モンパルナス界隈はスキップすることにした。古いカフェなど時間があれば訪れたいのはやまやまだが諦めた。モンパルナス墓地も次回にしよう。
カフェを出て、何を考えたのかメーヌ通りをラスパィユ大通りへ向かってブラブラ歩きだした。やはり無意識に、ロトンドに心が向いていたのだろうか。モンパルナスからリュクサンブール庭園は近い。このままラスパィユ大通りまで真直ぐ行ってしまうとリュクサンブール庭園がどんどん遠くなる。
『天文台の泉』の入口から入る手もあるが、庭園の中心まで延々とのびるオブセルバトワール通りを歩かなければならない。この道は人通りの少ない素敵な小道だが、これでは逆に遠回りになってしまう。今日は時間がないのだから最短で行かなければ。
それに気づいて、メーヌ通りを戻り、通りを途中で東へ抜けて、ヴァヴァンの店の手前を通って西側からリュクサンブール庭園へ入った。
パリ大学の第5分校の横を抜けると、朝の透明な陽の光に鮮やかに輝いている庭園の緑が眼に飛び込んで来た。暫く歩いていくと、あちらこちらで芝生に散水している。シュシュと音をたてながら霧となって水が回っている。
老人がひとり椅子に腰掛けて、日だまりの中でじっと動かない。少し離れたところでは白いブラウスの若い女性が本を広げて椅子に座り、木の葉の間から漏れてくる柔らかい朝の光を楽しんでいる。
「あー、やっと戻って来たね」
感慨がこみあげてくる。ノッコも同じ気持らしい。18年ぶりだ。顔の表情で判る。
大きな樹々のなかを小道にそってゆっくり歩く。イギリスでは余りにも緑が枯れていたので、たとえ散水してでも、これだけ緑が美しいと心がスーッとなごむ。
人形劇(ギニョール)の小屋の前に出た。今日は小屋も閉まっていて、ひっそりと人気もなく静まりかえっている。でも、目を閉じると、大勢の幼い子供達の喚声や落胆の溜息が聞こえてくるようだ。
「そら、やっちゃえ!」
「後ろからくるぞ! 逃げろ!」
子供たちがワイワイ叫んでる。チャオも仏語が解らないながら、あそこに座って手をたたいて楽しんだ。そんな情景が昨日のように目に浮かぶ。
そしてその前方に、リュクサンブール宮と正面の池が蜃気楼のように眼前に浮かび上がっている。
ミネソタの遠い日々
1970年の夫婦子供連れでのミネソタ大学、留学記録にもどうぞ