 一説には物凄い数のヴァイオリンを残したといわれているが、製作台数はヴァイオリンだけで年間10丁から12丁、チェロ、ヴィオラ、その他を合せて、14丁から多くても15丁が限度だろう。二人の息子のフランチェスコとオモボノが作った楽器に『アントニウス・ストラディヴァリウス』のラベルを張って(あってはならない事だが)売ったとしも余りに多い。製作者だった息子の名前がついた楽器というのは極めて少ないからだ。アマティの工房から20歳くらいで独立し、70年間で1,100丁というのが私の単純計算だ。それでも、一人で作るのは大変だ。現在400丁残っているということは、ストラディヴァリが活躍した時代から300年経って40%が残った事になる。


 ストラディヴァリのチェロは60丁ほど残っているらしいが、評価はヴァイオリンほどは高くない。カザルスが自分の音色に合わないとストラディヴァリを使わなかったと言われるが、それでも柔らかいヴィロードのような素晴らしい音に魅了される。チェロにはラージサイズと呼ばれる形と、現在使われている標準サイズがあり、ストラディヴァリも18世紀頃まではラージサイズのチェロを作っていたらしい。


遠い夏に想いを-ロンベルグ  ベートーヴェンとも親交のあったチェリストでロンベルグ(右の銅版画)という人がいた。ベートーヴェンが彼に「協奏曲を書いてやろう」と言ったのに、「自分で書くからいらないよ」と断ってしまい、ベートーヴェンにはチェロ協奏曲は残っていない。そのため後世のチェリストがしきりと悔しがる。彼の教則本には、図解と共にチェロの縮少方法が載っている。今では考えられないことだが、3~4センチも小さくするのである。古いチェロは殆どサイズを縮少され、元のサイズで現在残っているのは骨董品として保存されていたものだけらしい。


 ヴィラも作ったのだが、現在残っているのは13丁だけと伝えられている。ヴィオラもサイズが大小あって、日本で一般に使われているヴィオラのようにヴァイオリンと識別できないくらい小型のものから、大きな外国人男性がヨイショと持ち上げるくらい大きなものがある。


 木が音の振動ともに自然に乾燥される時間が必要になる。現在の名工達が作るヴァイオリンも音が輝くまで最低150年は待たなければならないとすると、気が遠くなるような話しである。


 古いヴァイオリンも当時の姿を留めているものは少ない。現在の演奏環境に合せて、指板を長くしたり、駒を高くしたり、力木などで内部を補強したりして、大きな音が出るように改造されてしまっているからだ。バロック音楽ではもう未改造の古楽器が数少なくなっている。ストラディヴァリ博物館にはヴァイオリンの古い制作行程を示した図が有るが、ここには示されていない技が有ったのだと思う。どうして「ストラディヴァリ」がこんなに素晴らしいのかは、いまだに謎だから。