レンヌ - 064 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 10分ほど待っただろうか、長めの髪にダボダボのズボンをはいた中年男が少し猫背の背中を更に屈めてこちらにやって来る。東京で会って以来だから、顔をあわせるのも5年振りだ。ミネソタにいた頃よりはかなり太めになった。頭は白くなり中年肥りだが、貫禄がついていかにも大学の教授の風貌になった。
「やー、久し振りだ。待たして悪かった」


 この男は昔から余り感動的な素振りを示さない。ミネソタ大学で農業経済の大学院に通っていた頃は、このクールさとフランス男というだけで、アメリカ女には結構もてたものだ。


「少し待ってくれ」
駅前に立ったままフィリップが言う。話が少々ややっこしい。
「モニックが娘を幼稚園から連れて来る。タルティーニが子供達と一緒に駅まで来て、ここで娘をタルティーニに渡したら、それからモニックと君達の4人で出掛よう」
よく解らないが、詮索したところで無意味だ。時間の無駄だが待つしかない。


遠い夏に想いを-サン・ピエール  やがてモニックがやって来て、タルティー二も子供達と車でやって来て、私達4人が車に乗って出掛けることになった。


 『レンヌは18世紀の大火のために見るところが少ない』と、どの旅行案内も判で押したように同じ記述だ。
「新市内は見る所がないから旧市内へ行こう」
フィリップも同じことを言う。

 しかし、レンヌの新しい街が造られた18世紀は270年も前の事だ。パリだって現在の姿になってから100年しか経っていない。ロンドンだって多くの建築物は19世紀後半のビクトリア朝時代に建てられたものだ。



遠い夏に想いを-古い家  旧市街に入り、サン・ピエール大聖堂(上の写真)を見上げながら通りを進む。フィリップによると、この聖堂は6世紀の建立で3度建て直されたのだと言う。いかにも重々しい荘厳な教会だ。更に、第二次世界大戦でレンヌの街は大きな被害を受け、多くの犠牲者が出たらしい。


 1720年の暮れも押迫った頃、酔払いの大工の不始末から火は燃え広がり、今の旧市街を残して、街の大半を焼き尽くした。それまでの家々は殆どが14、5世紀頃に建てられた木組造りであった。

 ヨーロッパにはドイツでもフランスでもイギリスでも木組造りの古い家が多く残っている。ドイツのロマンシック街道沿いの町々には個性的な木組みの家々が目を楽しませてくれる。アルザス地方にもドイツの町とは違った素晴らしい木組みの町並みがある。これらの町並みは町のアイデンティティとして大切に保存されている。