近年発見された「ユダの福音書」(日経ナショナル・ジオグラフィック版)を読むと、新約聖書とは全く趣を異にしている。ユダは弟子の中で最も知性があり、イエスに最も信頼され、寵愛されていたらしい。
「ユダの福音書」はエジプトのナイル川上流で発見された。福音書が最初にできたのは西暦150年ころで、現在認められている4つの福音書よりも古い。ローマカトリックから異端の書として排斥されてきた福音書で、グノーシス派の人達が信仰していたらしい。
彼らの主張によれば、救済とはイエスの復活を信じることでなく、イエスが弟子たちに授けた秘密の知識を得ることであるという。仏教徒の日本人にとっては、こちらの主張の方が説得力があるように思える。
従って、後世の選者が福音書の記述を選ぶときに、自分たちに都合のいいように取捨選択し、彼を悪人に仕立てるべく手を加えたとしか思えない。
ダヴィンチはユダも含め整然とテーブルの向う側にこちらを向いて座らせ、キリストは中央で、まさにシンメトリクな遠近構成にしている。壁画の中の建物の遠近法は食堂の現実の遠近感と一致するように描かれている。
普段、こんな形で食事をすることは考えられないのだが、そこは舞台装置と演出に素晴らしい才能をみせたダヴィンチだ。12人の使徒の驚きの表情がさまざまで、補修により色も鮮やかに蘇っているという。これは普通のフレスコ画ではなく、テンペラと油絵具で描かれているので本当に痛みが激しい。洗い落として随分奇麗になったのだが、72年に来ていたら、もっと獏としたイメージだったであろう。