サン・マロは第2次世界大戦で壊滅的に爆撃破壊されてしまったが、戦後完璧に修復復興した街だ。古いものを求めての旅なら、失望するに違いないだろうが、金持ちの保養地区としてできた町だから、箱根にでも行くような気分で訪れたらこれほど楽しい所もないに違いない。ブルターニュやノルマディーの海岸は夏でも冷たくて海水浴は向かないと案内書にあるが、サン・マロには水着を持参せよとある。保養所がたくさんあるからだろう。但し、充分なお金があればだが。
城壁に囲まれたディナンの町には、橋を渡って、暫くのぼり、門をくぐって入る。これが旅の楽しみだ。パック旅行では時間の節約の為に、往々にして、この期待に胸弾む部分を省略してしまう。
北東側のプチ・フォール通りを登って、途中、メゾン・ドュ・グヴェルヌール(長官の家)を覗いてみる。ガラーンとしているが、当時の古い面影は十分に伝わる。更にその先を登る。坂道の両側には細工師やら陶器やらの古い店に混じって、小さな画廊やら飾り物屋などの新しい店が並ぶ。ノルマン式の石の城門をくぐって町に入る。
城門を抜けるとと、そこは高台で、突然視界が開ける。色々な店屋や宿屋が周囲を取り巻く。この辺りは旧市街なので、石畳の路は凸凹がきつく、歩くのに疲れるが、古い町の雰囲気にマッチして情緒がある。前方正面には『時計塔』の素朴で古風な尖塔が鉛色の空に聳えている。15世紀末に建てられたこの建物はこの町の象徴的モニュメントだ。
観光地だからカフェやビストロなどたくさんあるが、時間がなく、駆け足の旅だから、ひたすら歩いた。ディナンはフランスの文化省から「芸術・歴史都市」に指定されているという。町の起源は9世紀に遡るらしい。最初、カトリックの修行僧が住み着いて、木製の砦を造ったのが始まりらしい。12世紀に建築が始められたサン・ソヴェール教会やサン・マロ教会など古い教会がり、町の家々も木組みの古い造りで見るところが多い。
何人かの画家が町角に陣取って、町の景色や風物を描いている。モンマルトルのテアトル広場の画家達と同じ嗜好だ。描いた絵を路上に並べて売る。これが彼らの商売だ。ところが、たいした出来でもないのに、値段だけはやたらと高い。フィリップも覗き込んでいたが、少々あきれ顔で、何も言わず行ってしまう。所詮、観光地なのだから、この程度はご愛嬌であろう。
(写真上はプチ・フォ-ル通り、写真中は市内と時計塔、写真下はサン・ソヴェール教会と辻画家)