TGV - 062 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 文化的にコンティニュティーのあるヨーロッパといえども、戦後の都市再開発は大変だったと思う。特に50年とか、100年とかの長期計画は長すぎる。昔の100年の変化は今では10年も掛からない。その上、現代は確立された様式が存在しない。だからあらゆる建造物は建てた瞬間にその価値を失ってしまう。モンパルナス駅とモンパルナス・タワーも同じ運命をたどるだろう。

遠い夏に想いを-TGV  モンパルナス駅を上階へと昇って行く。TGVの発着ホームは東京駅の新幹線ホームと同じで上階にある。列車はホームに入っていた。ダーク・グレーの車体はまるでシトロエンの車を連想させて、いかにもフランス的だ。車内は意外と狭く、日本の新幹線に乗り馴れている我々には少々窮屈に感じる。軌道幅は日本の新幹線と同じだが、車幅は新幹線よりも30%くらい狭い。だが、車内のすっきりと洒落たデザインはさすがである。日本の新幹線車両は非常に画一的で乗客よりも駅側の作業性を重視したデサインだと思わざるを得ない。


 TGVは走り出すと大変に乗り心地がいい。パリの市街地を抜けるまではゆっくり走るが、その後はスピードもJRの新幹線以上だから申し分ない。レンヌまで約2時間の旅だ。途中の停車駅は例の24時間自動車レースで有名なルマンとラバルの2駅だけ。列車によってはパリ~レンヌ・ノンストップ便もある。終着駅はブレスト。


遠い夏に想いを-プレヴェール  ブレスト、何か懐かしい響きがある。60年代の初め、まだ実存主義の華やかなりし頃、日本でもジャック・プレベールの詩集『パロール』がもてはやされ(写真-ガリマール版より)、その中の『バルバラ』はイヴ・モンタンの語りで一世を風靡した。当時学生だった私もガリマール版のペパーバックを買込んでは、下手な発音で一人で読み耽った。
"Rappelle-toi Barbara
Il pleuvait sans cesse sur Brest ce jour-la
Et tu marchais souriante
Epanouie ravie ruisselante
Sous la pluie
・・・・・・"
「思いだして、バルバラ あの日のブレストはひきりなしの雨だった きみは微笑みながら歩いていた。 雨にぬれて晴れ晴れと輝くような表情で・・・・」


 結婚前の仏文科のノッコに下手な発音をよく笑われたものだった。50年代、60年代は反戦の時代だった。ベトナム戦争のアメリカは70年代も反戦の時代が続く。『バルバラ』も反戦詩だ。第二次世界大戦でブレストはドイツ軍に爆撃・占領され、鋼鉄の血の雨が降り注いだ。バルバラの恋と残虐な戦争とをダブらせて詠った反戦詩。ノンポリだった私も反戦歌を口ずさみ、反戦詩を読んだ。あの詩の最後にも雨の降るブレストが出てくる。ブレストは軍港だった。そして時は過ぎ、時代は変わった。反戦運動も消え、実存主義も消え、プレベールの詩集は本屋の棚から消えた。