これでも4つ星ホテル? - 007 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 フロント係りはナポレオンみたいに真丸い顔をした小男だ。フロントやロビーや右手のレストランなど新しい感じの作りなのだが、57室の四つ星ホテルとしては余りにも安っぽくて特徴が無い。星の数に必要な設備だけ揃っていればいいという感じだ。

遠い夏に想いを-窓01  奥の小さなエレベーターで5階へ昇った。降りて直ぐ前が我々の部屋である。ドアを開けようとするが、どうしても開かない。どうにもならないので、1階に降りて、例のボーイをつかまえ、部屋までつれて来てドアを開けさせる。
「キーを挿し込んだら、取手を手前に引いて、キーを回して鍵を開けて下さい」
 こんなドアの開け方は世界中でもフランスだけだ。フランスのいやらしさが段々と過去の記憶の底から蘇ってくるのを覚えた。



遠い夏に想いを-窓02
 部屋の中は1階のロビーの安っぽさに比べて、グレーを色調とした、なかなかシックで、アールヌーボー風なところが洒落ているが、四つ星クラスとは言い難い。窓からの眺めは、市街ならどこでも同じで、左手にエッフェル塔の一部が屋根越しに見える。体を乗出すと右手にはシャンゼリゼ大通りが見える。



 まず、フランスでの予定を確認する必要があった。何よりも、電話をかけなければならない。最初に、パリのポールの家。ジュディが電話に出た。何年振りだろう。少し甲高かった声が、歳のせいだろうか、しっかりして落着いた声になっていた。
「引っ越したばかりで、散らかっているけど、今晩来ない?」


 次は、レンヌのフィリップの家に電話を入れた。フィリップが出た。相変わらず少しかすれた声でそっけない話しぶりである。パリを発つ汽車が決まったら、もう一度、知らせてくれとのことで電話を切った。


 フィリップは1985年頃だったろうか、東京で開催された農業経済の世界会議に出席するために日本を訪れている。久々に会ったフィリップだが、レンヌ大学の農学部学長らしく恰幅がよくなり、ミネソタにいた頃のイメージとはかなり違っていた。