またホテルまで歩くの? - 006 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 凱旋門を中心に時計周りに広場を歩き出した。昔、パリには3カ月近く住んでいたから、この辺りは何度も歩いていたので、地理には少々詳しいと思っていた。しかし、建物と道は殆ど変わっていないのに、18年間に細かい記憶と勘が失われている。距離はたいしたことないのだが、この猛暑の中でバッサノ通りの石畳の凸凹坂路をトランクをゴトゴト押してゆくのは全くシンドイ。

  

 そこで、パリで18年振りに新しい発見をするのである。パリには坂道が多い!坂はモンマルトルだけではないのだ。
 

 ホテル・エリゼ・バッサノは右岸の16区にあり、J・ジロー通りとの角にある40室のこじんまりとした3つ星ホテルである。角の入口から入ると、小さなフロントがあり、係りの若い女の子が豊かな胸と輝くばかりの金髪をゆすらせて、しつこそうな中年の男性客を相手に悪戦苦闘していた。


遠い夏に想いを-マリニヤン  やっと、こちらの番になったと思ったら、彼女は思いもかけない事を言う。
 「申し訳ありません。先客が滞在を伸ばしたいと言って部屋を出ないのです」
やりとりはノッコまかせだが、これには弱った。
「でも、ご迷惑はお掛けしません。グループ内のホテルのエリゼ・マリニャンに部屋は手配してあります」
「・・・・・」
「四つ星クラスのホテルですからここよりは上等です。料金はここと同じで結構です」
「どうやって行ったらいいの」
「すぐ近くですが、タクシーで行って下さい。タクシー代はホテル側で払います」(写真:ホテルの窓から右奥にシャンゼリゼ大通りを見下ろす)
 

 マリニャン通りは隣の8区にあり、ここから歩いて行ける距離だが、歩くのはもうご免だ。タクシーを拾う。ホテルに着くと、若いボーイが出てきたので、「おーい」と少々唐突ではあったが怒鳴ったら、この男、ホテルの中へ消えてしまった。仕方無くタクシーの運転手に金を払い、「レシート」と言ったら、「レシートはない」と運転手は車を走らせて、あっという間にいなくなった。