もうフランスだ - 001 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。


遠い夏に想いを-Old fashioned  今はどこの空港も機能的で、内装や人工照明がコンピューター・グラフィック的でモダンではあるが、最新のホテルかショッピング・センターのようで、余り好きになれない。アメリカの空港もみな同じで、デズニーランドの世界みたいだ。ロンドンやパリの鉄道駅のごとく、人間味溢れる昔のターミナルは旅の気分をいやがうえにも高揚させ、旅の醍醐味を満喫させてくれるのに。



 今年の12月にはドーバー海峡の海底トンネルの試掘坑が貫通する予定だ(90年8月時点ではまだ完成していなかった)。当時の新聞は海底トンネルの話題でもちきりだった。フォークストーンからカレーまで海路では約38キロ、海底トンネルでは約49キロと少し長い。トンネルの全長では津軽海峡の青函トンネルに及ばないが、海峡部分では世界一である。1993年には本坑が完成し、国際特急列車が3時間でロンドン・パリ間を結ぶ。この次ドーバー海峡を渡る時は、海底を汽車で行きたい。


 ほぼ定刻に搭乗が始まった。11時15分発英国航空308便のDC9は満員という程ではなかった。いかにもイギリス娘らしいスチュワーデスが元気よく通路を歩き回る。飛行機はほどなく離陸した。ロンドン上空を旋回し、高度を上げ、ドーバーの白い壁を越え、英仏海峡に達した。窓の外は昔と同じように青と光だけの世界となり、私達を過去の想いへ引ずり込む。


 パリへは1時間ほどで着く。海峡を越えてノルマンディーの上空で、飛行機は高度を下げる。眼下には刈入れの済んだ畑が点々と広がっている。