飛行機はアルプスの白い山々を眼下に見下ろしながら飛ぶ。ロンドンでのチャールズと過ごした数日間、足を棒にして歩き回ったパリの街などを、飛行機の窓の外に広がる白雪の景色を眺めながら思い出していた。
数日間ではパリは廻り切れない。行きたい処がたくさんあった。ヴァンセンヌの森も、ブーローニュの森も、モンマルトルも、サン・マルタン運河やマレ地区、それにクリニャンクールの「ノミの市」など。数えれば切りがないが、72年当時、チャオと二人っきりでノッコが学校へ行っている昼間はパリの街を歩く以外やることがなかった。
フィレンツェは空港が小さく、ジェット機の離着陸が不可能なのでフッカー型の高翼式のプロペラ機だ。小型機で高度が低いからフィレンツェの街並みが手に取るように見える。やがて、飛行機はペレートラ空港に定刻に到着した。まだ、太陽は高く、乾ききった古都の上にさんさんと輝いていた。
イタリアの旅については次回の『イタリア編』で書こうと思うので、今回の帰途の土壇場で起こった顛末については書いておこうと思う。
『初め良ければ、終わり良し』とか『終わり良ければ、全て良し』のことわざを信じていたのだが、ことわざには必ず反対の文句があって『竜頭蛇尾に終わる』などと言うのもある。今回は『初め良ければ、終わり良し』とはならなかった。
フィレンツェの空港は小さいから、小型機しか離着陸が出来ない。そこで近距離のミュンヘンに一度行き、そこで、エア・ヨーロッパに乗り替えてロンドンに飛び、東京行きの全日空に乗る予定だった。(写真右はミュンヘン国際空港)
ミュンヘンには予定通りに到着した。夏の観光シーズンのヨーロパでは、飛行機が遅れることがしばしばだと、ロンドンに駐在していた友人から聞いていた。乗り換えに3時間とってあったのだが、刻々と時間が過ぎて行く。空港待合室の客は皆いらいらしている。その間エア・ヨーロッパの女性担当者は、何を訊かれても判らないの一点張りだ。飛行機がミュンヘンに到着し、折り返しロンドンに向けて飛び立ったのは3時間以上も遅れていた。