サンジェルマン大通りからオデオンを抜けてサン・ミシェル橋を渡り、シテ島のサント・シャペルに向かう。ここは『拝観料』が結構高い。ヨーロッパでは名所旧跡が殆ど無料で、入場料をとってもほんの小銭程度なのだが、ここはロンドンのロンドン塔やタワーブリッジ並みに高い。財布の紐が固いアメリカの観光客は大勢の家族で来ると入り口で迷った挙げ句、諦めて帰ってしまう。しかし、ロンドンと同じように、我々は思い出を探しに来たのだから、高くとも諦めて帰る訳にいかない。
堂内に入ると暗闇で一瞬何も見えなくなる。
「あの自己陶酔タイプの説明ガイドはいないのね」
ノッコが言った意味は直ぐに分かった。
今日は姿が見えなかったが(たまたま居なかったのかも知れない)、ここには大声を張り上げて曰く因縁を説明する係員がいた。きちんと制服を着て、赤帽のような帽子を被っていた。当時、2,3人は居たように思う。共通しているのはずんぐりと身長が低く、がっちりとした体格で声だけは大きかった。とにかくここへ入ると全員首が痛くなるほど上を見上げる。1階から2階へ移動する時以外は四六時中上を見ている。
当時、これらの男達はとうとうと喋りつづけていた。
「なんだか自分の言葉に陶酔しているみたいね」
さすがのノッコもあきれる。チャオが傍で囁く。
「パパ、パパ、あのひと写真とているよ」
「うるさい!黙れ!」
突然、傍で説明しているおやじが自己陶酔を邪魔されて腹を立てたように怒鳴る。子供だから黙って見ていろといっても無理だ。大はしゃぎで走り回っている訳はないし、普通に喋る声が少し大きいだけだ。「うるさいのはどっちだ」自分だけ大声で喋って耳障りだぞと思っても教会のなか。要するに子供はひそひそ話が出来ないのだ。何度も子供を怒鳴られ、いささか頭にきたが、ここは聖堂の中、けんかをしても大人げないので、とにかく彼等には近寄らないことで切り抜けた。
同じ有料でもロンドン塔は一度で十分だが、ここは何度来ても飽きない。裁判所の中に、これだけ美しい教会が存在すること自体不思議である。13世紀に創建されたといっても、現在のは19世紀に修復されたものだ。ステンドグラスの大半が13世紀当時のものを使っているという。太陽の光を通して見る赤と藍の輝きはなんとも美しい。まさに、この世のものとも思えないとは、このことを指すのではないかとさえ思えてくる。
ミネソタの遠い日々
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