英語しか喋れないのは誰だ - 078 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

「ところで、局外者の立場になるかも知れないが、今回のイラクの問題について、ヴィオの意見は?」
フィリップが訊いてきた。


「この問題はアラブの関係国に任せるべきだ。そして欧米は充分に注視し、国連の決議に任せるべきだ。アメリカは国内のユダヤ人に押されてイスラルに武器や金を注ぎ込んだ。数次に及ぶ中東戦争を戦ってもイスラエルはどうにもならない。かってのイギリスの三枚舌外交が中東問題の遠因と思うけど」


私は更に続けた。
「世界の警察官を自認しているアメリカがベトナムで何をやったのか。アメリカは同じ間違いをいまだに世界中でやって、ヨーロッパが応援する。アメリカ市民のベトナム反戦運動も半端じゃなかった。だからアメリカ国民には敬意を表するよ」


「しかし、日本だって我々と行動を共にしなければ、我々が自由世界から日本を放り出すだけだ」
ジョンが割り込んだ。


「ジョン、やっと、本音が出たね。その通りだろう。しかし、フィリップ、フランスだって、西洋の一員でありながら、アメリカのいう事やる事全てに、常に、ウイ、とは言わなかっただろう?」
フィリップがコクリと頷いた。


「ドゴールしかり。大戦中は米英に散々世話になって、その後、あの気の強さだった。アメリカにも国益が優先するように、フランスにも国益があり、日本にも国益はある。理念と戦略の問題だ。というより、日本には理念も戦略もないのだ。だだ、ジョン、君がいう通り、日本の政治家はどうにもならない。何を考えているのか分からないのだよ。大体、日本には政治に『理念』とか『ヴィション』といったものが存在しないのだから、欧米には理解不能だろう」


 フランス、イタリア、アメリカ、日本。4か国から8人集まって、フランス語が喋れないのは私だけ。片言のフランス語が喋れても、この際何の役にも立たない。タルティーニ夫妻は勿論のこと、外国語が下手な筈のアメリカ人のジョンでさえ流暢なフランス語を喋る。ノッコは勿論フランス語に問題なし。私一人のために今夜の会話が全て英語とあいなった。はなはだ、申し訳ない。ということは、私以外、英語とフランス語が出来たことになる。情けない。


 これからの国際社会を生きて行こうとするには、母国語以外で2か国語ぐらいは喋れなければ落第だ。外国語が出来るというのは「かっこいい」とかでなくて、異なる国の人たちと、いろいろな面でコミュニケーションが出来て、理解しあえることだ。