イスラム世界とヨーロッパ - 076 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 ヨーロッパと中東・東地中海沿岸諸国との関わり合いは数千年に及ぶ抗争と戦いの歴史だ。ギリシャとペルシャ、ローマとエジプトやユダヤ。イスラム教が興ってからでもヨーロッパ十字軍とイスラム、スペインとイスラム、トルコとビザンチン帝国。文化的にもヨーロッパ・ルネッサンスはイスラム世界のアレキサンドリアに温存されていたヘレニズム文化を12世紀にスペインのコルドバから学び取ったことを抜きには考えられない。宗教的にもユダヤ教もイスラム教もキリスト教も根は全く同じで、全てアブラハムを祖としている。同じ論理と合理性を共有する砂漠の宗教の民なのだ。


 そして、その関係は現在でも少しも変わっていない。唯一変わったのは何か。それは力関係だ。また、極論すれば、ヨーロッパ人やイスラム教徒にとって、ヨーロッパと中東・北アフリカが『世界』である。だから、極端な話、日本人にとっては「勝手にやってくれ」と放って置きたい気持ちになる。2千5百年にわたる彼等のゲームなのだ。


 彼等の『世界』以外の国々、例えば、アメリカは成金で金と武力と技術があり、ヨーロッパや中東に覇権や権益を主張するから、ドゴールのような男は手におえない。アメリカはヨーロッパをうまいこと利用しようとする。日本は金だけはある新興成金だから、自由世界で成金を続けたけりゃ金を出せ。どうせ武力は出さないのだし、昔のユダヤ人と同じで金くらい出して当たり前。このゲームでオレ達アメリカやヨーロッパを応援しないのなら、成金ではいられなくなるぞ、と脅している訳だ。


 だから、彼等の『世界』での抗争は力関係が最大のキーであって、国際政治倫理など全く存在しない。どちらの側も信じているのは唯一つ『力は正義なり』であり、アメリカも全く同じヘレニズム的思想を奉信している。アメリカは建国以来その思想を堅持している。20世紀はこのアメリカの戦略がアメリカに利益をもたらした。まさにパックス・アメリカーナである。アメリカはキリスト教世界で一番信心深い国だ。大学生の9割以上が神様を信じると答えるそうだ。戦後の『平和憲法』の下で育った日本人の感覚では全く理解が出来ないだろう。


 さて、話が脱線してしまった。夕食の後の話に戻さなければ。食卓を囲んでいる者達の中で最も過激なのがタルティーニ教授、次が、アメリカの若者ジョン。フィリップは判断に思慮深さを示す。私の立場は野球場の観客みたいなものだ。彼等の関心は私がファースト側に座るかサード側に座るかだけだ。