ワインの選び方 - 091 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 夕方になり、ポールの家に行く時間が来た。今回は迷わず到着。室内はかなり整理されていた。今日はジュディが腕を振るってディナーの準備が完了していた。ポールがワインの赤を1本持って来た。カロリーヌも一緒だ。カロリーヌは学校で日本語を習っているとジュディが言うが、彼女ははにかみやで、日本語で喋ろうとしない。今日は鶏肉が主采でなかなかおいしい。ワインも高級ではないが、程よくタンニンがあり、ブーケの香りがして、味はいい。


 前にも書いた通り、私は40年以上も前からワインを飲んでいる(と言っても、酒飲みでないのでチビリチビリやるだけ)。ワインも100本近く半地下の部屋に貯蔵している。ワインの製造方法とか産地なども本で読んだだけだから、いたって門外漢というか、ワインの実際の知識はまるでなかった。イギリス人の友達から「ボルドーが多いようだが、ブルゴーニュの方が良し悪しを見分けるのが易しいよ、なにせブルゴーニュはピノ・ノワールしか使っていないから」と言われても、懐と相談しながらボルドーのグラン・クリュの5級クラスに手が出てしまう。


 「まず、産地だね。AOCかどうか。AOCでなくともいい酒はあるが、これは難しいだろう。それから、ネゴシアン。特に、ブルゴーニュ産のワインはネゴシアンで選ぶのが安全だ」
昔はホテル・コンデで両親を手伝っていたポールが忠告する。
「ネゴシアンは数も多いし、難しいよね」
「難しいが、旨いと思ったらネゴシアンを覚えておくことさ」
「ビンテージは」
「ビンテージは大切だ。古ければ古いほど高いとは限らない。7年前のワインより、3年前の同じワインの方が高いこともある。だから、地域ごとの良い年・悪い年を覚えておくといい。我々には過去10年くらいのビンテージの善し悪しを覚えておけば充分だし、そう難しくないよね」


 食事のときに水を飲むのはカエルとアメリカ人などと揶揄された時代もあったほどフランスの飲料水はひどかった。今は高級なカルフォルニア・ワインがフランスものを凌駕するというが、ヨーロッパに来たらワインのことを少しは勉強して置かないとだめかも知れない、と思ってしまうのだ。


遠い夏に想いを-屋上  やはり、家庭料理はいい。充分満足して、お別れすることにした。帰る前に、ここのアパートの屋上へ昇ってみようということになり、ポールとジュディと4人でエレベーターに乗り30階にある展望台に行った。


遠い夏に想いを-夜景  眼下に広がるパリの夜景は息を呑むばかりだ。左手にエッフェル塔が、正面にシャンゼリゼが光々と輝いている。私は高所恐怖症なのだが、昔よりはマシになったとはいえ、手すりに近づくのは恐いので、一歩下がっての展望となった。


 その後、2006年になって、彼らはフランスの西の地域に引越していった。パリには娘たちがいるので時々出てくるらしいが、田舎の小さな町で気候も良く、のんびりと元気に暮らしていると手紙があった。


 胃袋にはワインが入って、酔いと疲れが一度に襲って来た。地下鉄の中でも居眠りをしないように目をパチパチしながら、やっとの思いでホテルへ戻った。ノッコは普段余り飲まないが、アルコールに強いのでこうゆう時ははなはだ頼りになる。